悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

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第二章 アルメリアでの私の日々

新しい出会い(2)

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「警戒心が強いマーガレット王女殿下が心を許す者。つまり、差別や偏見を持たない者ということで、仲良くなりたいのですわ」

 買い被りすぎだ。だけど……

(これ、拒否権あるかしら?)

 強引さに固まる私を見てどう思ったのか知らないが、肩を掴む手の力が強くなる。爪がくい込んで痛い。

「どっちですの! 親交を持ってくださいますわよねっ?」

 迫力がすごい。圧もすごい。

「えっと……とりあえず離していただけ……」

「──エリザベス・ウェドナー、おやめなさい。困っていらっしゃるでしょう」

 凛とした声が間に入り、細い手がエリザベス様の腕をそっと掴む。

「マーガレット王女!」

 声高く呼んだのはエリザベス様で、彼女はぱっと私の肩から手を離す。
 助かったと思った同時に、マーガレット王女はなんだか疲れているように見えた。

「王女様から会いに来てくださるなんてとても嬉しいですわ!」

「いや、私は餌食になっているターシャを助けようと……そもそも授業中……」

 都合のいいように受け取っているエリザベス様に対して、若干引き気味なマーガレット王女は彼女と距離をとり始める。

「今回こそは逃がしませんわ! 王女様、わたくしの友人になってくださいませ!」

「ダメだやっぱり聞いてない。逃げるわ」

 そう言ったマーガレット王女は私の手を握って脱兎のごとく人混みの中に紛れ込む。

「助けてくださってありがとうございます」

「どういたしまして」

 微かにマーガレット王女が笑う。その姿だけ見ると昼休みの一件は尾を引いていないようだ。

「それにしても災難だったわね」

 後ろを警戒しながらマーガレット王女は言う。上手く巻けたようでエリザベス様は見当たらない。

「はい。ちょっと押しが強い方なのですね」

「あれはちょっとではないわ。良い人だとは思うけど、私は苦手」

 私の推測は当たっていたようだ。やはりマーガレット王女が疲れているように見えたのは、私を助けるために自ら彼女に接触を図らないといけなかったからだろうか。

「はい、ターシャの場所はここ。私はもっと前だからまたね」

 ひらひらと小さく手を振って、マーガレット王女は行ってしまった。

 どうやらそのままヴィアリナ先生が指示していた列に案内してくれたらしい。周りを見れば午前の授業を一緒に受けた令嬢達がいる。

「ほとんど並びましたかね。では今日はこれを作ってもらいます」

 前に立つヴィアリナ先生は顔一個分ほどある球体を手の上に浮かせる。

「名前は『メモリア』端的に言うと保存魔具の一種です」

 先生が指を動かせば生徒の真上にメモリアが移動する。真下から見る限り中は液体と花々で満たされているようだ。気泡らしきものが球体の上部に昇っていく。

「作り方をざっと説明すると、一人がメモリア専用の液体を使って外形を作り、もう一人が中に保存する物を入れて固める作業を同時並行で行います」

 パチンっとヴィアリナ先生が指を鳴らす。するとメモリアも破裂して、中に入っていた花──否、花びらが辺りに舞い、身体に触れた途端、雪が溶けるように跡形もなく消えていった。

「自分達の好きなものをつめなさい。植物でも、宝石でも、記憶でも。作り方は紙に書いたメモを配ります。では、私たちから受け取った生徒からパートナーと合流して作り始めてね。解散!」

 生徒はメモをもらいに周りに控えていた先生達の所へと散る。私もヴィアリナ先生のところへ行き、受け取る。

「彼のパートナーは大変でしょうけど頑張ってね」

「はい」

 単に王族のパートナーだから頑張れと言っているわけではないだろう。なんせアレクシス殿下は魔具を作るのが得意であると言っていた。
 王都を案内してもらった時に付けた指輪も彼の作品なのだから、その才能を疑う余地はない。

(足を引っ張らないようにしないと)

 気を引き締め、アレクシス殿下は何処にいるのだろうかと辺りを見回す。

「アタナシア嬢」

「あ、殿下」

 とんとんと肩を叩かれ振り向けば、そこにはアレクシス殿下がいた。彼は持っていたメモを掲げ、にっこり笑う。

「初めての共同作業だけどよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします。殿下の荷物にならないよう精一杯頑張ります!」

「そんな肩に力を入れなくて大丈夫だよ。メモリアは比較的魔具の中でも作りやすいし、あれはほぼ魔法のようなものだからね」

 意気込む私を見て、アレクシス殿下は口に手を当てクスクスと笑ったのだった。
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