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第一章 生まれ変わったみたいです

繋がる縁

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 リリアナ様に案内してもらい、客間に通された私はそこでシルフィーア語の翻訳をした。全てを記し終わり、リリアナ様に手渡すと彼女は真っ赤になりながら読み込んでいた。

 その内彼女は瞳に涙を浮かべ、ハンカチで拭う。

「……ほんとうにありがとう。主人は……寡黙で。あまり言葉をくれなかったの」

 握っていた私の書いた紙を胸元に持っていき、瞳を閉じる。

「これは宝物だわ」

 幸せそうな穏やかな表情だ。

(……良かった)

 私も幸せのおすそ分けを貰ったようで嬉しく感じた。

 その後、色々なお話をリリアナ様とした。彼女は様々な話題に通じているようでとても有意義な時間を過ごせた。

 その中で、共に見つけたという地図の謎も私は解いてあげた。どうやらリリアナ様のご主人は彼女に対してプレゼントを隠していたようなのだ。贈り物は地図に描かれた──もっと詳細に言えばヴィンメールのとある場所に眠っているみたいだ。

 辿り着くための手段はシルフィーア語で書いてあったので、それも全部翻訳しておいた。リリアナ様も場所に覚えがあるみたいだから、すぐ見つかるだろう。

 そうこうしている間に太陽が沈み始め、私たちは別荘に帰ることにした。帰り際、エントランスまで見送りしてくださったリリアナ様は私に言った。

「テレーゼさんには感謝してもしきれないわ。わたくし、今後貴女が困っている時はいつでも力になるから」
「ありがとうございます。そうなった時は頼りますね」

 リリアナ様と示し合わせず再会する確率は低いだろうが、世間は意外と狭い。あっ! と驚くような場所で再会するかも。

 彼女に繋がるという頂いたペンダントをポケットにしまう。
 
 最後にリリアナ様と抱擁し、エステルの乗る馬車に乗り込んだ。

 ガタンゴトンと石を弾きながら舗装されてない土の道を馬車は進む。

「……レーゼ」

 正面に座るエステルの目が据わっている。怖い。
 私は無邪気さを装ってこてんと首を傾けた。

「エステルどうしたの?」
「どうしたのって私の言いたいこと分かるでしょ」

 蛇のような探る目が私を捉えていた。

「──いつ、シルフィーア語なんて習ったのよ」

(ですよねぇ)

 どうやらエステルは二人っきりになるまでモヤモヤを胸に抱いたままだったようだ。

「いつって、この歳までずっとよ」

 テレーゼではなくてイザベルだが。年齢は間違ってない。

「嘘よ」
「嘘じゃないよ。なら、読めるわけないじゃない」
「そこよそこ。だから余計謎なのよ」

 確かに一介の伯爵家の娘が習得しているものではない。すっごく信仰が厚くてシルフィーア教に興味があるだとかでなかったら文字さえ見たことないだろう。

 だからエステルも最初反応が鈍かったのだ。見たこともない言語だったから。

 そんな彼女からしたら私は不気味というか、謎すぎる。それはよく分かるが、私はエステルに本当のことを伝えるつもりはない。

 さて、どうやって切り抜けようか。そんなことを考えていると。

「あっ」

 私は窓を開けて顔を出す。

「アレク! ヨハネス様!」

 声を張ってても大きく振る。

「おーレーゼじゃん」

 紙袋を提げたアレクが気づいてくれた。

 御者に馬車を一旦止めるよう指示し、私は降りる。

(ちょうどいいところに!)

 これでエステルと二人っきりになる夜までは追及されないだろう。ちらりと後ろを振り返れば、不満そうにムッとしている。

「おい、エステルと喧嘩でもしたのか?」

 普段纏う空気とは違うことをアレクも察したらしい。こっそり尋ねてくるが、私は否定する。

「んーしてないよ」
「不機嫌だぞ。何をしたんだ」
「あははちょっとね」

(今のうちに誤魔化し方考えとこ)

 とりあえずエステルと二人っきりにならないようアレクを盾にする。

「ヨハネス様は何を買ったんですか?」

 アレクは聞かなくても分かる。ワインだ。提げている紙袋に入った瓶の中でワインがたぷんたぷんと揺れている。

 それとは対照にヨハネス様の紙袋はアレクの物より小さく小ぶりだ。

「私は妹へのお土産だね」

 開けた紙袋の中身を覗くと綺麗な貝殻や爪に塗るマニキュアという物や、髪飾りが入っていた。どれも小さい子供が喜びそうなものだ。
 ヨハネス様の妹は八歳くらいだったはずなので、ぴったりのお土産だ。

「私も家族に買わないと行けないんですよね。街中、良さげなお店ありませんでしたか?」

 エステルと私は最終日に買う予定だった。お土産の中でも菓子類を買いたかったので、傷むのを懸念してだ。

「砂糖を色付けて、クッキーに塗った可愛らしいものを売るお店があったよ。女性が多く並んでいたから人気の菓子店だと思う」
「へえ~」

 話から想像するとお母様が喜んでくれそうなお菓子だ。

(後で詳しい話聞こう)

「あっアレク、頼んでたワインは買ってくれた?」
「もちろん。ここに入ってる」

 お兄様とお父様は程々にワインを嗜むのでお土産のひとつとして購入を決めていた。

 私はワインの品種なんてさっぱりだし、男性の方がそういうのは目利きが良い。
 だから二人へのお土産はアレクに選んでもらうことにしていたのだ。

「二~三本でよかったんだよな?」
「うん、ありがとう!」

 アレクが選んだなら間違いはない。絶対喜んでもらえる。

 そうしてアレクとヨハネス様と合流した私達は、荷物を彼らが乗ってきた馬車に乗せて、四人で私とエステルが乗ってきた馬車に乗り、別荘へと戻ったのだった。
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