【完結】拗ねていたら素直になるタイミングを完全に見失ったが、まあいっか

ムキムキゴリラ

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小話2. ラーラ

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 ラーラは侯爵家の令嬢だ。彼女は父を尊敬し、公爵令嬢の母を誇りに思っていた。両親にふさわしいようにと、自らを律して、勉学に励み、淑女たる気品を身につけた。学生時代、「学内一の貴婦人」と囁かれ、母は頑張り屋さんねと彼女を褒めた。
 学校を卒業後、ラーラは皇太子の側室に選ばれた。彼女は皇太子妃や他の側室と共に皇太子殿下、未来の皇帝陛下を支えていければという夢を見ていた。しかし、他の側室は一人は役割を放棄し、他の二人の側室は協調性が乏しかったため、すぐに諦めた。それでも、皇太子殿下を自分の立場から支えるという夢は保ったままだった。
「君がラーラだね。これからよろしく」
 優しく声をかけられたラーラは側室とは言え、夫となる殿下の力になりたいと思った。それから、自分のもとに訪れた時には、殿下が心安らぐ空間となるように気を配り、何か不便そうなことがあれば差し出がましくない限り、手を尽くすようにした。
「ラーラ、この本を探していたんです。ありがとう」
「ラーラ、この前のわらび餅とても美味しかったよ。ありがとう」
「ラーラ、あなたのような気品のある方がいてくれて助かるよ。ありがとう」
 ラーラは殿下に名前を呼ばれ、感謝の言葉を頂ける、ただそれだけで満足だった。
 それから、子供を授かり、殿下はさらにラーラの身を案じるようになった。
「ラーラ、大丈夫?無理はしないでね」
「ラーラ、身体を温めてゆっくり過ごしてね」
 ラーラは殿下に大事にされることで何かが満たされていくように感じた。しかし、ラーラには殿下が皇太子妃殿下を一番大切になさっているとわかっていた。なぜなら、ラーラが皇太子妃の身を案じると決まって優しげな表情をしていたからだ。それでも、殿下を求めてしまうと、ラーラは自身がどんどん欲深くなっているように感じた。しかし、ラーラは皇太子妃殿下ならば仕方ないと自らを律した。
 ある日、ラーラは日課の散歩していると、皇太子妃に出会った。
「皇太子妃殿下にご挨拶申し上げます」
「ラーラさん、楽になさって、大切な身体ですもの」
「ありがとうございます」
「当然のことです。殿下のお子ですし、わたくしも大変な思いをしましたのよ」
「お心遣い感謝致します」
 皇太子妃殿下は一人目の男子を産む際に、悪阻に苦しんだと聞いている。彼女はいつも穏やかな微笑みをたたえた公平な方で、殿下にふさわしいとラーラは感じていた。
「そういえば、殿下はどこにいらっしゃるのか、ご存知ありません?」
「申し訳ありませんが、わたくしには心当たりありませんわ」
「また、カンラン宮かしら……」
 カンラン宮は殿下の最初の側室であるソフィアに与えられているところだ。殿下は時折、足を運んでいると噂になっていた。ラーラは側室としての仕事を放棄しているソフィアを白い目で見ていた。
「ソフィアさんはあまり帰られていないと聞いていますわ」
「ええ、それでも、殿下は足を運びたくなるのよ」
 皇太子妃は諦めたように微笑んだ。
「仕様のないことです。ソフィアさんは殿下の唯一の人ですもの」
「まさか……!殿下は妃殿下のことを何より大切に思っておられますわ」
「ラーラさん、ありがとう。ですが、わたくしはしっているのです。殿下は学生の時分から、ソフィアさん一人を愛しておられるのよ」
 皇太子妃は体調に気をつけてと言うと、殿下をお探しに行った。
 ラーラはその後、自分の宮にどうやって帰ったのか覚えていなかった。頭が真っ白になっていた。そのショックでラーラは産気づいてしまったほどだった。そして、彼女はつつがなく元気な男の子を産んだ。
「ラーラ、身体は大丈夫?」
「はい、殿下。もう大丈夫ですわ」
「安静にしてね」
「ありがとうございます。あの子は殿下によく似ています。きっと頼り甲斐のある素敵な殿方になりますわ」
「私はあなたに似てほしい。あなたのように聡明で気品ある人になってほしいな」
 殿下は愛おしそうに子どもを抱き上げた。何があってもあの子を守ってくれるような頼もしさを感じた。
 そして、ラーラは殿下にソフィアのことを聞くことができなかった。
 それから、月日が経ち、皇太子妃の言葉が薄れてきた頃、殿下がセーリョー殿にソフィアを連れて行ったという知らせが入った。あそこは皇太子妃殿下だけが招かれたことのある、いわば特別な場所だった。ラーラはソフィアがどのような女なのか見なければならないと思い、つい、朝早くから待ち伏せをして、ソフィアに声をかけた。
 ラーラはソフィアを至って平凡な女だと思った。そして、今までのことが嵐のように頭をよぎった。
「殿下が私をセーリョー殿に招いてくださったのです」
「皇太子殿下はまたカンラン宮を訪れたそうよ」
「ソフィアさんは殿下の唯一の人ですもの」
 ラーラはただただソフィアを恨めしいと思った。恨めしくて恨めしくて、もうどうしようもなかった。




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