生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

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第三章 不穏な侍女生活

垣間見える(3)

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 ファーストダンスが終わるとそこからは至って普通の舞踏会だ。人それぞれ思い思いに異性をダンスに誘い、共に踊っていく。

 最初の曲はテンポがゆったりとした曲のようで初心者向きの曲だった。今日が初参加のデビュタント達を気遣って、最初はテンポの速い曲を控えたのかもしれない。

 ホールの中央に視線を固定していたからか、私が踊りたいと考えていると思ったのだろうか。隣にいたアレクがさりげなく問う。

「この曲が終わったら俺と一緒に踊らないか」
「アレクと? かまわないけど」

 今日も今日とて壁よりの位置で静かにしていようと思っていたが、せっかく来たのだ。一曲踊るのもいいかもしれない。

 曲の終わりを見計らって中央に移動し、演奏の始まりまで待機する。すぐに次の曲が始まり、私はアレクのリードに身を任せてくるくると踊り始める。
 今演奏されているのは貴族として習うダンスの中でも上級と中級の真ん中くらいの曲だ。
 なので自ずとダンスに慣れた人が多く踊っていた。

「アレクと踊るのも久しぶりだね。去年以来かな」
「レーゼがあまり踊ろうとしないからな」
「うーん私ダンスは苦手なの。御相手の足を踏んだらどうしようか心配で心配で」

 はっきり言うと嘘である。イザベル時代にみっちり覚えこまされ、速いテンポの曲も完璧に踊れる。今世での家庭教師の方にも教えることは何も無いとお墨付きを頂いているくらいだ。

 それでも下手だから踊りたくないという断り文句は中々色んなところで通用するので突き通している。

(踊っただけでそのお相手の人が好きなのでしょう!? と言いがかりをつけられたことがトラウマなのよね)

 イザベル時代、全てを断るのはお高くとまっているなどと裏で陰口を叩かれる懸念があったため、適度に誘いは受けるようにしていた。
 しかし嫉妬深い令嬢に目をつけられ、短期間だが中々厄介な嫌がらせを受けたことがあるのだ。

(イザークお父様がそれに気づいてとても怒って、その令嬢の家に圧力をかけたとか…………それで泣きながら私のところに許してくださいってその方が謝罪しに来て……私が許してもお父様が許さなかったのよね)

 以来トラブルを避けるためと、父が倍にして返そうとするのを防ぐため、できる限り踊らない方針で生きていくことを決めていた。

 今世でも私に何かあると家族が私の意見を聞かずに先走ってしまうため慎重にならざるをえないのだ。

 そんな事情からの渾身の嘘なのに、アレクは引っかかってくれない。呆れた目でバッサリと一刀両断する。

「嘘だろ」
「あ、バレた?」
「最初の立ち姿勢から踊れないやつとは違う。レーゼのは一朝一夕で身につくような姿勢じゃないんだよ」
「へぇ」

 ぱちぱちと瞬きをする。そんなところから見破れるのか。
 そんな話をしながら自分でも自画自賛したいほど華麗な足さばきでアレクのリードについて行く。

「アレクも本当に上手いね。踊りやすい」

 くるんと一回りしたところで褒める。曲が終盤へ差し掛かるところでなので、最後のフィナーレに向けて一旦穏やかなテンポになっていた。
 そんな小休止のタイミングだったので、踊りながら思ったことを素直に口にしてみたのだった。

「アレクと踊るのは楽しいな」

 にっこり笑いながら伝えると、繋いだ手に力が込められた気がした。

 曲のテンポが早くなり始めた。この後最後の難所であり、一番の腕の見せ所な場面がくるので気を引き締めた途端。
 突如腰に回された腕によってグッと彼の方に引き寄せられたかと思いきや、その勢いのまま持ち上げられて頭上でぐるんっと回された。
 微かにどよめきのようなものが聞こえた気がしなくもないが、気にする余裕はなかった。

 トンッと床に足がついたところで曲が終わった。

「いきなり抱えあげないでよ。びっくりするじゃない」
「こっちの方が見栄えがいいだろ。レーゼは全然踊らないし、印象付けとかないと下手な評価をつけられて舐められるぞ」
「だーかーら! 私はそれで別にいいのよ。目立たずひっそり社交界を生き抜くの! ただでさえ貴方と踊ることで注目を集めてしまうのだから」
「矛盾してないか? 目立ちたくないなら俺とも踊ったらダメだろ」

(もうっ屁理屈はいらないのよ)

 彼から誘ってきたのに私と踊るのは気が乗らなかったのだろうか?

「アレクだから踊ったのよ。貴方は私の大切な友達だからね。他の人とは違うのよ。特別なの」

 生意気だったり、からかってくる所はもう少しどうにかして欲しいが。大切で大事な友人であることには変わりない。

「大好きだからこれからも仲良くしてね」
「…………レーゼ、俺は」

 ほのかに熱のこもった視線を向けられ、一体どうしたのかしらと尋ねようとしたところ、ガバッと後ろから抱きつかれた。

「わっ」

 本日三度目となる驚きの声を上げた。

「エステル……お前」
「あらぁ何かしらレーゼのさん」

 その言葉に途中から私たちの会話を聞いていたのを知る。
 からかい口調のエステルにアレクは怒りながら笑っている奇妙な表情を作り出していた。口元がぴくぴくと動いている。

「強調するなよ」
「なんの事かしら。私にはさっぱり」

 しらを切るエステルは「はて?」と、とぼけたのだった。
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