悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

文字の大きさ
17 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々

アルメリア国

しおりを挟む
──1週間後
 
「シア、元気でね」

「わざわざお見送りありがとう。ギル」

 慌ただしく荷造りをし始めてから一週間。いよいよ旅立ちの日になった。
 今は見送りに来て下さった殿下と別れの挨拶をしている最中だ。

 アルメリアまで着いてきてくれるお父様とルーナは既に馬車に乗っており、私と殿下以外に周りには人がいない。大方、婚約者同士で最後の別れの挨拶を悔いなくできるように取り計らってくれたのだろう。

 それ自体はとても有難いけど、何を話せばいいのか正直なところ分からなくて会話が続かない。

 沈黙が数十秒続き、何か話題をあげなければ……と口を開こうとすると、殿下が先に口を開いた。

「そう言えば、僕があげた婚約指輪持ってる?」

「ええ、ここにありますけど……」

 いきなり何を? と不思議に思いながらもゴソゴソと鞄を探り、小袋を殿下に渡す。
 殿下は小袋の紐を解き、小箱を開けると指輪を掌で包み、その後にそっと私の左手を取って薬指に付けた。

「はい、外したらダメだからね。ずっと付けてて」

「ええ……今、何かした?」

 一瞬手の間から光が漏れたような……? 微かな疑問が浮かんだので尋ねると殿下は軽く私の手を握った。

「何もしてないよ。強いて言うなら、おまじない」

 おまじない……普通に考えたら旅の安全とか健康に関してのおまじない。感謝を伝えた方がいいのかな?

「あっありがとう……?」

「感謝はいらないかな……私がやらないといけないことだから」

「何を仰いました? 最後の方聞き取れなくて」

「何も」
 
 最後の言葉が聞き取れずに、聞き返すと殿下は笑いながら顔を横に振った。

 そうして不意に顔を近づけてきて────

 私の頬に柔らかな感触が落ちた。

(いっ、いまっっ!)

 赤くなる私に対し、殿下はにこやかな笑みを浮かべている。

「有意義な留学になることを願っているよ」

 私はこくこく頷くことしか出来ない。

「お嬢様! お乗りください」

 ルーナの声が聞こえる。私は一度殿下にお辞儀をして、お父様が乗っている馬車に乗り込むと馬車はゆっくりと動き出した。

 馬車が見えなくなった所で、一瞬地面を見つめた後、ギルバートはポツリと呟く。

「僕は────だね」


◇◇◇



 馬車は進んでいき、周りの景色は森林から見たこともない建築様式の建物が並び始める。

「素敵ね。本の中では知っていたけど実物はもっと綺麗だわ」

「シア、もうすぐ着くよ。支度をしなさい」

「分かりましたわお父様」

 馬車に乗ること数時間、私たちは隣の国であるアルメリアに到着した。数時間と言ってもこの馬車は魔法で通常の馬車よりも速度が出るようになっているので、普通に行くと二日かかる距離だ。

 アルメリアは海に囲まれており、水産漁業と魔法研究が盛んだ。
 そしてアルメリアに流れる川は清流で、清らかなことで有名。何でも昔、天使様が人々がいつまでも清く、正しく、思い遣りを忘れずに過ごして行けるように願って、アルメリアに川を創った伝説が残っている。

 天使様は様々な国で伝説として話に出てくるが、存在しているかは意見が分かれている。

 人間が勝手に作った想像上の人物であるかも…と考える人や、人前に出てこないので見た者が少なくて存在しないとなっているだけで、本当は私達人間を見守っていると思っている人もいる。

 私は天使様は存在すると思っている。だって天使様だったら私の時間を巻き戻せるかもしれない。そしたら私が二回目の人生を歩んでいるのも納得出来る。

 でも、再びアタナシアの人生を歩ませてくれるのだったら、赤子からやり直して、赤子の時に記憶が戻って欲しかった。

 そうすれば、そもそもの婚約を回避して、殿下のことを避けたり今よりももっと有効な対策を出来たはずなのに……。
 
(この時期に記憶が戻ったのは一体何のためなの……?)

 そんなことを考えていて険しい顔をしていたからだろうか、ルーナが心配そうにこちらを見てきたので大丈夫よと一言伝えた。

 話は逸れてしまったが、それ以外にもアルメリアは他の国に引けを取らない程特色が多く、大国として世界に名を連ねている。

 私が留学する魔導師と呼ばれる魔法使いを数多く輩出する名門校、アルメリア魔法学校には外国からも多数の留学生が魔法の腕を上げるために留学しに来る。

 外からも将来国の中枢に入るような者が多数来る為、万が一のことがあったら外交問題に発展する可能性を考慮し、学校内はセキュリティの面でも高い水準を誇っている。

 それもあったからお父様は私が留学することもあっさりと許可してくれたのかもしれない。そんなことを考えていたら馬車が止まった。

「お待ちしておりました。ラスター公爵様、ご令嬢アタナシア様、奥の間で陛下がお待ちでございます」

 従者の手を借りて馬車を降りると、アルメリアの王宮に仕える侍女が私達を迎えた。

 アルメリアの王宮は周りに水が流れ、宮内も至る所に水路が巡らされている。流石、水の豊かな大国。清らかな水流が長旅で疲れきった身体を癒してくれるように感じる。

 私たちは水のアーチをくぐり抜けて、水路に浮かぶ自国には無い花を鑑賞しながら王宮の奥へと進んでいく。
 すると一際大きな空間が現れ、大きな扉の前には近衛兵らしき人達が警護していた。

「陛下、ラスター公爵様とご令嬢アタナシア様をお連れしました」

 侍女が中にいるだろう人に向けて声を上げる。

「どうぞ中にお入りください」

 ゆっくりと開かれた重厚な扉をお父様の後に続いて入っていくと、正面の玉座にまだ若々しい男性と隣に美しい女性が座っている。その傍に似たような顔立ちの二人の人物がこちらを見ながら立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約してました~

marumi
恋愛
大国、セレスティア帝国に生まれた皇女エリシアは、争いも悲しみも知らぬまま、穏やかな日々を送っていた。 しかしある日、帝都を揺るがす暗殺事件が起こる。 紅蓮に染まる夜、失われた家族。 “死んだ皇女”として歴史から名を消した少女は、 身分を隠し、名前を変え、生き延びることを選んだ。 彼女を支えるのは、代々皇族を護る宿命を背負う アルヴェイン公爵家の若き公子、ノアリウス・アルヴェイン。 そして、神を祀る隣国《エルダール》で出会った、 冷たい金の瞳をした神子。 ふたつの光のあいだで揺れながら、 エリシアは“誰かのための存在”ではなく、 “自分として生きる”ことの意味を知っていく。 これは、名前を捨てた少女が、 もう一度「名前」を取り戻すまでの物語。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。 同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。 おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。 幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。 しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。 実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。 それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」 その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。 わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。 そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。 陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。 この物語は、その五年後のこと。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

処理中です...