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その後、ほぼ毎日のように、ドミートリーの歴史と文字の授業は続けられたが、もともと無学なあたしには、理解できないことが多すぎた。
「ワリャーグ人の王国が分裂して、ゴーリキー公国とキーウ公国の二大国ができたあたりまではわかるんですが、これ以上はあたしの無学な頭では理解できません。申し訳ありません」
「いや、教育を受けられなかった庶民が無学なのは仕方ない。僕こそ、教育を受けた貴族みたいに、ソフィーを扱ってしまい、悪いことをした。でも、これから話すことは、心して聞いてほしい。場合によっては、ソフィーに重大な決断を迫ることになるから」
ドミートリーは、急に真顔になる。あたしは、何を聞かされるのかと、ドキリとした。
「実は、僕はポーレ村に、革命の志士を探しに来たんだ。今の専制君主制と、汚職や腐敗にまみれた貴族や官吏たちの政権を倒すためのね。僕は立憲制を理想としているが、今の皇帝陛下のもとでは、立憲制なんて不可能だ。権力の犬どもが、必ず邪魔をしに来る。立憲制を目指す志士たちは、何年も投獄されるか、死刑にされるかだ。もはや、平和的に皇帝陛下の慈悲や温情にすがって、立憲制を勝ち取るのは不可能なんだ。そこで、ソフィーたちの若い力が必要になる」
話が急すぎて、あたしには何が何だかわからなかった。そもそも、革命や志士なんて言葉自体、初めて聞くもので、意味もわからない。
「あの、あたしみたいなバカにも、ちゃんとわかるように説明していただけませんか?」
「簡単に言うと、我が国を平和的に理想郷に導くのは不可能だから、無学な農民に立憲制の必要性を説き、力ずくで理想郷を実現させようってわけさ」
「まだ、よくわかりませんが、それは強訴ですか? 一揆みたいな」
「強訴じゃない。蜂起だよ。強訴は領主に農民の要求を聞いてもらうだけだが、蜂起はその程度のものじゃない。領主を倒して農民の政権を作るんだ」
あたしは、顔から血の気が引いていくのがわかった。
「冗談はよしこさんですよ! 蜂起なんか起こして失敗したら、村人は皆殺しじゃないですか。そんな危ない橋を渡りたいなら、ドミートリー様お一人でやってください。あたしには守るべき親兄弟がいるんですから」
ドミートリーは、しばらくあたしのほうを呆然と眺めていたが、やがて、ため息をついた。
「そうか。ソフィーでもダメだったか。やはり、幼少期から帝王学を学ばされてきた貴族と違って、庶民は何をするにも及び腰だな。でも、僕はもう、革命に一生を捧げると決めたんだ。ソフィーがついてこないなら、僕一人でもやる。ポーレ村に有志がいないなら、近隣の村まで有志を探しに行く」
ドミートリーは歴史の本を閉じると、村長さんの家のほうへと歩いていった。その後ろ姿を眺めていると、胸の奥がズキンと痛んだ。理由もなく、涙まであふれてくる。
(あたし、なぜ、ドミートリー様についていくと言わなかったんだろう? 家族が大事だから? だったら、家を出てしまえば良いんじゃないの?)
気がつくと、あたしはドミートリーの背中に追いすがり、後ろから抱きしめた。
「ドミートリー様、あたし、やっぱりドミートリー様について行きます。何でもしますから、どうか、一緒に行かせてください。あの、その」
あたしは口ごもるが、やがて感情のほとばしるままに叫ぶ。
「ドミートリー様、あなたのことが好きなんです!」
ドミートリーは優しい目をすると、スルリとあたしの手を離す。
「ソフィーの気持ちは嬉しいし、僕も願ったり叶ったりだが、まずは親兄弟の承諾を得なさい。正教にも、『未成年のうちは父に従え』とあるだろう」
こう言われたら、為す術もない。あたしは帰宅し、夕飯を食べながら、ドミートリーの件を話してみた。
「はぁ? ダメに決まっているだろう。だいたい、ソフィーがいなくなれば、誰が弟や妹の面倒をみるんだ? それに麦畑で働く労働力も減ってしまう。そうなれば、租税も払えなくなるぞ」
父はあくまでも強硬に反対した。
「そうよ。お母さんだって、ソフィーに革命をやってほしくて育ててきたわけじゃないのよ。ソフィーは将来、村の良い男のもとに嫁にいってほしいんだから。貴族様のボンボンの妾になれば、いいようにもてあそばれて、飽きられたら捨てられるだけよ」
強硬に反対する両親だったが、あたしも負けてはいない。
「ねえ、お父さん、お母さん。昔から、『自分のことは自分で責任をもって決められるのが大人だ』って言ってたよね。あたしも、ドミートリー様についていくかどうかは、自分で決めたい。この機会を逃したら、村の外に出られないかもしれないもん。あたしは広い世界を見たいのよ」
だが、父は怒りの形相で、木のテーブルを拳でたたいた。
「何を言っているんだ? 農民に旅や移住の自由がないことは、ソフィーも知ってるだろう。農民が勝手によその貴族様の領地に移住したら、ポーレ村の労働力が減ってしまうから、村人皆が、ここの領主の貴族様から罰を受けることになる。ソフィーのやろうとしていることは非常識きわまりないことだぞ」
そのとき、出入り口の扉をドンドンと叩く音がした。母が「はい、はい、どなたですか?」と叫びながら扉へと向かう。
「すみません、遅くに。イワノフ伯爵の息子、ドミートリーと申します。どうしても、ソフィーの親御さんに申し上げたいことがありまして、参上いたしました」
それを聞いた家族は仰天した。
「ええっ? 領主の伯爵様のご令息が、いかなるご用事で?」
とにかく、急いで出入り口の扉を開ける。
「ワリャーグ人の王国が分裂して、ゴーリキー公国とキーウ公国の二大国ができたあたりまではわかるんですが、これ以上はあたしの無学な頭では理解できません。申し訳ありません」
「いや、教育を受けられなかった庶民が無学なのは仕方ない。僕こそ、教育を受けた貴族みたいに、ソフィーを扱ってしまい、悪いことをした。でも、これから話すことは、心して聞いてほしい。場合によっては、ソフィーに重大な決断を迫ることになるから」
ドミートリーは、急に真顔になる。あたしは、何を聞かされるのかと、ドキリとした。
「実は、僕はポーレ村に、革命の志士を探しに来たんだ。今の専制君主制と、汚職や腐敗にまみれた貴族や官吏たちの政権を倒すためのね。僕は立憲制を理想としているが、今の皇帝陛下のもとでは、立憲制なんて不可能だ。権力の犬どもが、必ず邪魔をしに来る。立憲制を目指す志士たちは、何年も投獄されるか、死刑にされるかだ。もはや、平和的に皇帝陛下の慈悲や温情にすがって、立憲制を勝ち取るのは不可能なんだ。そこで、ソフィーたちの若い力が必要になる」
話が急すぎて、あたしには何が何だかわからなかった。そもそも、革命や志士なんて言葉自体、初めて聞くもので、意味もわからない。
「あの、あたしみたいなバカにも、ちゃんとわかるように説明していただけませんか?」
「簡単に言うと、我が国を平和的に理想郷に導くのは不可能だから、無学な農民に立憲制の必要性を説き、力ずくで理想郷を実現させようってわけさ」
「まだ、よくわかりませんが、それは強訴ですか? 一揆みたいな」
「強訴じゃない。蜂起だよ。強訴は領主に農民の要求を聞いてもらうだけだが、蜂起はその程度のものじゃない。領主を倒して農民の政権を作るんだ」
あたしは、顔から血の気が引いていくのがわかった。
「冗談はよしこさんですよ! 蜂起なんか起こして失敗したら、村人は皆殺しじゃないですか。そんな危ない橋を渡りたいなら、ドミートリー様お一人でやってください。あたしには守るべき親兄弟がいるんですから」
ドミートリーは、しばらくあたしのほうを呆然と眺めていたが、やがて、ため息をついた。
「そうか。ソフィーでもダメだったか。やはり、幼少期から帝王学を学ばされてきた貴族と違って、庶民は何をするにも及び腰だな。でも、僕はもう、革命に一生を捧げると決めたんだ。ソフィーがついてこないなら、僕一人でもやる。ポーレ村に有志がいないなら、近隣の村まで有志を探しに行く」
ドミートリーは歴史の本を閉じると、村長さんの家のほうへと歩いていった。その後ろ姿を眺めていると、胸の奥がズキンと痛んだ。理由もなく、涙まであふれてくる。
(あたし、なぜ、ドミートリー様についていくと言わなかったんだろう? 家族が大事だから? だったら、家を出てしまえば良いんじゃないの?)
気がつくと、あたしはドミートリーの背中に追いすがり、後ろから抱きしめた。
「ドミートリー様、あたし、やっぱりドミートリー様について行きます。何でもしますから、どうか、一緒に行かせてください。あの、その」
あたしは口ごもるが、やがて感情のほとばしるままに叫ぶ。
「ドミートリー様、あなたのことが好きなんです!」
ドミートリーは優しい目をすると、スルリとあたしの手を離す。
「ソフィーの気持ちは嬉しいし、僕も願ったり叶ったりだが、まずは親兄弟の承諾を得なさい。正教にも、『未成年のうちは父に従え』とあるだろう」
こう言われたら、為す術もない。あたしは帰宅し、夕飯を食べながら、ドミートリーの件を話してみた。
「はぁ? ダメに決まっているだろう。だいたい、ソフィーがいなくなれば、誰が弟や妹の面倒をみるんだ? それに麦畑で働く労働力も減ってしまう。そうなれば、租税も払えなくなるぞ」
父はあくまでも強硬に反対した。
「そうよ。お母さんだって、ソフィーに革命をやってほしくて育ててきたわけじゃないのよ。ソフィーは将来、村の良い男のもとに嫁にいってほしいんだから。貴族様のボンボンの妾になれば、いいようにもてあそばれて、飽きられたら捨てられるだけよ」
強硬に反対する両親だったが、あたしも負けてはいない。
「ねえ、お父さん、お母さん。昔から、『自分のことは自分で責任をもって決められるのが大人だ』って言ってたよね。あたしも、ドミートリー様についていくかどうかは、自分で決めたい。この機会を逃したら、村の外に出られないかもしれないもん。あたしは広い世界を見たいのよ」
だが、父は怒りの形相で、木のテーブルを拳でたたいた。
「何を言っているんだ? 農民に旅や移住の自由がないことは、ソフィーも知ってるだろう。農民が勝手によその貴族様の領地に移住したら、ポーレ村の労働力が減ってしまうから、村人皆が、ここの領主の貴族様から罰を受けることになる。ソフィーのやろうとしていることは非常識きわまりないことだぞ」
そのとき、出入り口の扉をドンドンと叩く音がした。母が「はい、はい、どなたですか?」と叫びながら扉へと向かう。
「すみません、遅くに。イワノフ伯爵の息子、ドミートリーと申します。どうしても、ソフィーの親御さんに申し上げたいことがありまして、参上いたしました」
それを聞いた家族は仰天した。
「ええっ? 領主の伯爵様のご令息が、いかなるご用事で?」
とにかく、急いで出入り口の扉を開ける。
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