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第二章 【過去編】イザベル・ランドール
彼と彼女の初めまして(1)
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「ほらベル、新しい家族だよ」
父の背に隠れ、左半分だけ顔を出している少年。本来なら感嘆をもらしそうなほど綺麗な濡れ羽色の髪はぼさぼさで。前髪も、後髪も、整っておらず、後ろ髪に至っては腰近くまで伸びていた。
かろうじて見える手は切り傷が多く、ぶるぶる震えて怯えている。
イザベルはそんな少年をきょとんと眺め、それから口を開いた。
それがイザベルとユリウスの運命が交わった瞬間だった。
◇◇◇
目の前──父の後ろに隠れるように男の子がくっついている。
「おとうさま、わたし、新しい家族だなんて聞いてないわ」
確かにお客様が来るからお迎えしてねとは父から言われた。だが、それだけだ。お客様は家族とは言わないだろう。
イザベルは聞き間違えだろうかときょとんと首を傾げる。
あいにく、自分は一人っ子だ。この大きいお屋敷でイザークとイザベルの二人は、使用人を雇いながら暮らしていた。
他に兄弟がいるなんて聞いたこともないし、再婚していない父にはできる予定もないはず。
世の中や絵本の中には隠し子という存在が時としてあるらしいが、父はそんなことをする人間ではないとイザベルは確信していた。
イザベルの母でイザークの妻であるイレイナを心底愛していた────と使用人や父本人から何度も聞いていたから。
それでも突然訪れた謎の状態に、自然と眉が寄る。
イザークは娘からの剣呑な視線に後頭部を掻きながら苦笑する。
「……そりゃあ突然だったからね。でも、今日からこの子はこの家で暮らすし、家族だよ」
父は優しく少年の頭を撫でた。それはいつもイザベルにしてくれるスキンシップと変わらない。とっても大好きな撫でだ。
(とりあえず、初めましてのひとには挨拶しないとね。かぞく……になるみたい? だし)
中々納得はいかないが、さっとスカートの端を持って頭を下げる。
「こんにちは。わたしはイザベル・ランドール。これからどうぞよろしくね」
にっこり笑って挨拶を終えるが、少年は父の後ろから微動だにしない。むしろ怯えが酷くなった気がする。
「…………あなたのお名前は?」
問えば、父の足に掴まりながらようやく口を開いた。
「ぼく、はユリウス・ヘルゲ・ベルンシュタイン。よ、よろし、く……」
(ベルンシュタイン? それって!)
イザベルでも知っている。帝国でいちばん高貴な血筋。思わず前のめりになり、ぴょんぴょんしながら距離を詰める。
「皇子さまなの!?」
「っ! う、うん……そ、う……みたい」
勢いに蹴落とされ、ユリウスは縮こまってしまう。
「でも皇子さまって皇宮に住んでるんじゃないの?」
「…………それ、は」
ユリウスは瞳を伏せ、小さな声で呟いた。
「僕は……君が思うような……皇子じゃないから」
その言葉にイザベルはユリウスの容姿を上から下まで眺める。
(……確かにきらきらしてない)
絵本の中に出てくる皇子殿下はキラキラしているのだ。全身からそのようなオーラが出ているし、装飾品をジャラジャラ身につけている。ルビーやらダイヤモンドやらそれはもう沢山。
しかし、目の前のユリウスはぼさぼさの髪に至る所に傷がある。加えて痩せていて、皇子とはお世辞にも思えない。
「ベル、仲良くできるかい」
心配そうに父が尋ねてくるので、イザベルは元気よく返事をする。
「もちろんよ! 家族が増えるのはいいことだわ!」
結局、父が選んだ子ならどんな人でも構わなかった。二人で過ごすより三人の方が賑やかでいい。
イザベルはユリウスの両手を包み込む。
「改めてよろしくね! ユリウス殿下」
「……ユリウスでいいよ。殿下って呼ばれるのは……苦手なんだ」
「わかったわユリウス」
にっこり笑えば空気が緩んだ。
グイッとそのまま引っ張って、父の背中からユリウスを出すと彼は慌てて戻ってしまう。その時、前髪の間から透き通るような碧眼が見えた。
イザベルはグイグイ押していく。
「あなた、お父様と同じ瞳なのね! もっと近くで見てもいいかしら? それに一緒に遊びましょ!」
同年代の子とイザベルは遊びたくて仕方なかった。兄弟のいなかった彼女にとって、遊び相手はもっぱら侍女や執事だったのだ。
