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休暇と告白
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しおりを挟むそれはほんの小さな点だったけど間違いなく血だった。
俺はどこも怪我なんかしてない。ならこの僅かな血痕はクラウスの物だ。
「クラウスどこか怪我したの?」
「どうかしたのか?」
部屋に戻り声をかければベッドに腰掛けていたクラウスが質問を返してきた。
「あ、うん。洗面台にちょっとだけ血がついてたから。」
「──ああ。今剣の手入れをしてて少しばかりな。大したことないさ。」
「……そっか。」
答えてくれたクラウスの手には特に手当をした形跡はなくて、何でもないよとゆう顔で柔らかく笑う。落ちてた血はほんのちょっとだから俺が大袈裟に心配するのもおかしいよね。
子供達といるせいか小さな事が気になってしまうけど俺だって包丁でちょっぴり切った傷を『大丈夫?』なんて心配されたら恥ずかしいかも知れない。
そして『剣』と言われ、以前勝手に触ろうとしてびっくりしたことを思い出した。
俺のもらった『お守り』にも同じような魔法がかかっているのだろうか。王都やウォールのギルドでやってしまった様に相手に悪意がないのに過剰に反応したことで相手を苦しめてしまうのは嫌だな。
「なんだ?まだなにかあるのか」
「……クラウス、このブレスレットもらったときね、すごく嬉しかったよ。俺があんな酷いこと云った後だったし、それにこの石の色がクラウスの瞳と同じ色だからずっとクラウスがそばにいてくれるみたいで安心するんだ。」
その言葉に嘘はない。向かいのベッドに腰掛け、俺の言葉に口元を緩めてくれたクラウスにこの先を続けたら怒られてしまうだろうか。
「だけど前ギルドまで心配して来てくれた時はラテ屋のお姉さんを転ばせちゃったし、今日はギルドのお兄さんが飛ばされちゃったよね。俺、変に怖がりになってるみたいだからまた同じような事があったら誰かを傷つけてしまいそうで少し怖い。」
「今日のだって向こうが悪い。少しもおかしな魔法じゃないぞ。」
ため息交じりのクラウスは少し呆れている様な顔を向けた。
「分かってる。分かってるけど……俺誰かをやたら攻撃して傷付けたくはないんだ。だからこのブレスレットが俺を護ってくれるのがどんな時なのか、どんな魔法がかかってるのかちゃんと知っておきたい。そうしたら起きたことに責任も取れるし変に罪悪感を持たなくてもすむと思うんだ。知らないままでいるのは何よりも怖い。」
ただでさえ人と衝突することは避けてきた。傷付けるのも傷付けられるのも得意な人間なんていない。ましてや物理的に傷付けるなんて怖くて仕方なかった。俺の生きてきた場所は、やられた事をやり返しても許される世界ではないのだから。
「まあそれもそうだな。じゃあまずは今日の防御結界。お前が危険を感じた時に対象をお前から強制的に排除する。他には物理攻撃と反射、状態異常無効、位置探査……だったと思う。」
「それって具体的にはどうなるの?」
「物理攻撃無効と反射は例えば誰かがお前を殴ろうとするだろ?その力がお前には当たらず同じ威力が相手に跳ね返る。」
クラウスは左の手のひらを殴る素振りをして直前で胸に当ててみせた。
「状態異常無効は魔法で精神攻撃をされたり薬物を使われても大丈夫なもので今のお前は酒を飲んでも残念ながら酔わないぞ。」
「俺まだお酒飲んだことない……っていうかなにそれ、だからあんな事になっちゃったの?やっぱり怖いよ普通に暮らしてたらそんな事にはならない……よ?」
向い合せで座っていたクラウスが俺の胸をトンっと押したので俺はベッドの上にそのまま倒れてしまった。
「お前のいたところがどんなところかなんて想像つかないけど今お前のいる世界はそうゆう世界だ。実際普通に暮らしていて攫われて、どうなるところだったか忘れたのか。」
口に出してはいなかったから俺の怖がる理由をちゃんと理解してくれた様なクラウスの言葉にも倒されたことにも驚いた。
「忘れてなんかいないよ。でもあれは相手も悪かったし俺も悪かったって云うか、ちょっクラウスやめてよ。」
起き上がりかけたところをまた押されて再び仰向けに倒された上にクラウスが俺の手を押さえつけてきた。
「お前は悪くないって何度も言ってるだろう。そんなにそのブレスレットが怖いなら今の俺から逃げてみろ。それが出来たら付与魔法の威力も半分にしてやる。なんなら外したっていい。」
クラウスの長い金の髪が俺の顔にかかる。俺の上に覆いかぶさるようにしてるけれど体重は俺の足の間に入れた膝に集中させているのか顔の横で抑えられた両手首には重さは殆んどかかって無かった。
正直こんなの簡単だと思った。なのにいつまでたっても全然抜け出せない。
どれだけ身をよじっても昨日くすぐったくて逃げ出したようには抜け出せなかった。
「ゔ~分かった!もう無理!」
本当に無理だった、直に抑えられている手首すら痛くないのにまるで歯が立たなかった。それにこの体制でクラウスに至近距離からじっと見つめられるのもだんだん耐えられなくなってしまった。
開放されたものの風呂上がりに動いたからか恥ずかしさから顔が熱い。
「ほらな。分かったら大人しく護られていろ。お前が嫌がるような『こちらからの攻撃』はしない。やられた事を返すかナシにするだけだ。」
手を引っ張って俺の身体を起こすと頭をポンポンと叩いて子供の様にあやされる。
マデリンでの事は忘れた訳じゃない。でもその記憶のほとんどはクラウス相手にみっともなく泣きわめいた事に占められていて『恐怖心』もうろ覚えだ。
だからこそ自分ではコントロール出来ない感情が誰かを傷付ける事が不安で仕方ない。
だけど『こちらからの攻撃はしない』と言ってくれた事で、また次に同じ様な事をしてしまった時の免罪符を得た気になれた。
頭に乗せられた手の感触を追うように髪を直すフリをして自分の頭を撫でる。以前と変わらない子供扱いにさっき感じた違和感は勘違いだったのだと安堵した。
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