婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
27 / 54

第27話 ルシルの竜の爪

しおりを挟む
 私が意識を取り戻すと、すぐそこにアイザックがいました。

 アイザックの手が、私の手を握っている。
 目が覚めた時に恋人が側にいてくれることのありがたさを、私は初めて知りました。

 ──ずっと、ついていてくれたんだ。

 アイザックはいま、とんでもなく忙しいはずなのにね。


 それで、私はなんで寝ていたんだっけ?
 たしか会議室で竜茶ってのを飲んだところまでは覚えているんだけど──


 記憶が曖昧になっている私がボーっとしている間に、医者が呼ばれ、すぐに検診を受けました。
 その間に、何が起こったのか私はすべて思い出します。


 そうだ……私、竜茶を飲んだら倒れたんだ!


 医者によれば、体に問題はないらしい。
 アイザックが竜の爪のせんじ薬を飲ましてくれたから、それが効いたのだろうということだった。


「アイザックが助けてくれたんだね……ありがとう」

「ルシルが俺の爪を持っていてくれたおかげだ」


 10年前。
 私は竜の山で、竜の爪を拾った。

 その竜の爪は、竜の姿をしていた時のアイザックの物だったわけだけど、今回その竜の爪のおかげで私の命は救われた。
 アイザックと私の縁を感じられずにはいられない。


「それで……私が倒れたのは、やっぱり毒が原因だったの?」

「それがどうも、違うらしい。ルシルの竜茶からもティーカップからも毒は検出されなかった」


 ということは、過労かなんかで倒れたのかな?
 それにしては変な味がしたし、いまだに体が本調子じゃないのだけど。


「どういう手段でルシルを狙ったのか知らないが、犯人がいるのであれば必ず俺が探し出す! ルシルはしばらくは安静にしてくれ」

「そんな大げさに考えなくてもいいよ。私の体調不良かもしれないし……」


 とはいえ、毒が検出されなかっただけで、そういった新種の毒の可能性もある。
 けれども証拠がないのに、憶測を言うのは危険だ。

 まだ、私が狙われたと決まったわけではないのだから。


「それと、イライアス第二王子とヴォーテックス大臣は、毒を入れた犯人ではないと容疑を否定している。立場的には怪しいが、二人もあの場でルシルを毒殺するほど馬鹿ではないはずだ」

「ヴォーテックス大臣が開いた会議なんだし、もしもそれで私が死んだら私が犯人ですって言っているようなものだしね」


 そう考えると、二人は犯人ではないのでしょう。
 となると、やっぱり私の体調不良が原因なのかな。


「そのうえで、イライアス第二王子とヴォーテックス大臣はともルシルに見舞いの面会を希望したが、丁重に断っておいた」

「助かるわ。まだ誰かと会うほど体力が回復していないから」


 あれからずっと、ベッドで寝たきり生活なのだ。
 こんな姿、他人に見られたくない。

 そういえば私は、丸三日も寝ていたらしい。
 その間アイザックはもう二度と私が目覚めないんじゃないかとかなり心配していたらしく、現在私への態度が最高潮に達している。

 数分おきに「なにか欲しいものはあるか?」「竜の本を持ってこようか?」などと、尋ねてくるものだから、ついわずわしくなって一気に欲しいものを頼んでしまった。

 その結果、図書室にあった本が私の寝室に積まれ、さらには私の竜研究室が隣の部屋に誕生してしまった。
 これで元気になったら、いつでも研究ができる!


「それにしても……」

 アイザックは時間も忘れて、私のためにせっせと尽くしてくれている。
 たまには病人になるのも、悪くないかも。


「そういえばアイザックは、竜の爪が薬になるってどこで知ったの?」

 竜研究をしていた私ですら、その知識は持ち合わせていない。
 ジェネラス竜国に伝わる、民間医療のようなものだろうか。

 まさか竜の爪にそんな効果があったなんてと、非常に興味がある。
 早く研究したいわね。


「竜の爪のことは、竜天女りゅうてんにょの伝承にあったんだ。やまいで倒れた竜天女に竜の爪を煎じた薬を飲ませたら、治ったと伝わっている」

「……ねえ、その竜天女っていったい誰なの?」


 ずっと気になっていたのだけど、結局まだ調べられていないのよね。


「竜天女はジェネラス竜国初代国王の妻であり、初代王妃であり……そして人族の人間だ」

「竜天女が人間……?」


 まさかジェネラス竜国の初代王妃が、人間だったなんて。

 だからアイザックは私のことを、『俺の竜天女』と言っていたのね。
 王の妻となる私と、竜天女を掛けていたのだ。


「ちょっと待って、竜天女が人間で、初代王妃っていうことは……」

「そうだ、竜天女は俺の先祖でもある」


 初代国王である竜と、初代王妃である竜天女の子供が、二代目国王になった。
 そうして代替わりしていき、アイザックへと辿り着くらしい。


「なら、竜と人との間に、子供はできるんだ……」


 庭園のお茶会で、大臣の娘であるリップルにこう侮辱された。


『神竜族であるアイザックと人族であるルシルの間に、子供はできない』


 悔しいと思った。
 種族が違うというだけで、私たちは普通の夫婦のような幸せはつかめないのだと。

 だけど、違ったんだ。
 私とアイザックの間でも、子供ができる。


 まだ子供を産むということは考えられないけど、いまはこのことがわかっただけで十分。


「ルシル、どうかしたのか?」

「ううん。良いことが聞けて、ちょっと気持ちが軽くなっただけよ」


 アイザックは私のことを、『俺の竜天女』と呼んだ。

 そして、私もなりたい。
『アイザックの竜天女』に。


 アイザックの妻になる。

 ぼんやりとしていたその未来を、この時にやっと私は受け入れることができました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

公爵閣下のご息女は、華麗に変身する

下菊みこと
ファンタジー
公爵家に突然引き取られた少女が幸せになるだけ。ただのほのぼの。 ニノンは孤児院の前に捨てられていた孤児。服にニノンと刺繍が施されていたので、ニノンと呼ばれ育てられる。そんな彼女の前に突然父が現れて…。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス
恋愛
暴君と名高い第二王子ジェレマイアに、愛しのお嬢様が嫁ぐことに! どうにかしてお嬢様から興味を逸らすために、媚びを売ったら愛されて執着されちゃって…? 幼い頃、子爵家に拾われた主人公ビオラがお嬢様のためにジェレマイアに媚びを売り 後継者争い、聖女など色々な問題に巻き込まれていきますが 他人の健康状態と治療法が分かる特殊能力を持って、お嬢様のために頑張るお話です。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています ※完結しました!ありがとうございます!

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

処理中です...