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国花
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「…………足の怪我? 傷跡が残ったの?」
左腕の件はリチャード殿下も知っていたが、足のことは言っていない。探るような視線にエレーナはそっぽを向いた。
「近づかないと分からないくらいの……です。お医者様には残らないだろうと当初言われたのですが……」
すまなさそうにリリアンが答えた。
ザリアル先生が残らないと言ったのは、裸足で走った際の擦り傷のみで、その前に花瓶を踏んでできた傷についてのことではなかったのだ。
傷は目を凝らさないと分からないくらいだが、まさかそれをここで持ち出されるとは……。
「これを飲めば治るから安心なさい。わたくしも飲んだことあるから効果はお墨付きよ」
瓶を振りながらジェニファー王女は笑った。
「ほんとに頂いてよろしいのでしょうか」
傷が全て癒えるなんて聞いたことがない。希少性が高いのは目に見えている。
「二言はないわ。今日来たのもこれを渡そうと思ってだから」
「ありがとう……ございます」
「ああ、それとこれも。前のは落としてしまったと聞いたから」
小箱を滑らせ、エレーナの前に出される。
「元々渡そうとしてた方よ」
開けるよう促され、蓋に手をかける。中から出てきたのは花のブローチだった。真紅のルビーが花びら型の金属に嵌め込まれ、真ん中には糖蜜のような飴色の液体が注がれて固められている。
「──ルルクレッツェの国花ですか?」
「よく知っているのね」
「──本で見かけたことがありましたので」
「ヴィラニッカよ。夜が明け、朝露が葉から零れていく時間帯にだけ咲く花」
他の国に苗を持ち込み、定植させようとしても育たない。ルルクレッツェにしか咲かない不思議な花。確か王宮薬草園でのみ栽培されているとか。
ちなみにスタンレーの国花は青と白のグライシェリアという花。冬の雪の中に咲く花で、萼が透き通った緑であるのが特徴だ。
「で、その咲いた花びらから零れた露やその他諸々混ぜて作ったのがさっきの治療薬」
持っていた小瓶を落としてしまいそうになる。
「……市場に出回らない物では!?」
「回らないわ。だって、作れないもの」
そーっと小瓶をジェニファー王女の方に移動させる。
(そんな希少なもの。無理!)
あげると言われ、貰えるものではない。
「レーナ、これはスタンレーが巻き込まれたことに対する貸し分の一部だから。そのまま貰って」
「でっですが」
「……王太子命令と言えばいい?」
「いっいただきます。リリアン、厳重に保管していて」
震えながらリリアンに渡そうとする。こうなったら家宝だ。お父様に掛け合って家宝にするしかない。
「…………レーナの性格上使わないよね」
ギクリと肩を上下に動かし、リチャード殿下の方を見る。
「そんなことないですよ。ありがたく後で使わせていただきますね」
勿論、使わない。
足裏は……顔を近づけなければ分からないほど。左腕は……夏場に袖がない服を着なければ隠せる。こんな傷に使うような代物ではないのが明白だった。
「心配ならここで使えばいいんじゃないかしら」
いい提案だと言わんばかりにポンっと手を叩き、ジェニファー王女はにっこり笑う。
「それがいい。ほら、飲みなよ」
リリアンも今回ばかりはエレーナの味方になってはくれなさそうだ。元々傷が消えると聞いて嬉しそうだった彼女のこと。リチャード殿下やジェニファー王女が勧めている以上、反対する意味がないのだ。
蓋を開ければキュポンっと音がする。手で仰いで匂いを嗅げば、檸檬のような匂いがした。
「いただきます……」
3人にジーッと見られて少し気恥ずかしさがある中、一気に喉に流し込んだ。
「味はどう? 甘いでしょ」
「そう……ですね。氷砂糖のような」
スッキリとしてクセのない、スーッと喉を通っていく甘さ。
中身は冷たいものなのに、なんだか身体がぽかぽかしてくる。
「体温上がってきたようね。1日経つ頃には傷も無くなるわ」
そばに寄ってきていたジェニファー王女は、エレーナの額に手を当てる。
「この薬、飲んだ者の体力を使うから眠気が来るはずよ。貴女、一応今晩は彼女の傍から離れては駄目よ」
「はっはい!」
リリアンに細かい注意を伝えると、ジェニファー王女は帰り支度を始めた。
「では、お暇するわ。ゆっくり休みなさい」
薬は即効性のようで、この時点でとても眠かった。呂律の回らない口で別れの挨拶を紡ぎ、そのままエレーナは眠りに落ちた。
左腕の件はリチャード殿下も知っていたが、足のことは言っていない。探るような視線にエレーナはそっぽを向いた。
「近づかないと分からないくらいの……です。お医者様には残らないだろうと当初言われたのですが……」
すまなさそうにリリアンが答えた。
ザリアル先生が残らないと言ったのは、裸足で走った際の擦り傷のみで、その前に花瓶を踏んでできた傷についてのことではなかったのだ。
傷は目を凝らさないと分からないくらいだが、まさかそれをここで持ち出されるとは……。
「これを飲めば治るから安心なさい。わたくしも飲んだことあるから効果はお墨付きよ」
瓶を振りながらジェニファー王女は笑った。
「ほんとに頂いてよろしいのでしょうか」
傷が全て癒えるなんて聞いたことがない。希少性が高いのは目に見えている。
「二言はないわ。今日来たのもこれを渡そうと思ってだから」
「ありがとう……ございます」
「ああ、それとこれも。前のは落としてしまったと聞いたから」
小箱を滑らせ、エレーナの前に出される。
「元々渡そうとしてた方よ」
開けるよう促され、蓋に手をかける。中から出てきたのは花のブローチだった。真紅のルビーが花びら型の金属に嵌め込まれ、真ん中には糖蜜のような飴色の液体が注がれて固められている。
「──ルルクレッツェの国花ですか?」
「よく知っているのね」
「──本で見かけたことがありましたので」
「ヴィラニッカよ。夜が明け、朝露が葉から零れていく時間帯にだけ咲く花」
他の国に苗を持ち込み、定植させようとしても育たない。ルルクレッツェにしか咲かない不思議な花。確か王宮薬草園でのみ栽培されているとか。
ちなみにスタンレーの国花は青と白のグライシェリアという花。冬の雪の中に咲く花で、萼が透き通った緑であるのが特徴だ。
「で、その咲いた花びらから零れた露やその他諸々混ぜて作ったのがさっきの治療薬」
持っていた小瓶を落としてしまいそうになる。
「……市場に出回らない物では!?」
「回らないわ。だって、作れないもの」
そーっと小瓶をジェニファー王女の方に移動させる。
(そんな希少なもの。無理!)
あげると言われ、貰えるものではない。
「レーナ、これはスタンレーが巻き込まれたことに対する貸し分の一部だから。そのまま貰って」
「でっですが」
「……王太子命令と言えばいい?」
「いっいただきます。リリアン、厳重に保管していて」
震えながらリリアンに渡そうとする。こうなったら家宝だ。お父様に掛け合って家宝にするしかない。
「…………レーナの性格上使わないよね」
ギクリと肩を上下に動かし、リチャード殿下の方を見る。
「そんなことないですよ。ありがたく後で使わせていただきますね」
勿論、使わない。
足裏は……顔を近づけなければ分からないほど。左腕は……夏場に袖がない服を着なければ隠せる。こんな傷に使うような代物ではないのが明白だった。
「心配ならここで使えばいいんじゃないかしら」
いい提案だと言わんばかりにポンっと手を叩き、ジェニファー王女はにっこり笑う。
「それがいい。ほら、飲みなよ」
リリアンも今回ばかりはエレーナの味方になってはくれなさそうだ。元々傷が消えると聞いて嬉しそうだった彼女のこと。リチャード殿下やジェニファー王女が勧めている以上、反対する意味がないのだ。
蓋を開ければキュポンっと音がする。手で仰いで匂いを嗅げば、檸檬のような匂いがした。
「いただきます……」
3人にジーッと見られて少し気恥ずかしさがある中、一気に喉に流し込んだ。
「味はどう? 甘いでしょ」
「そう……ですね。氷砂糖のような」
スッキリとしてクセのない、スーッと喉を通っていく甘さ。
中身は冷たいものなのに、なんだか身体がぽかぽかしてくる。
「体温上がってきたようね。1日経つ頃には傷も無くなるわ」
そばに寄ってきていたジェニファー王女は、エレーナの額に手を当てる。
「この薬、飲んだ者の体力を使うから眠気が来るはずよ。貴女、一応今晩は彼女の傍から離れては駄目よ」
「はっはい!」
リリアンに細かい注意を伝えると、ジェニファー王女は帰り支度を始めた。
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薬は即効性のようで、この時点でとても眠かった。呂律の回らない口で別れの挨拶を紡ぎ、そのままエレーナは眠りに落ちた。
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