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第三章 不穏な侍女生活
懐かしい友人(1)
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その後、合流したエステルとダンスそっちのけで世間話をしていたのだけれど、その最中私はとても懐かしい人に声をかけられた。
「テレーゼ・デューリング様ですよね」
突如介入してきた声は聞き慣れた、けれども今世では聞く機会もないだろうと思っていた声で、私はふと顔を上げた。
そこには一人の夫人が佇んでいて、パチリと交じ合う翡翠の瞳は何故か小刻みに揺れていた。
「こんばんは。アエステッタ公爵夫人」
「…………私のことをご存知なのね」
「それはもちろんです。三大公爵家のひとつ、アエステッタ公爵家の家門は直接のご挨拶に伺う機会がなくとも、貴族の末席に名を連ねる以上、知っていて当然ですから」
笑みを絶やさず丁重に返答すると、彼女は少し寂しげな表情をした気がして嫌な胸騒ぎがする。
(まさか、イザベルだって気づいたとかないよね……?)
エディトの手助けをした際、私が手伝ったとは誰にも言わないでと口止めのお願いを忘れていたことに、祭祀が終わってから思い出したのだ。
(シルフィーア語を理解してるなんて、もしエディトがお母様であるエリーゼに伝えたら……)
絶対にその相手は何者なのかと疑問を持つだろう。エステルにも学生最後の夏休み旅行で怪訝な顔をされたが、シルフィーア語を母語のように使いこなせるのはごく僅かな人数なのだ。
ましてやエリーゼはユースの次に私に詳しいと言っても過言ではない。小さい頃から同じ公爵家の娘として付き合いがあったし、よく遊んでいた。
祭祀やシルフィーア語と結び付け、衝撃的な別れとなったイザベルを連想する可能性はあった。
ただ、生まれ変わりなんて聞いたこともないからエリーゼがその考えに至る可能性は極々わずか。
私の名前がエディトの口から出たとしても、娘に近づく不埒な令嬢だと調べ上げて警告しに来ることはあれど、イザベルだとは思わないはず。
(うぅでもエリーゼだから有り得るのよね)
彼女はここだ! というところで謎の勘を働かせてくるので怖いのだ。
なので身バレしてないか不安で不安で、生まれ変われるのならば過去に戻ることもできないのかしら? と何度も女神様に願った。まあ、そんなこと起こるはずもないのだけれど。
数日間は接触を図られることもあるかな? と警戒もしていたのだが、何も無かったので安堵していたのだが……。
(この場で声をかけてくるなんて……)
完全に狙っているとしか思えない。
三大公爵家のエリーゼが自ら赴いて伯爵家の娘に声をかけているということで、周りの視線が集まってきている。一体何の話をしているのやらと囁く貴族達の光景が見なくとも分かった。
「公爵夫人直々にご足労いただきありがとうございます。私に何か御用でしょうか」
(あまり近づきたくはなかったけれど、私が招いたことだもの。仕方ないわね)
とりあえず、最初は何も知りませんよーを突き通そうと思う。
「貴女にお聞きしたいことがあるの」
エリーゼは隣にいたエステルに尋ねる。
「少しテレーゼ様をお借りしても良いかしら」
「もちろんです。どうぞ私達にはお構いなく」
エステルが首肯し、アレクも頷く。
私はエリーゼに連れられて会場の外に出て、疲れた人が休めるよう準備されている部屋のひとつに入室する。
「どうぞお先におかけになって」
「ありがとうございます」
促されて二つあるソファのひとつに腰掛け、正面のソファにエリーゼも腰を下ろした。
「ごめんなさいね。せっかくの団欒の最中でしたのに」
「とんでもございません。ただ近況を報告しあっていただけですので」
「そう、なら良かった」
微笑を浮かべたエリーゼは胸に手を当て安堵している。
十数年ぶりのエリーゼに失礼だとは理解しつつも、彼女の一挙一動に注目してしまう。
四児の母となり、今では私と倍の年齢となったエリーゼは記憶の中にある彼女よりも可憐だが気品を感じさせ、どことなく上に立つ者としての風格を持っていた。
(今も昔も見蕩れるほど美人だわ)
美しい翡翠の瞳を縁取る長いまつ毛とパッチリした瞳。ぷっくりとツヤのある唇に日焼けを知らないような白魚のような腕。
エディトと同じ天鵞絨の金髪は綺麗にまとめられていて、赤薔薇に似せた宝石を使った豪勢な髪飾りで留められている。
彼女が頭を揺らす度に飾りがぶつかり合ってシャラシャラと軽やかな音を立てていた。
「テレーゼ・デューリング様」
「はい」
畏まったエリーゼに私も背筋を伸ばすと、彼女は深く頭を下げた。
「テレーゼ・デューリング様ですよね」
突如介入してきた声は聞き慣れた、けれども今世では聞く機会もないだろうと思っていた声で、私はふと顔を上げた。
そこには一人の夫人が佇んでいて、パチリと交じ合う翡翠の瞳は何故か小刻みに揺れていた。
「こんばんは。アエステッタ公爵夫人」
「…………私のことをご存知なのね」
「それはもちろんです。三大公爵家のひとつ、アエステッタ公爵家の家門は直接のご挨拶に伺う機会がなくとも、貴族の末席に名を連ねる以上、知っていて当然ですから」
笑みを絶やさず丁重に返答すると、彼女は少し寂しげな表情をした気がして嫌な胸騒ぎがする。
(まさか、イザベルだって気づいたとかないよね……?)
