魔女ローヴァちゃんと退魔の剣

Ryo

文字の大きさ
3 / 5

ふしぎなせかいのローヴァ

しおりを挟む
 しばらくいくと、のらネコがみちばたにたちどまっていた。
 ぼくらがちかづいても、とおりすぎても、ピクリともうごかない。
 上をみると、でんせんにスズメが、今まさにとまろうとつばさをひろげている。
 カッコよくひらいたつばさはそのまま、でんせんのてまえでピタリととまってうごかない。
 ほんとう、にじかんがとまっているんだ。

 ローヴァは、みちをずんずんすすんでいく。
 だいじょうぶかな?

「ローヴァ、この先はいきどまりだよ」

「だいじょうぶ!
 ローヴァにおまかせ!」

 ふりかえって、うしろあるきしながら、ローヴァはようきにいった。
 ちかくでよくみても、やっぱりいくつなのかぜんぜんわからない。

 すぐに、しらない人の家がみえてきた。
 門の横のかきねには、あながあいている。
 どうするのかと思ってみていると、ローヴァは体をかがめてあなに入ろうとするんだ。

「いいの?
 しらない人におこられちゃうよ?」

「へいきへいき!
 じかんはとまっているし、このさきはしらない人の家じゃないから」

 ほんとうに、ローヴァはよくわからない。
 でも、すくなくともおこられることはなさそうだから、ぼくもあなにはいってみることにした。

 かきねって、木というには小さいしょくぶつで作ったかこいみたいなものでしょう?
 だから、すぐにむこうがわにぬけられると思ったんだ。
 でも、すすんでもすすんでも小さなはっぱと木のえだのトンネルがつづく。
 しゃがみながら歩くのに、そろそろひざがいたくなってきたころ、やっと前にむらさきっぽい明かりがみえた。

「とくちゃく!」

 ひとあし先にかきねをぬけたローヴァが、おしりをフリフリおどっていった。

「まってよ、ここはどこ?」

 すくなくとも、しらない人の家のにわなんかじゃない。
 だって……そらがいちめん、むらさきいろなんだよ。
 ときどき、ものすごい音をたてて青いイナズマがはしっている。
 じめんは先にすすむにつれてほそくなり、ずっととおくまでつづいているみたい。
 そのほそいみちの先には、ゲームのなかでしかみたことのないような、おそろしげなおしろがある。

「ここはね、まおうのしろ!
 ほんとうは、すごーく長いめいろをぬけないといけないんだけれど、今はちかみちしちゃった」

 いたずらっぽくいわれてもなぁ。
 むらさきいろのそらには、コウモリみたいななにかがとんでいるのがみえる。
 ここは、じかんがとまっていないんじゃないかな。

「それじゃ、いそいでたいまのけんをとってこよう!」

 ふあんでいっぱいなぼくのことなど、おかまいなし。
 ローヴァはげんきいっぱいに右手を上につきあげると、スキップしながらほそいみちにすすみはじめた。
 もういちどいうけれど、そのさきにあるのはまおうのしろだ。

 はじめのうち、ふつうのどうろくらいあったみちはば。
 今はなんと、かたはばくらい。
 すこしでも足をふみはずしたら、ガケからまっさかさまだ。
 おそるおそる下をみてみると……そこのみえない、すみをながしたようなまっくろいやみがひろがっている。

 それなのに、それなのにだよ!
 ローヴァときたら、スキップをやめないんだ。
 それどころか、たまにクルッと回ってこっちをむく。
 そして、こわさに足をガクガクさせているぼくにむかって、りょうてをヒラヒラさせるんだ。
 そのおかげで、なんとか前にすすめるわけではあるけれど。

 もっとすすむと、こんどは上からさけびごえがきこえてきた。
 しょうぼうしゃのサイレンを、もっと大きくして、ヒビわれたような音にしたこえ。
 とんでもなくうるさくて、そのたびにあたまがわれそうになる。
 バランスをとるため左右にのばしていた両手で、思わず耳をおさえたくなるほど。
 でもそんなことをすると、たちまちバランスをくずしてガケから落っこちそうになる。

 そらをとんでいる、コウモリみたいなやつだ。
 よくみれば、つばさのほかに長い手も足もあって、かいぶつだとわかる。
 コウモリなら、手がつばさになっているから、ほかに長い手があってはおかしいんだ。
 かいぶつは、また耳がばくはつしそうに大きなこえでさけぶと、あたまを下にむけてつばさをたたんだ。
 ものすごいはやさで、ぼくにせまってくる!
 こんなにほそいみちの上では、うまくよけられない。
 かいぶつにぶつかってこられたら、ガケからおちておしまいだ。
 ぼくはこわさのあまり、足がうごかなくなってしまった。

「たすけて、ローヴァ!」

「もっちろん! ……えいっ!」

 こんなときに? こんなときだからこそ?
 ローヴァはげんきにはずんだこえでへんじをして、人さしゆびをかいぶつにむけた。
 あっ!
 かいぶつはそのままの大きさの、きょだいなポップコーンになる。
 ぼくにせまってくるいきおいは、ぜんぜんたいしたことなくなった。
 それでもぼくのうでにぶつかったけれど、そのままはねかえされてガケにおちていく。
 もちろんぼくはぶじた。

「ローヴァ、すごいね!」

「魔女だからね!」

 やっぱり、魔女なんだ!
 ローヴァが人さしゆびをそらにむけたまま、おどるようにあるきだす。
 かいぶつたちはこまったように、そらをグルグルまわるだけになった。
 ふむふむ、ポップコーンにはなりたくないようだね。

 おかげでぼくは、ガケからおちないようにだけきをつけながら、ほそいみちをわたりきることができた。
 まおうのしろは、目のまえだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手ぶくろ

はまだかよこ
児童書・童話
バレンタインデイ 真由の黒歴史 いいもん、しあわせだもん ちょっと聞いてね、手ぶくろのお話し

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ユウタの手紙

児童書・童話
ある朝、ユウタの枕元に一通の手紙が置かれていた。 差出人は「きのうのぼく」。 そこから毎朝届く手紙には、昨日の自分をほめる言葉が書かれていた。 少しずつ、自分を認める喜びに気づいていくユウタ。 “自分をほめる”小さな勇気が、心をやさしく照らしていく。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

カエルさんとお星さま

望森ゆき
児童書・童話
ヒツジさんに連れられてカエルさんは流星群を観に行くことになりました。流星群を観る予定の丘の上には小さなお星さまが泣いていました。泣き止んだ小さなお星さまが残していった祈り。--旅に出たカエルさんがはじめて迎える冬はどんなものだったのでしょう? この物語は「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿されています。

サッカーの神さま

八神真哉
児童書・童話
ぼくのへまで試合に負けた。サッカーをやめようと決心したぼくの前に現れたのは……

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...