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第三章 王立学校
第三章蛇足⑨ サヤノ
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「あ」
「あら」
不意に目が合ってしまった女性、特に親しいわけではないのだが、全く知らない他人ということでもないので思わず言葉に詰まる。
そんな俺の様子に気を遣ったのか彼女は、
「えと……たしか石動くん……やったっけ?」
「あ、はい。そうです」
薄灰色の髪を靡かせ、一つ年上の先輩、『鉛姫』ことサカキバラ・サヤノがこちらに歩いてきた。
何の用だ?と、疑問が頭を飛び交い顔が硬直して自然と身構えてしまう。
「そんな警戒せんでもええで。別に取って食ったりなんかせぇへんよ」
「はは……」
「ま、武闘祭のこと根に持ってない言うたら、嘘やけど」
「あー……」
全学年でぶつかり合う武闘祭のサバイバル戦。そこで俺は彼女と戦い、勝利した。もっとも、その時は二対一であったので少々バツが悪い。
共闘自体は禁止されてはいないのだが、どうしてもこの気持ちを拭うことはできないな。
「あの戦いに負けたせいで、ウチの将来設計ぐちゃぐちゃやわ。どう責任とってもらお」
サヤノはそう目を細めて冷たい視線で突き刺してくる。
「え……」
発せられた言葉の重さを俺が感じる前に表情を緩め、
「……なーんてな! 軽い冗談や! ウチがそんな性悪に見える?」
「見え……ないです。はい」
つい、「見えます!」と言ってしまいそうになった口を、どうにか制御した自分を今は褒めたい。
実際、鉛玉を一発ぶち込まれるかも、くらいは考えていた。
確かに、三年生からすればあの試合は人生の分岐点と言っても差し支えない。それを奪ったからには相応の責任もとい、振る舞いが求められるだろう。
「にしても、休日にまで図書館に来て随分と偉いなぁ。何か探しもん?」
「はい。鬼の生態を調べてて」
「鬼の……ああ、君の使い魔のこと?」
「そうです。何か本人の記憶が無いみたいで」
今日は雷鳴鬼に関する情報を集めるために俺は図書館へと来た。使い魔という生き物は‘‘魔界‘‘からやって来た存在なので、現状俺が持っている生物学の知識は役に立たない。故に、新しい知識を得るべく無難に本を……と考えたのだ。
「ふぅん……大変やなぁ……にしても、君の使い魔って結構珍しいやんな」
「そうですね。周りでも人型の使い魔連れてるのって全然いなくて」
そもそも、俺の知っている使い魔を使役している人が極端に少ないというのもある。
しかし、三年生の彼女が言うのだからやはり人型はかなり珍しい部類に入るのだろう。
そう考えていたのだが、
「うーん、それもあるけど、他の鬼とちょっと違うやんか」
「え?」
サヤノは怪訝な顔でそう話す。
「ほら、鬼ってもっと禍々しい見た目やんか? でも、キミのは愛らしい女の子や。それも限りなく人に近い見た目しとる。魔界の生き物っていうよりは、どちらかと言うと精霊……」
‘‘精霊‘‘という単語を言いかけたところで首を振り、
「まぁ、角生えとるからそれは無いか」
とすぐさまそれを否定する。
「精霊って、精霊使いの?」
「そ。とはいえ精霊なんて、めったに呼び出せへんしなぁ」
「精霊……」
いる、という話は前にメアから聞いたことがある。その時は「まぁ、異世界だしな」と楽観的に考えていたが、まさかそこまで珍しい存在だとは。
「気になっとる? せやんなぁ、だって精霊は可愛い子ばっかやもんなぁ」
「ち、違いますよ! 単にその溢れるファンタジー感に感動していただけで……」
「あやし~」
口元を緩めてこちらを煽るように先輩は見てくる。その薄灰色の眼と視線が合い、得体の知れない焦燥感が一気に押し寄せてきて、顔を斜め上に逸らした。
なんとか話題を変えよう。うん。
「うっ……そ、そういえば先輩はどうしてここにっ?」
「誤魔化した……ま、勘弁しといたる。ウチはこれから勉強三昧やからな~。できるだけ休みの日も自習しようとここに来た訳や」
「へ、へぇ~……」
「もっとも、その原因は誰かさんに負けたせいやけどなぁ」
またもや地雷を踏んでしまい、冷や汗が一気に噴き出る。気を付けようとした矢先にこれだ。
「って、これはちょっと意地悪やったな。ごめんごめん」
「あ、いや、俺の方こそすみません」
「ふふーん、認めるんや……自分が悪かったって」
「あ、え……」
先輩は俺の額に指を伸ばし、軽く弾いた。
「いてっ!」
「勝った方がそんな態度じゃあかんよ。もっと堂々としてもらわな。負けた癖に文句言うなーって、反論するくらい胸張ったらええ。なんせ、うちに勝ったんやから」
「そう……ですか?」
「そうや。ま、そんな事言われたら思わず玉、撃ち込んじゃうかもしれへんけど♡」
「え、えぇ~……」
陰がありそうな笑みを浮かべ、先輩は俺の心臓があるところに指を伸ばす。そのまま指を胸から上にずらしていき顎へと動かし、指に顎先を乗せ俺の顔を少し上へと上げる。
これが顎クイなのか? なんてくだらないことを考えていると、下から覗き込んできた先輩と眼が合い、品定めされているかのような感覚が肌に伝わる。
少しの間を置いた後、
「ふふ、今日はこの辺で失礼させてもらうわ。何か相談したいことあったら、気軽に聞いてな」
指をそっと離して、ひらひらと手を振りながら先輩は歩いていった。
