幼馴染と歩む道 ~知らない間に勇者とか聖女とか呼ばれてました~

Crane

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第二章 アカデミー編

第40話 『進撃の盾』

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実技試験後半開始早々、リクが繰り広げた快進撃・・・もとい、蹂躙劇により多数の受験生が脱落する一方で、アレイもまたその力を他の受験生に見せつけていた。


「まずは数を減らさんと・・・なッ!」


アレイの考える事は奇しくもリクと同じ様に、強敵とおぼしき者を除く多数の受験生を初手で薙ぎ倒す事であった。

彼は持ち込みが許可された自身の装備・・・魔法具の腕輪を起動し、右腕に大盾を展開させる。

空いた左腕には何も装備をせず、無手である様子からアレイの魔法具は、防具としての機能のみを重視した物なのだろう。

そんなアレイの姿を見た他の受験生達は、武器を持たない事を与しやすい、と判断したのか・・・一斉に襲い掛かってくる。


「この姿ならまあ・・・大多数はそう思うだろうがな。餌に釣られて飛び込んでしまったとは考えまい!」


対するアレイはそんな受験生達にニヤリと小さく笑みを作り、大盾をゆっくりと向け・・・こちらからも巨漢らしからぬ猛烈な速度で駆け出して行く。


「【肉体強化フィジカル・ブースト】全開!!うおぉぉぉぉぉッ!!!」


大盾を正面に構え、猛牛さながらに突進を開始するアレイ。その隆々たる筋肉は【肉体強化フィジカル・ブースト】の赤い魔力マナの光に包まれ、鋼の硬度を持って受験生達に襲い掛かる暴威となった。

あり得ない速度の盾の突進シールドチャージをカウンター気味に放たれた受験生達は、驚く暇も無く次々とアレイに撥ね飛ばされ・・・やはり錐揉みをしながら地面へと叩き付けられる。

こうしてリク同様に、アレイも戦場となったグラウンドを所狭しと走り抜けて、多くの受験生を脱落させたのだった。


「・・・ふむ、これで粗方の相手は戦闘不能となったか。今の所はリクだけが強者、という所なのか?」


走り続けたアレイはザザッ、と音を立てて土のグラウンドに足で急停止を掛けて止まる。全開の【肉体強化フィジカル・ブースト】の効果もあって、彼の走った後は濛々もうもうと土煙が立ち、視界が不明瞭となっていた。

注意深く、他の受験生の動向・・・そして間違い無くどこかで勝ち抜いているであろうリクの存在を探りつつ構えるアレイ。

その背中に・・・音を立てずに忍び寄る一人の人影が突如、現れた。僅か一歩の踏み込みで刃が届く程の距離に、気付かれる事無くその人物は近づき・・・


「不意打ち御免!!」

「ぬおッ!?・・・ぐっ・・・盾の移動が間に合わなかったか。見事な一撃だな、全く気が付かなかったぞ・・・」

「・・・やはりそれがしの膂力では届かぬか。褒めて貰えて光栄だが、貴殿の鋼の肉体こそ見事だ」


陽光に閃く剣閃。短い言葉と共に発せられた左側面からの殺気に、ようやく相手の存在に気付いたアレイは、驚愕の表情を浮かべ右腕の盾を左腕へと展開させ直そうと試みるが・・・

一瞬早く、相手の刃がアレイの左腕を切り裂いた。鮮血が舞い、顔をしかめるアレイ。防御が間に合わなかった為、咄嗟に彼は腕に力を込めて刃が腕を切り飛ばす事を防いだのだ。

完璧な不意打ち。その見事な剣の腕前を含め、一本取られた事を認めて相手を称えるアレイだが、一方の・・・藍色がかった長い黒髪を後ろで一本に縛った少年は、逆にアレイの頑強さに驚き、そして称賛した。

