生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

文字の大きさ
81 / 126
第三章 不穏な侍女生活

懐かしい友人(1)

しおりを挟む
 その後、合流したエステルとダンスそっちのけで世間話をしていたのだけれど、その最中私はとても懐かしい人に声をかけられた。

「テレーゼ・デューリング様ですよね」

 突如介入してきた声は聞き慣れた、けれども今世では聞く機会もないだろうと思っていた声で、私はふと顔を上げた。

 そこには一人の夫人が佇んでいて、パチリと交じ合う翡翠の瞳は何故か小刻みに揺れていた。

「こんばんは。アエステッタ公爵夫人」
「…………私のことをご存知なのね」
「それはもちろんです。三大公爵家のひとつ、アエステッタ公爵家の家門は直接のご挨拶に伺う機会がなくとも、貴族の末席に名を連ねる以上、知っていて当然ですから」

 笑みを絶やさず丁重に返答すると、彼女は少し寂しげな表情をした気がして嫌な胸騒ぎがする。

(まさか、イザベルだって気づいたとかないよね……?)

 エディトの手助けをした際、私が手伝ったとは誰にも言わないでと口止めのお願いを忘れていたことに、祭祀が終わってから思い出したのだ。

(シルフィーア語を理解してるなんて、もしエディトがお母様であるエリーゼに伝えたら……)

 絶対にその相手は何者なのかと疑問を持つだろう。エステルにも学生最後の夏休み旅行で怪訝な顔をされたが、シルフィーア語を母語のように使いこなせるのはごく僅かな人数なのだ。

 ましてやエリーゼはユースの次に私に詳しいと言っても過言ではない。小さい頃から同じ公爵家の娘として付き合いがあったし、よく遊んでいた。
 祭祀やシルフィーア語と結び付け、衝撃的な別れとなったイザベルを連想する可能性はあった。

 ただ、生まれ変わりなんて聞いたこともないからエリーゼがその考えに至る可能性は極々わずか。
 私の名前がエディトの口から出たとしても、娘に近づく不埒な令嬢だと調べ上げて警告しに来ることはあれど、イザベルだとは思わないはず。

(うぅでもエリーゼだから有り得るのよね)

 彼女はここだ! というところで謎の勘を働かせてくるので怖いのだ。

 なので身バレしてないか不安で不安で、生まれ変われるのならば過去に戻ることもできないのかしら? と何度も女神様に願った。まあ、そんなこと起こるはずもないのだけれど。

 数日間は接触を図られることもあるかな? と警戒もしていたのだが、何も無かったので安堵していたのだが……。

(この場で声をかけてくるなんて……)

 完全に狙っているとしか思えない。
 三大公爵家のエリーゼが自ら赴いて伯爵家の娘に声をかけているということで、周りの視線が集まってきている。一体何の話をしているのやらと囁く貴族達の光景が見なくとも分かった。

「公爵夫人直々にご足労いただきありがとうございます。私に何か御用でしょうか」

(あまり近づきたくはなかったけれど、私が招いたことだもの。仕方ないわね)

 とりあえず、最初は何も知りませんよーを突き通そうと思う。

「貴女にお聞きしたいことがあるの」

 エリーゼは隣にいたエステルに尋ねる。

「少しテレーゼ様をお借りしても良いかしら」
「もちろんです。どうぞ私達にはお構いなく」

 エステルが首肯し、アレクも頷く。

 私はエリーゼに連れられて会場の外に出て、疲れた人が休めるよう準備されている部屋のひとつに入室する。

「どうぞお先におかけになって」
「ありがとうございます」

 促されて二つあるソファのひとつに腰掛け、正面のソファにエリーゼも腰を下ろした。

「ごめんなさいね。せっかくの団欒の最中でしたのに」
「とんでもございません。ただ近況を報告しあっていただけですので」
「そう、なら良かった」

 微笑を浮かべたエリーゼは胸に手を当て安堵している。

 十数年ぶりのエリーゼに失礼だとは理解しつつも、彼女の一挙一動に注目してしまう。
 四児の母となり、今では私と倍の年齢となったエリーゼは記憶の中にある彼女よりも可憐だが気品を感じさせ、どことなく上に立つ者としての風格を持っていた。

(今も昔も見蕩れるほど美人だわ)

 美しい翡翠の瞳を縁取る長いまつ毛とパッチリした瞳。ぷっくりとツヤのある唇に日焼けを知らないような白魚のような腕。
 エディトと同じ天鵞絨の金髪は綺麗にまとめられていて、赤薔薇に似せた宝石を使った豪勢な髪飾りで留められている。
 彼女が頭を揺らす度に飾りがぶつかり合ってシャラシャラと軽やかな音を立てていた。

「テレーゼ・デューリング様」
「はい」

 畏まったエリーゼに私も背筋を伸ばすと、彼女は深く頭を下げた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する

キムラましゅろう
恋愛
辺境の田舎から聖騎士となった大好きな幼馴染フェイト(20)を追って聖女教会のメイドとして働くルゥカ(20)。 叱られながらもフェイトの側にいられるならとポンコツなりに頑張ってきた。 だけど王都で暮らして四年。そろそろこの先のない初恋にルゥカはケリをつける事にした。 初恋を諦める。諦めるけど彼の子供が欲しい。 そうしたらきっと一生ハッピーに生きてゆけるから。 そう決心したその日から、フェイトの“コダネ”を狙うルゥカだが……。 「でも子供ってどうやって作るのかしら?」 ……果たしてルゥカの願いは叶うのか。 表紙は読者様CさんがAIにて作成してくださいました。 完全ご都合主義、作者独自の世界観、ノーリアリティノークオリティのお話です。 そして作者は元サヤハピエン至上主義者でございます。 ハピエンはともかく元サヤはなぁ…という方は見なかった事にしていただけますと助かります。 不治の誤字脱字病患者が書くお話です。ところどころこうかな?とご自分で脳内変換しながら読むというスキルを必要とします。 そこのところをご了承くださいませ。 性描写はありませんが、それを連想させるワードがいくつか出てまいります。 地雷の方は自衛をお願いいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる

大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】 多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。 感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。 残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。 よろしくお願いいたします。 ----------------------------------------------------------- 大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。 「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」 死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。 国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!? 「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」 エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって…… 常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。 ※どんな形であれハッピーエンドになります。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

処理中です...