思わずドキッとしたのが、命の危機を感じたからなのか、はたまた別の理由なのか、俺には分からなかった。
「あら」
不意に目が合ってしまった女性、特に親しいわけではないのだが、全く知らない他人ということでもないので思わず言葉に詰まる。
そんな俺の様子に気を遣ったのか彼女は、
「えと……たしか石動くん……やったっけ?」
「あ、はい。そうです」
薄灰色の髪を靡かせ、一つ年上の先輩、『鉛姫』ことサカキバラ・サヤノがこちらに歩いてきた。
何の用だ?と、疑問が頭を飛び交い顔が硬直して自然と身構えてしまう。
「そんな警戒せんでもええで。別に取って食ったりなんかせぇへんよ」
「はは……」
「ま、武闘祭のこと根に持ってない言うたら、嘘やけど」
「あー……」
全学年でぶつかり合う武闘祭のサバイバル戦。そこで俺は彼女と戦い、勝利した。もっとも、その時は二対一であったので少々バツが悪い。
共闘自体は禁止されてはいないのだが、どうしてもこの気持ちを拭うことはできないな。
「あの戦いに負けたせいで、ウチの将来設計ぐちゃぐちゃやわ。どう責任とってもらお」
サヤノはそう目を細めて冷たい視線で突き刺してくる。
「え……」
発せられた言葉の重さを俺が感じる前に表情を緩め、
「……なーんてな! 軽い冗談や! ウチがそんな性悪に見える?」
「見え……ないです。はい」
つい、「見えます!」と言ってしまいそうになった口を、どうにか制御した自分を今は褒めたい。
実際、鉛玉を一発ぶち込まれるかも、くらいは考えていた。
確かに、三年生からすればあの試合は人生の分岐点と言っても差し支えない。それを奪ったからには相応の責任もとい、振る舞いが求められるだろう。
「にしても、休日にまで図書館に来て随分と偉いなぁ。何か探しもん?」
「はい。鬼の生態を調べてて」
「鬼の……ああ、君の使い魔のこと?」
「そうです。何か本人の記憶が無いみたいで」
今日は雷鳴鬼に関する情報を集めるために俺は図書館へと来た。使い魔という生き物は‘‘魔界‘‘からやって来た存在なので、現状俺が持っている生物学の知識は役に立たない。故に、新しい知識を得るべく無難に本を……と考えたのだ。
「ふぅん……大変やなぁ……にしても、君の使い魔って結構珍しいやんな」
「そうですね。周りでも人型の使い魔連れてるのって全然いなくて」
そもそも、俺の知っている使い魔を使役している人が極端に少ないというのもある。
しかし、三年生の彼女が言うのだからやはり人型はかなり珍しい部類に入るのだろう。
そう考えていたのだが、
「うーん、それもあるけど、他の鬼とちょっと違うやんか」
「え?」
サヤノは怪訝な顔でそう話す。
「ほら、鬼ってもっと禍々しい見た目やんか? でも、キミのは愛らしい女の子や。それも限りなく人に近い見た目しとる。魔界の生き物っていうよりは、どちらかと言うと精霊……」
‘‘精霊‘‘という単語を言いかけたところで首を振り、
「まぁ、角生えとるからそれは無いか」
とすぐさまそれを否定する。
「精霊って、精霊使いの?」
「そ。とはいえ精霊なんて、めったに呼び出せへんしなぁ」
「精霊……」
いる、という話は前にメアから聞いたことがある。その時は「まぁ、異世界だしな」と楽観的に考えていたが、まさかそこまで珍しい存在だとは。
「気になっとる? せやんなぁ、だって精霊は可愛い子ばっかやもんなぁ」
「ち、違いますよ! 単にその溢れるファンタジー感に感動していただけで……」
「あやし~」
口元を緩めてこちらを煽るように先輩は見てくる。その薄灰色の眼と視線が合い、得体の知れない焦燥感が一気に押し寄せてきて、顔を斜め上に逸らした。
なんとか話題を変えよう。うん。
「うっ……そ、そういえば先輩はどうしてここにっ?」
「誤魔化した……ま、勘弁しといたる。ウチはこれから勉強三昧やからな~。できるだけ休みの日も自習しようとここに来た訳や」
「へ、へぇ~……」
「もっとも、その原因は誰かさんに負けたせいやけどなぁ」
またもや地雷を踏んでしまい、冷や汗が一気に噴き出る。気を付けようとした矢先にこれだ。
「って、これはちょっと意地悪やったな。ごめんごめん」
「あ、いや、俺の方こそすみません」
「ふふーん、認めるんや……自分が悪かったって」
「あ、え……」
先輩は俺の額に指を伸ばし、軽く弾いた。
「いてっ!」
「勝った方がそんな態度じゃあかんよ。もっと堂々としてもらわな。負けた癖に文句言うなーって、反論するくらい胸張ったらええ。なんせ、うちに勝ったんやから」
「そう……ですか?」
「そうや。ま、そんな事言われたら思わず玉、撃ち込んじゃうかもしれへんけど♡」
「え、えぇ~……」
陰がありそうな笑みを浮かべ、先輩は俺の心臓があるところに指を伸ばす。そのまま指を胸から上にずらしていき顎へと動かし、指に顎先を乗せ俺の顔を少し上へと上げる。
これが顎クイなのか? なんてくだらないことを考えていると、下から覗き込んできた先輩と眼が合い、品定めされているかのような感覚が肌に伝わる。
少しの間を置いた後、
「ふふ、今日はこの辺で失礼させてもらうわ。何か相談したいことあったら、気軽に聞いてな」
指をそっと離して、ひらひらと手を振りながら先輩は歩いていった。
思わずドキッとしたのが、命の危機を感じたからなのか、はたまた別の理由なのか、俺には分からなかった。
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