エディトの手助けをした際、私が手伝ったとは誰にも言わないでと口止めのお願いを忘れていたことに、祭祀が終わってから思い出したのだ。
(シルフィーア語を理解してるなんて、もしエディトがお母様であるエリーゼに伝えたら……)
絶対にその相手は何者なのかと疑問を持つだろう。エステルにも学生最後の夏休み旅行で怪訝な顔をされたが、シルフィーア語を母語のように使いこなせるのはごく僅かな人数なのだ。
ましてやエリーゼはユースの次に私に詳しいと言っても過言ではない。小さい頃から同じ公爵家の娘として付き合いがあったし、よく遊んでいた。
祭祀やシルフィーア語と結び付け、衝撃的な別れとなったイザベルを連想する可能性はあった。
ただ、生まれ変わりなんて聞いたこともないからエリーゼがその考えに至る可能性は極々わずか。
私の名前がエディトの口から出たとしても、娘に近づく不埒な令嬢だと調べ上げて警告しに来ることはあれど、イザベルだとは思わないはず。
(うぅでもエリーゼだから有り得るのよね)
彼女はここだ! というところで謎の勘を働かせてくるので怖いのだ。
なので身バレしてないか不安で不安で、生まれ変われるのならば過去に戻ることもできないのかしら? と何度も女神様に願った。まあ、そんなこと起こるはずもないのだけれど。
数日間は接触を図られることもあるかな? と警戒もしていたのだが、何も無かったので安堵していたのだが……。
(この場で声をかけてくるなんて……)
完全に狙っているとしか思えない。
三大公爵家のエリーゼが自ら赴いて伯爵家の娘に声をかけているということで、周りの視線が集まってきている。一体何の話をしているのやらと囁く貴族達の光景が見なくとも分かった。
「公爵夫人直々にご足労いただきありがとうございます。私に何か御用でしょうか」
(あまり近づきたくはなかったけれど、私が招いたことだもの。仕方ないわね)
とりあえず、最初は何も知りませんよーを突き通そうと思う。
「貴女にお聞きしたいことがあるの」
エリーゼは隣にいたエステルに尋ねる。
「少しテレーゼ様をお借りしても良いかしら」
「もちろんです。どうぞ私達にはお構いなく」
エステルが首肯し、アレクも頷く。
私はエリーゼに連れられて会場の外に出て、疲れた人が休めるよう準備されている部屋のひとつに入室する。
「どうぞお先におかけになって」
「ありがとうございます」
促されて二つあるソファのひとつに腰掛け、正面のソファにエリーゼも腰を下ろした。
「ごめんなさいね。せっかくの団欒の最中でしたのに」
「とんでもございません。ただ近況を報告しあっていただけですので」
「そう、なら良かった」
微笑を浮かべたエリーゼは胸に手を当て安堵している。
十数年ぶりのエリーゼに失礼だとは理解しつつも、彼女の一挙一動に注目してしまう。
四児の母となり、今では私と倍の年齢となったエリーゼは記憶の中にある彼女よりも可憐だが気品を感じさせ、どことなく上に立つ者としての風格を持っていた。
(今も昔も見蕩れるほど美人だわ)
美しい翡翠の瞳を縁取る長いまつ毛とパッチリした瞳。ぷっくりとツヤのある唇に日焼けを知らないような白魚のような腕。
エディトと同じ天鵞絨の金髪は綺麗にまとめられていて、赤薔薇に似せた宝石を使った豪勢な髪飾りで留められている。
彼女が頭を揺らす度に飾りがぶつかり合ってシャラシャラと軽やかな音を立てていた。
「テレーゼ・デューリング様」
「はい」
畏まったエリーゼに私も背筋を伸ばすと、彼女は深く頭を下げた。
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