まだ幼さを残す顔立ち。そして何より・・・アレイと比べると大人と子供程の身長差になる小柄な少年は溜息交じりに得物を構えてアレイに話しかける。


「鍛え抜かれた肉体・・・何よりその背丈、それがしにとっては羨ましい限りでござる」

「貴殿はその小さな体躯に悩んでいるのか?大きいのもそれはそれで困る事が多い・・・どっちもどっちだ。無い物ねだりをしても仕方あるまい」

「そうでござるな。とはいえ、男子たる者・・・背丈だけは気になるのでござるよ。さあ、お喋りはここまででござる・・・再び参る!!」

「応ッ!正々堂々と勝負だ!!」


短い会話の後、アレイと少年剣士は再び激突する。驚異的な素早さと巧みな剣技・・・大きく反りの入った見慣れない剣を操る少年に対し、アレイは【肉体強化フィジカル・ブースト】のみを使い対抗する。

舞うような動きで襲い掛かる剣を大盾が阻み、時に拳や蹴りを互いに放ち・・・互角の戦いを繰り広げる二人。このまま長期戦となる事が予想される攻防であったが・・・二人の戦いは予想外にあっけなく終わる事になった。

それまで怒涛の勢いで戦っていた少年剣士が、突如その場に崩れ落ちる。肩で息をするその表情は苦し気で、脂汗を流していた。

アレイの【肉体強化フィジカル・ブースト】に対抗する為に少年も【肉体強化フィジカル・ブースト】を発動していたのだが・・・体格差を埋める為に、普通よりも多くの魔力マナを消耗する事になった。

その結果・・・魔力マナ切れを起こした少年は、地に剣を突き立てて踏ん張ろうとしたものの・・・崩れ落ちたのだった。


「む・・・無念でござる。やはりそれがし、まだまだ未熟。貴殿の勝ちでござるよ」

「・・・納得のいかない結末だな。後日、改めて試合をしないか?互いに励めば俺達はもっともっと高みを目指せると思うのだが・・・」

「それは願ってもない提案でござる!・・・それがし、名をシード・サカザキと申す。以後よしなに」

「俺はアレイ・フォン・ハーダルだ。気軽にアレイと呼んでくれると嬉しい・・・これから宜しくな、シード」


シードと名乗った少年剣士とがっちり握手を交わすアレイ。激闘を終え、周囲に受験生達が居ない事を確認した彼は、疲弊して立ち上がる事が出来ないシードを背負い・・・一時、グラウンドを離脱するのだった。


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「・・・どうなってんだよ、アイツ等・・・リクは兎も角として、アレイって奴も結構なバケモンじゃないか」

「その言い方は酷いよミーリィ・・・でも、確かにアレイ君も凄いね。あの【肉体強化フィジカル・ブースト】の出力・・・驚いちゃった」


グラウンドを囲む形に設置された観客席。丁度闘技場コロッセオを想起させる作りの場所に並んで座り、男子の部を観戦するシルヴィアとミーリィは、ここまでのリク達の戦いの感想を口にする。

