24 / 126
第一章 生まれ変わったみたいです
水遊びと悪戯と
しおりを挟む
疑いの目を向けてくるエステルを何とかかわし、三日目の朝を迎えた。昼間は四人で遊覧船に乗り、海の上で魚介類のフルコースを頂いたのだが、飾り付けられた大きな赤い海老が印象的だった。
ぷりぷりの海老はまだ生きていたようで、アレクが興味本位でつつくと尻尾が上下し、悲鳴を上げたエステルにこってり絞られていた。自業自得だ。
船から下船したのは夕方で。私が頼み込んで昨日、満喫するはずがほぼ居られなかった砂浜に移動した。
「わあ!」
水平線の先に太陽が沈みかけている。青い海を赤みがかった色に塗り替え、満月が代わりに顔を出し始めていた。
観光客のいない砂浜は静かでとても落ち着く。昼間とは違い、気温も下がってきているので砂もそれほど熱くない。私は海風に帽子が飛ばされないよう片手で押さえつつ、履いていた靴をポイッと脱いだ。
波が来るか来ないかの境界線を裸足で歩く。さざ波が足をなめるように迫ってきては、引いていく。泡立つ波が足を包み、足裏や周りの砂が海の方へ引き寄せられる感触がくすぐったくてこそばゆい。
私は一人はしゃいでしまい、スカートの裾を持ちながら踊るように脛が浸かるくらいの所までパシャパシャと水を跳ねさせながら入る。
着ていた白のオフショルダーワンピースは丈が長く、既に水に濡れていたが気にしないことにした。ふわふわ海の中で広がっている。
「おい、あんまり遠くに行くなよ。波にさらわれる」
「大丈夫だよ。今日の海は穏やかだもん」
言った途端、ぶわりと吹いた風によってスカートがさらわれ、舞い上がりそうになるのを押さえた。
「あれ? エステル達はどこ行ったの」
いつの間にか砂浜にいるのは水に浸かる私とそれを見守るアレクだけだ。
彼は呆れたように息を吐いた。
「先に戻ったよ」
「えっ私置いてかれたの!?」
「レーゼがお楽しみなところ邪魔したら悪いからって言ってたぞ。『思う存分満喫してから帰ってきなさい』だとさ」
アレクもズボンの裾を折って靴を脱ぎ、私の元までざぶざぶ水音を立てながらやってくる。
「アレクも海入りたかったの?」
「なわけ。お前一人残すなんてできるわけないだろ」
「そっか、付き合わせてごめんね」
もう少し深い場所に入った私はにこにこしながら、黙って着いてくるアレクに近づく。
彼にとっては不気味な笑みだったらしい。何かを感じとったのか、じりじり後退しようとしていた。
「私、海に来たら一度やってみたかったことあるんだよね」
イザベルの人生の頃から。
読んだ物語の一節。綴られる文字と共にその情景が浮かび上がり、本を胸に抱いてわくわくしたものだ。
願い成就のために、アレクには犠牲になってもらおう。
「だから許してね?」
「ちょっ待っ」
私は帽子を脱いでたっぷり水を掬った。そうしてよろけつつ、にやにやしながら盛大にアレクにぶちまけたのだ。
遮蔽物など何も無いから、バシャンという音と共に一瞬にして頭から足まで全身びしょ濡れになる。
「あはは髪の毛へばりついてる」
追加でもう一回水を掬ってアレクにかけた。今度は手で目を守ることもせず、無抵抗だった。
「レーゼ、お前な……」
流石に怒られるだろうかと身構えると、アレクは反撃に出ようとして────水に手を差し込んだところで止まった。
額にへばりついた前髪をかきあげ、シャツも絞る。
「やめたわ。その代わりレーゼ、答えろ」
「何を?」
見当もつかない。もしかして昨日のことがバレたのだろうか。それはとてもまずいのだが。
(護衛と侍女には言わないでくださいって手を合わせて頼み込んだんだけどな……)
やはりアレクが主人だから、こっそり報告が行ったのかも。そう思ったのだが、アレクが尋ねてきたのは私の予想外のことだった。
「──学園を卒業したらどうするんだよ」
いつもからは想像もつかない真剣な目でそう言われて。私は固まってしまう。
ぷりぷりの海老はまだ生きていたようで、アレクが興味本位でつつくと尻尾が上下し、悲鳴を上げたエステルにこってり絞られていた。自業自得だ。
船から下船したのは夕方で。私が頼み込んで昨日、満喫するはずがほぼ居られなかった砂浜に移動した。
「わあ!」
水平線の先に太陽が沈みかけている。青い海を赤みがかった色に塗り替え、満月が代わりに顔を出し始めていた。
観光客のいない砂浜は静かでとても落ち着く。昼間とは違い、気温も下がってきているので砂もそれほど熱くない。私は海風に帽子が飛ばされないよう片手で押さえつつ、履いていた靴をポイッと脱いだ。
波が来るか来ないかの境界線を裸足で歩く。さざ波が足をなめるように迫ってきては、引いていく。泡立つ波が足を包み、足裏や周りの砂が海の方へ引き寄せられる感触がくすぐったくてこそばゆい。
私は一人はしゃいでしまい、スカートの裾を持ちながら踊るように脛が浸かるくらいの所までパシャパシャと水を跳ねさせながら入る。
着ていた白のオフショルダーワンピースは丈が長く、既に水に濡れていたが気にしないことにした。ふわふわ海の中で広がっている。
「おい、あんまり遠くに行くなよ。波にさらわれる」
「大丈夫だよ。今日の海は穏やかだもん」
言った途端、ぶわりと吹いた風によってスカートがさらわれ、舞い上がりそうになるのを押さえた。
「あれ? エステル達はどこ行ったの」
いつの間にか砂浜にいるのは水に浸かる私とそれを見守るアレクだけだ。
彼は呆れたように息を吐いた。
「先に戻ったよ」
「えっ私置いてかれたの!?」
「レーゼがお楽しみなところ邪魔したら悪いからって言ってたぞ。『思う存分満喫してから帰ってきなさい』だとさ」
アレクもズボンの裾を折って靴を脱ぎ、私の元までざぶざぶ水音を立てながらやってくる。
「アレクも海入りたかったの?」
「なわけ。お前一人残すなんてできるわけないだろ」
「そっか、付き合わせてごめんね」
もう少し深い場所に入った私はにこにこしながら、黙って着いてくるアレクに近づく。
