43 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々
新しい出会い(2)
しおりを挟む
「警戒心が強いマーガレット王女殿下が心を許す者。つまり、差別や偏見を持たない者ということで、仲良くなりたいのですわ」
買い被りすぎだ。だけど……
(これ、拒否権あるかしら?)
強引さに固まる私を見てどう思ったのか知らないが、肩を掴む手の力が強くなる。爪がくい込んで痛い。
「どっちですの! 親交を持ってくださいますわよねっ?」
迫力がすごい。圧もすごい。
「えっと……とりあえず離していただけ……」
「──エリザベス・ウェドナー、おやめなさい。困っていらっしゃるでしょう」
凛とした声が間に入り、細い手がエリザベス様の腕をそっと掴む。
「マーガレット王女!」
声高く呼んだのはエリザベス様で、彼女はぱっと私の肩から手を離す。
助かったと思った同時に、マーガレット王女はなんだか疲れているように見えた。
「王女様から会いに来てくださるなんてとても嬉しいですわ!」
「いや、私は餌食になっているターシャを助けようと……そもそも授業中……」
都合のいいように受け取っているエリザベス様に対して、若干引き気味なマーガレット王女は彼女と距離をとり始める。
「今回こそは逃がしませんわ! 王女様、わたくしの友人になってくださいませ!」
「ダメだやっぱり聞いてない。逃げるわ」
そう言ったマーガレット王女は私の手を握って脱兎のごとく人混みの中に紛れ込む。
「助けてくださってありがとうございます」
「どういたしまして」
微かにマーガレット王女が笑う。その姿だけ見ると昼休みの一件は尾を引いていないようだ。
「それにしても災難だったわね」
後ろを警戒しながらマーガレット王女は言う。上手く巻けたようでエリザベス様は見当たらない。
「はい。ちょっと押しが強い方なのですね」
「あれはちょっとではないわ。良い人だとは思うけど、私は苦手」
私の推測は当たっていたようだ。やはりマーガレット王女が疲れているように見えたのは、私を助けるために自ら彼女に接触を図らないといけなかったからだろうか。
「はい、ターシャの場所はここ。私はもっと前だからまたね」
ひらひらと小さく手を振って、マーガレット王女は行ってしまった。
どうやらそのままヴィアリナ先生が指示していた列に案内してくれたらしい。周りを見れば午前の授業を一緒に受けた令嬢達がいる。
「ほとんど並びましたかね。では今日はこれを作ってもらいます」
前に立つヴィアリナ先生は顔一個分ほどある球体を手の上に浮かせる。
「名前は『メモリア』端的に言うと保存魔具の一種です」
先生が指を動かせば生徒の真上にメモリアが移動する。真下から見る限り中は液体と花々で満たされているようだ。気泡らしきものが球体の上部に昇っていく。
「作り方をざっと説明すると、一人がメモリア専用の液体を使って外形を作り、もう一人が中に保存する物を入れて固める作業を同時並行で行います」
パチンっとヴィアリナ先生が指を鳴らす。するとメモリアも破裂して、中に入っていた花──否、花びらが辺りに舞い、身体に触れた途端、雪が溶けるように跡形もなく消えていった。
「自分達の好きなものをつめなさい。植物でも、宝石でも、記憶でも。作り方は紙に書いたメモを配ります。では、私たちから受け取った生徒からパートナーと合流して作り始めてね。解散!」
生徒はメモをもらいに周りに控えていた先生達の所へと散る。私もヴィアリナ先生のところへ行き、受け取る。
「彼のパートナーは大変でしょうけど頑張ってね」
「はい」
単に王族のパートナーだから頑張れと言っているわけではないだろう。なんせアレクシス殿下は魔具を作るのが得意であると言っていた。
王都を案内してもらった時に付けた指輪も彼の作品なのだから、その才能を疑う余地はない。
(足を引っ張らないようにしないと)
気を引き締め、アレクシス殿下は何処にいるのだろうかと辺りを見回す。
「アタナシア嬢」
「あ、殿下」
とんとんと肩を叩かれ振り向けば、そこにはアレクシス殿下がいた。彼は持っていたメモを掲げ、にっこり笑う。
「初めての共同作業だけどよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。殿下の荷物にならないよう精一杯頑張ります!」
「そんな肩に力を入れなくて大丈夫だよ。メモリアは比較的魔具の中でも作りやすいし、あれはほぼ魔法のようなものだからね」
意気込む私を見て、アレクシス殿下は口に手を当てクスクスと笑ったのだった。
買い被りすぎだ。だけど……
(これ、拒否権あるかしら?)
強引さに固まる私を見てどう思ったのか知らないが、肩を掴む手の力が強くなる。爪がくい込んで痛い。
「どっちですの! 親交を持ってくださいますわよねっ?」
迫力がすごい。圧もすごい。
「えっと……とりあえず離していただけ……」
「──エリザベス・ウェドナー、おやめなさい。困っていらっしゃるでしょう」
凛とした声が間に入り、細い手がエリザベス様の腕をそっと掴む。
「マーガレット王女!」
声高く呼んだのはエリザベス様で、彼女はぱっと私の肩から手を離す。
助かったと思った同時に、マーガレット王女はなんだか疲れているように見えた。
「王女様から会いに来てくださるなんてとても嬉しいですわ!」
「いや、私は餌食になっているターシャを助けようと……そもそも授業中……」
都合のいいように受け取っているエリザベス様に対して、若干引き気味なマーガレット王女は彼女と距離をとり始める。
「今回こそは逃がしませんわ! 王女様、わたくしの友人になってくださいませ!」
「ダメだやっぱり聞いてない。逃げるわ」
そう言ったマーガレット王女は私の手を握って脱兎のごとく人混みの中に紛れ込む。
「助けてくださってありがとうございます」
「どういたしまして」
微かにマーガレット王女が笑う。その姿だけ見ると昼休みの一件は尾を引いていないようだ。
「それにしても災難だったわね」
後ろを警戒しながらマーガレット王女は言う。上手く巻けたようでエリザベス様は見当たらない。
「はい。ちょっと押しが強い方なのですね」
「あれはちょっとではないわ。良い人だとは思うけど、私は苦手」
私の推測は当たっていたようだ。やはりマーガレット王女が疲れているように見えたのは、私を助けるために自ら彼女に接触を図らないといけなかったからだろうか。
「はい、ターシャの場所はここ。私はもっと前だからまたね」
ひらひらと小さく手を振って、マーガレット王女は行ってしまった。
どうやらそのままヴィアリナ先生が指示していた列に案内してくれたらしい。周りを見れば午前の授業を一緒に受けた令嬢達がいる。
「ほとんど並びましたかね。では今日はこれを作ってもらいます」
前に立つヴィアリナ先生は顔一個分ほどある球体を手の上に浮かせる。
「名前は『メモリア』端的に言うと保存魔具の一種です」
先生が指を動かせば生徒の真上にメモリアが移動する。真下から見る限り中は液体と花々で満たされているようだ。気泡らしきものが球体の上部に昇っていく。
「作り方をざっと説明すると、一人がメモリア専用の液体を使って外形を作り、もう一人が中に保存する物を入れて固める作業を同時並行で行います」
パチンっとヴィアリナ先生が指を鳴らす。するとメモリアも破裂して、中に入っていた花──否、花びらが辺りに舞い、身体に触れた途端、雪が溶けるように跡形もなく消えていった。
「自分達の好きなものをつめなさい。植物でも、宝石でも、記憶でも。作り方は紙に書いたメモを配ります。では、私たちから受け取った生徒からパートナーと合流して作り始めてね。解散!」
生徒はメモをもらいに周りに控えていた先生達の所へと散る。私もヴィアリナ先生のところへ行き、受け取る。
「彼のパートナーは大変でしょうけど頑張ってね」
「はい」
単に王族のパートナーだから頑張れと言っているわけではないだろう。なんせアレクシス殿下は魔具を作るのが得意であると言っていた。
王都を案内してもらった時に付けた指輪も彼の作品なのだから、その才能を疑う余地はない。
(足を引っ張らないようにしないと)
気を引き締め、アレクシス殿下は何処にいるのだろうかと辺りを見回す。
「アタナシア嬢」
「あ、殿下」
とんとんと肩を叩かれ振り向けば、そこにはアレクシス殿下がいた。彼は持っていたメモを掲げ、にっこり笑う。
「初めての共同作業だけどよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。殿下の荷物にならないよう精一杯頑張ります!」
「そんな肩に力を入れなくて大丈夫だよ。メモリアは比較的魔具の中でも作りやすいし、あれはほぼ魔法のようなものだからね」
意気込む私を見て、アレクシス殿下は口に手を当てクスクスと笑ったのだった。
24
あなたにおすすめの小説
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約してました~
marumi
恋愛
大国、セレスティア帝国に生まれた皇女エリシアは、争いも悲しみも知らぬまま、穏やかな日々を送っていた。
しかしある日、帝都を揺るがす暗殺事件が起こる。
紅蓮に染まる夜、失われた家族。
“死んだ皇女”として歴史から名を消した少女は、
身分を隠し、名前を変え、生き延びることを選んだ。
彼女を支えるのは、代々皇族を護る宿命を背負う
アルヴェイン公爵家の若き公子、ノアリウス・アルヴェイン。
そして、神を祀る隣国《エルダール》で出会った、
冷たい金の瞳をした神子。
ふたつの光のあいだで揺れながら、
エリシアは“誰かのための存在”ではなく、
“自分として生きる”ことの意味を知っていく。
これは、名前を捨てた少女が、
もう一度「名前」を取り戻すまでの物語。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。
その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界!
物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて…
全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。
展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。
のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。
けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
記憶にありませんが、責任を取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。
同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。
おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。
幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。
しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。
実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。
それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる