迷子の僕の異世界生活

クローナ

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休暇と告白

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「トウヤ、時間だ。」

なんの?

「ん……やだ、もうちょっと。」

だって今すごく居心地がいい。こんなの夢だって分かっているけれど目を開けたら消えてしまう。

「寝間着のままは嫌なんだろう?」

その声にパチリと目が醒めた。それでも心地よさは変わることなく俺はクラウスの腕の中にいた。

しかもまたクラウスの胸にくっついて眠っていて、顔をあげると優しい空の蒼色の瞳が見下ろしていた。居心地が良くて当たり前だ。

「おはよう、トウヤ。」

おはようの挨拶と一緒にキスをおでこしてクラウスはベッドを出た。

「お、おはよう。」

自分がいつも子供達にしてる事なのにされるのは慣れない。こんな事で充分照れてしまうのに着替えを終えて部屋を出ると云う時にクラウスがまた聞いてきた。

「トウヤ、キスしていいか?」

手の甲で頬を撫でながら綺麗な空の蒼色の瞳が俺の瞳を覗き込んで答えを待っている。
昨日の朝は勝手にしたくせに昨夜といい今といいわざわざ聞いてくるなんて俺の反応を楽しんでいるのかな?それならもの凄く意地悪だ。

いいよ?どうぞ?どう返事したらいいのかわからずコクコクとうなずいてから昨日教えられた様にちゃんと鼻で息をして少しだけ口を開けて待った。

これ……恥ずかしい。

あごを掬われクラウスの柔らかい唇が俺の唇に重なる。はじめの時と同じ重なるだけの長いキス。でも教えて貰ったおかげで呼吸もなんとか苦しくならずにいられた。キスの後はぎゅうっと抱きしめられてちょっとだけ苦しかったけどすぐにパッと離された。

「じゃあ行くか。」

「うん。」

ウォールに来た時と同じ冒険者だった頃の格好のクラウスとまだ夜が明け切らない中を馬車に乗った。

「眠くなったら寝ればいい。」

定位置のようにキャリッジの奥に俺を乗せ、その隣にクラウスが座る。

「大丈夫だよ、まだ話足りないことがいっぱいあるんだ。」

昨日の夜は寒かったけど今は寄り添ってるから平気だ。それに一緒にいられるのは明日の朝までなんだから眠ってしまうなんて勿体ない。
王都に戻れば俺は『桜の庭』で、クラウスはこのきれいな長い金髪を束ねて『騎士様』に戻ってまた逢えない日常が始まってしまうのだ。

俺の話だけじゃなく、クラウスのお仕事の話しを聞いたりしながら馬車を乗り継ぎそしてやっぱり少しだけうたた寝したりもしながら帰り道はあっと云う間で俺達は王都に戻った。

今の時間はいつもなら子供達が眠って、俺もそろそろ眠ろうかなって思うくらいの時間。宿までの通りはそんな時間でも相変わらず人通りが多くて普段出歩くわけでもないのに『帰って来た』って気分になるからなんか不思議だ。
ウォールの夜の様に並んで宿まで歩きながら美味しそうな匂いのする屋台に立ち寄って空腹を満たした。

そして宿での居場所がベッドしかない部屋の狭さも王都なんだと感じさせる。

「帰って来ちゃったね。3日間もお休みもらって長いと思ったけどそうでもなかった。俺こんな楽しい旅行初めてだった。ありがとうクラウス。」

「そうか。トウヤが楽しんでくれて良かった。」

へへって俺が笑ったらクラウスはなんだか安心したような顔で笑った。

コートをハンガーにかけてもらって俺は今日こそシャワーをクラウスに譲るつもりでいた。

「シャワーの前に少しいいか?トウヤに話があるんだ。」

「俺に話?」

そう言われベッドの上に腰を降ろした。ベッドの隙間は狭いけれどクラウスの足の間に入ってしまえばちゃんと向かい合わせで座ることが出来たんだけど改まって一体なんの話なんだろう。

「討伐遠征でセオが怪我をした。」

「……え?」

「結構大きな怪我だった。それで───」

「ちょっと待って。話ってそれ?じゃあ俺怪我をしたセオに自分の仕事押し付けて知らん顔で呑気にお風呂に入って楽しんでたって事?」

信じられなかった。怪我をしたセオに何もかも押し付けてた事も。それを知っていながら今まで内緒にしてたクラウスも。

「ひどい、何で今頃言うの?俺今すぐ帰る!」

大きな声を上げて立ち上がった俺の両腕をクラウスに掴まれてしまった。

「離してクラウス。」

「落ち着け、続きをちゃんと聞いてくれ。怪我は治ってる。今はなんともない。院長も知ってるから落ち着いて座って聞いてくれ。」

「……セオは本当に大丈夫なの?」

真剣な顔をして俺を見つめるクラウスは痛いほどに引っ張っても全然手を離してくれないから従うしかなくて、でも落ち着くなんて無理だった。

「すまない混乱させたな、セオは大丈夫だ。話す順番を間違えた、大事な話はトウヤ自身の話だ。」

「俺の事?それとセオが怪我したのと何か関係があるの?」

「トウヤは治癒魔法が使える。それもかなり高位の治癒魔法だ。トウヤほどの使い手はこの国に存在しないだろう。」

「───え?」

思わず掴まれたままの両手を見た。見慣れた何の変哲もない手。

「俺そんな事出来ないよ?クラウスはさっきから俺の事からかってるの?」

いつ?どこで?どうやって?魔法の使えない俺がそんな事出来るわけもないのに何でそんな風に言うんだろう。

「からかってなんかいない。トウヤは間違いなく治癒が出来るんだ。見てみるか?」

「見てみるかって……な…に……?」

その言葉の意味を理解できないうちに視界に鈍い光を放つものが目に入る。
それはいつの間にかクラウスの右手に握られたナイフで、袖のめくられた左腕の内側にピタリと当てられたかと思ったらまるでバイオリンでも弾くようにそれを滑らせた。

マデリンで俺の小指の先を切ったのより倍以上大きな刃渡りのナイフが躊躇いなく肌の上を通り過ぎそこから真っ赤な血が流れ出した。






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