予想通り、と言えばそれまでだが、リクとアレイは順当に勝ち残り・・・このまま二人が最後の決戦を行うであろう事は疑い様が無い状況となっていた。


「他の連中がだらしないってのが一番問題なんだろうけどね。男は強くなきゃダメだろ・・ったく、情けないったらないね」

「あはは・・・」


憤慨するミーリィ。人狼族ウルブスでは特に強い男を尊ぶ傾向があるらしく、彼女からすれば大多数の受験生はただただ情けなく見えるのだ。

そんな彼女の態度に苦笑しつつ、フォローを入れようとしていたシルヴィアだったのだが・・・


「ねえねえ、あの黒髪の男の子凄くない?」

「滅茶苦茶強いよね!一瞬だよ、一瞬!あんなに多くの相手を大怪我させずに倒しちゃったもんね!」

「それに結構・・・ううん、かなりイケメンじゃない?・・・カッコいいわぁ・・・」


あちこちで上がる他の受験生・・・女子の部の開始を待つ少女達の話す声がシルヴィアの耳に入って来た。

リクが見せつけた快進撃。その圧倒的な強さに興味津々、といった興奮気味の声があちこちで上がっていたのだ。

リク自身は全く自覚していないが、彼の父親であるラルフは結構整った顔立ちをしており、イケメンの部類に入る。そして母親は美女として有名なあのエリスである。

父親譲りの黒髪と恵まれた体格、そして多分に母親の外見の要素を受け継いでいるリクは、たちまち女子の受験生達の注目の的となってしまった。


「むー・・・・・何だろう、胸がモヤモヤする・・・」

「・・・今まで無自覚だったのかよ、信じられねえ」


本当なら自分の幼馴染がカッコいい、と言われて嬉しいはずなのに・・・自分の胸の中に芽生えたモヤモヤした気持ちに、思わず小さく唸ってしまうシルヴィア。

その姿を見てミーリィは驚いた。まだ知り合って間もないが、リクとシルヴィアの醸し出す熟年の夫婦の様な空気を、先程食堂でしっかりと見せつけられていた彼女は、自分の気持ちに気付いていない様子のシルヴィアに呆れる。


「シルヴィア、アンタさ・・・リクの事好きならしっかり捉まえときなよ?あんだけ強くてイケメンと来れば、入学後は大変な事になるぜ?」

「す、すすすす好き!?えっ・・・ふえぇぇぇぇっ!?」


良かれと思ってのミーリィの一言は、シルヴィアに痛烈な一撃クリティカルヒットとなり突き刺さる。想定外の一撃に顔を真っ赤に染め、混乱の声を上げるシルヴィア。

慌てふためくその姿にミーリィは大きくため息をつく。未だ恋心の自覚に乏しい少女に『こりゃあリクも大変だろう』と彼女は心で同情するのであった。


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観客席で一悶着が有ったが、今も試験を続行しているリクはそんな事は露知らず、グラウンドを一時離脱している残ったただ一人の受験生・・・アレイを待っていた。

多少の魔力マナを消耗したが、自分の状態は万全に近い。ここまで強敵と言える相手が、自作の魔法具を操る、濃い茶色の髪の少年・・・ルーカス位だった事が幸いした形だろうとリクは考える。

そこへ左腕から血を流したままでアレイが戻ってくる。恐らく待たせる事を嫌って自分の治療を拒んで戻って来たのだろう。


「・・・お。戻って来たな、アレイ。相手は大丈夫か?」

「問題ない。ただ魔力マナ切れを起こしただけのようだったからな・・・待たせてすまない、早速始めるとするか!」

「待て待て、お前怪我してるだろ?まずはお互い万全にならないとな?【大治癒】発動!」


すぐさま遅れた事を詫び、戦闘態勢に入ろうとするアレイをリクは苦笑交じりに止める。このままハンデを背負った相手と戦うのはフェアではない。そんな事は断じて許せない、とリクは治癒魔法を発動させる。

切り飛ばされなかったものの、明らかに重傷である。迷う事無くリクは【肉体強化フィジカル・ブースト】との併用技である【大治癒】を用いて、アレイの傷を完全に治療したのだ。


「すまんな、これで俺も全力で戦う事が出来る。リク、分かっていると思うが・・・手加減は無用だぞ。俺は頑丈だからな?」

「ああ、約束通り・・・お前には『全力で』挑むよ。その筋肉、伊達じゃないって事を証明してくれよな?」

「はっはっは・・・ぬかせ、お前の方こそいきなり俺の盾に圧し潰されてくれるなよ?・・・行くぞ、リク!!」

「悪いけど、絶対主席合格するって約束したからな・・・俺は絶対に勝つ!!さあ来い、アレイ!!」


互いに笑みを浮かべ、軽い挑発を交えた二人は・・・グラウンドの中央部で轟音と共に遂に激突する。アカデミー史上でも類を見ない激闘が今、始まった。


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