手を取って玩具のある部屋に行こうとすると、やんわり振りほどかれた。
父の背に隠れ、左半分だけ顔を出している少年。本来なら感嘆をもらしそうなほど綺麗な濡れ羽色の髪はぼさぼさで。前髪も、後髪も、整っておらず、後ろ髪に至っては腰近くまで伸びていた。
かろうじて見える手は切り傷が多く、ぶるぶる震えて怯えている。
イザベルはそんな少年をきょとんと眺め、それから口を開いた。
それがイザベルとユリウスの運命が交わった瞬間だった。
◇◇◇
目の前──父の後ろに隠れるように男の子がくっついている。
「おとうさま、わたし、新しい家族だなんて聞いてないわ」
確かにお客様が来るからお迎えしてねとは父から言われた。だが、それだけだ。お客様は家族とは言わないだろう。
イザベルは聞き間違えだろうかときょとんと首を傾げる。
あいにく、自分は一人っ子だ。この大きいお屋敷でイザークとイザベルの二人は、使用人を雇いながら暮らしていた。
他に兄弟がいるなんて聞いたこともないし、再婚していない父にはできる予定もないはず。
世の中や絵本の中には隠し子という存在が時としてあるらしいが、父はそんなことをする人間ではないとイザベルは確信していた。
イザベルの母でイザークの妻であるイレイナを心底愛していた────と使用人や父本人から何度も聞いていたから。
それでも突然訪れた謎の状態に、自然と眉が寄る。
イザークは娘からの剣呑な視線に後頭部を掻きながら苦笑する。
「……そりゃあ突然だったからね。でも、今日からこの子はこの家で暮らすし、家族だよ」
父は優しく少年の頭を撫でた。それはいつもイザベルにしてくれるスキンシップと変わらない。とっても大好きな撫でだ。
(とりあえず、初めましてのひとには挨拶しないとね。かぞく……になるみたい? だし)
中々納得はいかないが、さっとスカートの端を持って頭を下げる。
「こんにちは。わたしはイザベル・ランドール。これからどうぞよろしくね」
にっこり笑って挨拶を終えるが、少年は父の後ろから微動だにしない。むしろ怯えが酷くなった気がする。
「…………あなたのお名前は?」
問えば、父の足に掴まりながらようやく口を開いた。
「ぼく、はユリウス・ヘルゲ・ベルンシュタイン。よ、よろし、く……」
(ベルンシュタイン? それって!)
イザベルでも知っている。帝国でいちばん高貴な血筋。思わず前のめりになり、ぴょんぴょんしながら距離を詰める。
「皇子さまなの!?」
「っ! う、うん……そ、う……みたい」
勢いに蹴落とされ、ユリウスは縮こまってしまう。
「でも皇子さまって皇宮に住んでるんじゃないの?」
「…………それ、は」
ユリウスは瞳を伏せ、小さな声で呟いた。
「僕は……君が思うような……皇子じゃないから」
その言葉にイザベルはユリウスの容姿を上から下まで眺める。
(……確かにきらきらしてない)
絵本の中に出てくる皇子殿下はキラキラしているのだ。全身からそのようなオーラが出ているし、装飾品をジャラジャラ身につけている。ルビーやらダイヤモンドやらそれはもう沢山。
しかし、目の前のユリウスはぼさぼさの髪に至る所に傷がある。加えて痩せていて、皇子とはお世辞にも思えない。
「ベル、仲良くできるかい」
心配そうに父が尋ねてくるので、イザベルは元気よく返事をする。
「もちろんよ! 家族が増えるのはいいことだわ!」
結局、父が選んだ子ならどんな人でも構わなかった。二人で過ごすより三人の方が賑やかでいい。
イザベルはユリウスの両手を包み込む。
「改めてよろしくね! ユリウス殿下」
「……ユリウスでいいよ。殿下って呼ばれるのは……苦手なんだ」
「わかったわユリウス」
にっこり笑えば空気が緩んだ。
グイッとそのまま引っ張って、父の背中からユリウスを出すと彼は慌てて戻ってしまう。その時、前髪の間から透き通るような碧眼が見えた。
イザベルはグイグイ押していく。
「あなた、お父様と同じ瞳なのね! もっと近くで見てもいいかしら? それに一緒に遊びましょ!」
同年代の子とイザベルは遊びたくて仕方なかった。兄弟のいなかった彼女にとって、遊び相手はもっぱら侍女や執事だったのだ。
手を取って玩具のある部屋に行こうとすると、やんわり振りほどかれた。
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