彼にとっては不気味な笑みだったらしい。何かを感じとったのか、じりじり後退しようとしていた。
「私、海に来たら一度やってみたかったことあるんだよね」
イザベルの人生の頃から。
読んだ物語の一節。綴られる文字と共にその情景が浮かび上がり、本を胸に抱いてわくわくしたものだ。
願い成就のために、アレクには犠牲になってもらおう。
「だから許してね?」
「ちょっ待っ」
私は帽子を脱いでたっぷり水を掬った。そうしてよろけつつ、にやにやしながら盛大にアレクにぶちまけたのだ。
遮蔽物など何も無いから、バシャンという音と共に一瞬にして頭から足まで全身びしょ濡れになる。
「あはは髪の毛へばりついてる」
追加でもう一回水を掬ってアレクにかけた。今度は手で目を守ることもせず、無抵抗だった。
「レーゼ、お前な……」
流石に怒られるだろうかと身構えると、アレクは反撃に出ようとして────水に手を差し込んだところで止まった。
額にへばりついた前髪をかきあげ、シャツも絞る。
「やめたわ。その代わりレーゼ、答えろ」
「何を?」
見当もつかない。もしかして昨日のことがバレたのだろうか。それはとてもまずいのだが。
(護衛と侍女には言わないでくださいって手を合わせて頼み込んだんだけどな……)
やはりアレクが主人だから、こっそり報告が行ったのかも。そう思ったのだが、アレクが尋ねてきたのは私の予想外のことだった。
「──学園を卒業したらどうするんだよ」
いつもからは想像もつかない真剣な目でそう言われて。私は固まってしまう。
26
あなたにおすすめの小説
ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する
キムラましゅろう
恋愛
辺境の田舎から聖騎士となった大好きな幼馴染フェイト(20)を追って聖女教会のメイドとして働くルゥカ(20)。
叱られながらもフェイトの側にいられるならとポンコツなりに頑張ってきた。
だけど王都で暮らして四年。そろそろこの先のない初恋にルゥカはケリをつける事にした。
初恋を諦める。諦めるけど彼の子供が欲しい。
そうしたらきっと一生ハッピーに生きてゆけるから。
そう決心したその日から、フェイトの“コダネ”を狙うルゥカだが……。
「でも子供ってどうやって作るのかしら?」
……果たしてルゥカの願いは叶うのか。
表紙は読者様CさんがAIにて作成してくださいました。
完全ご都合主義、作者独自の世界観、ノーリアリティノークオリティのお話です。
そして作者は元サヤハピエン至上主義者でございます。
ハピエンはともかく元サヤはなぁ…という方は見なかった事にしていただけますと助かります。
不治の誤字脱字病患者が書くお話です。ところどころこうかな?とご自分で脳内変換しながら読むというスキルを必要とします。
そこのところをご了承くださいませ。
性描写はありませんが、それを連想させるワードがいくつか出てまいります。
地雷の方は自衛をお願いいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる
大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】
多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。
感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。
残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。
よろしくお願いいたします。
-----------------------------------------------------------
大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。
「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」
死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。
国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!?
「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」
エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって……
常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。
※どんな形であれハッピーエンドになります。
【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること
大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。
それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。
幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。
誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。
貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか?
前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。
※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる