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皇子様のお披露目式
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しおりを挟む「ああ良いなそなたの言う通りだ。時にアルフレッド、お前は狩り損じたウサギがどれ程美味そうだったか知っていたか?」
王妃様は俺の顔を確認して気が済んだようでアルフ様とエリオット様の方へ俺の体を反転させた。
「ふふっ私は最初から狩りには参加してませんよ、それにすでに狩られた獲物を横取りしようモノなら国が二分するかも知れませんしね。しかし母上、いつの間にトウヤとそんなに仲良くなられたのですか?」
「良いだろうあれから共に湯浴みをしたのだ、なぁトウヤ。」
後ろに立っている王妃様が両肩に手を置いて肩越しに覗きながらウインクした。
「一緒に湯浴み!?よくクラウスが許したな。」
「一緒に入ったわけじゃなくて隣でお手入れして頂いたんです。」
王妃様が昨日の俺と同じ大雑把な言い回しをするからアルフ様が真紅の瞳をまん丸にして俺を見た。こういう誤解はすぐに解いておかないと王妃様にも失礼だ。
からかわれたと気付いたのかアルフ様はなんとも言えない顔をしながらクスクスと楽しそうに笑う王妃様をソファーにエスコートした。
「おはようございますトウヤさん。その…すごくお綺麗です。」
俺を挟んだ王妃様とアルフ様のやり取りが落ち着いたのを見ていたエリオット様がそっと近づいて挨拶してくれた。『お綺麗』だなんて年下に気を使わせてなんだか申し訳ない。
「ありがとうございます。エリオット様こそ素敵ですよ。」
俺も見習って社交辞令を返してみたら昨夜の様に照れてしまってなんだか可愛い。とは言えエリオット様は生まれた時から皇子様だからもちろん本当に素敵なんだけどね。
「そうだトウヤここにいても退屈だろう、良いものを見せてやろうか。」
「いいものですか?」
「兄上様、私もご一緒していいですか?」
エリオット様は『良いもの』がなんなのか知っているみたいで子供達の様な期待に満ちた眼差しを嬉しそうに受け取ったアルフ様は王妃様を侍従さんとふたり残してしまう事を詫びると入ってきたのとは違う扉から俺を連れ出した。
目的地までは案外すぐで細い通路を使ってたどり着いたのは閉ざされた幕の前。
「ここは謁見室だ、後でトウヤのお披露目式もここでするからな。」
声のトーンを落としたアルフ様が扉代わりの分厚い幕を開いた先は大きなホールになっていた。
広い空間は白く、装飾の施された金色の柱が等間隔に壁に埋め込まれ高い天井を支えている。灰色を溶かし込んで波模様を描く大理石が敷かれた床の中央には奥に見える大扉から真っ赤な絨毯が敷かれ5段ほどの階段でつながる壇の上まで続いていた。
壇上には王様が、広間にはユリウス様を中心に30名程の近衛騎士が整然と並ぶ。白い騎士服は華やかでありながら勇壮で俺はエリオット様と同時にため息を零した。
俺達のいる場所は階段の下あたり。
反対側にも同じ様な幕のかかる場所があり、その前には演台が置かれ壮年の紳士が立ち俺達に気付いてわずかに頭を下げる。その動きにつられこちらを見る人間はひとりもいなかった。
すでに壮年の紳士に気づかれているからこっそりとは言い難いけれどせめて邪魔にならないよう中には踏み入らずアルフ様とエリオット様が幕を開けくれている間からちょっとだけ顔を出してクラウスを探したけれどみんな一様に背が高くて居場所は分からなかった。
「近衛騎士は護衛に散る前に着任式を行うんだ。近衛騎士の任命式も──ってクラウスから聞かなかったか?」
アルフ様が俺の耳にやっと届く小さな声で教えてくれたけれどクラウスを探す俺は失礼にも首を横に振って返事をした。
近衛騎士の着任式は数ある『御用始めの儀』には入っていないのかな。単純な俺はクラウスが『顔を出してくる』と言うから本当にそれだけだと思っていたからここに連れてきてくれたアルフ様には後できちんとお礼を言わなくちゃ。
そう考えていた時、演台に立つ壮年の紳士の張りのある声が静かな空間に響いた。
「──次に新たな騎士の任命式を執り行う。呼ばれた者は前へ、クラウス=ルーデンベルク。」
クラウスを呼ぶ声に思わず自分の身を引き締めた。
「ハッ!」
力強い声の後、並ぶ騎士の最後尾からクラウスが歩み出て真紅のカーペットの中央に立つと王様の待つ階段のすぐ下まで上がり片膝をついた。
静寂の中、王様は横に立つ紺色の騎士が差し出した剣の柄を握りそのまま鞘から抜くと剣先をクラウスの肩にそっと乗せた。
「フランディール国王の名のもとにそなたをフランディール王国近衛騎士と認める。」
王様の宣言の後再び訪れた静寂の中、鞘に収められた剣をクラウスが高く掲げた両手で受け取った。
「我、クラウス=ルーデンベルクはフランディール王国近衛騎士として王国の剣となり盾となることを誓います。」
「昇格試験の結果も見事であったと聞いている。そなたになら安心して任せられる、我が王国の恩人ガーデニアの愛し子トウヤ殿を頼んだぞ。」
「ハッ!この命に代えましても。」
息をするのも忘れて俺の視線はクラウスに釘付けになっていた。
でもそれはダメだよクラウス、すごく格好良いけど俺はそんな事望んでない。
ただの儀式の決り文句かも知れない、でもそれでも嫌なんだ。もう元に戻るかも知れないと不安になる必要のなくなったこの世界で心が通じあえたクラウスと一緒に生きていくのはこれからなんだから。
俺の不安を丸ごと受け止めて共に生きようと誓ってくれたのはクラウスなんだとさっき口付けをくれたその証の指輪に俺も唇を重ねる。
やがて剣を腰に収め立ち上がると振り返りざまこちらを向いたクラウスとバチンと目が合った。そして淡く光っていた左耳のピアスが俺の一番大好きな優しい顔でふわりと笑った途端まるで俺の心臓に共鳴したみたいにより一層強く煌めいて桜色の光を放つ。
「トウヤ少しは自重したらどうだ?クラウスもな。式の最中に笑うやつなんて初めて見た。」
ユリウス様の咳払いとアルフ様の呆れた声に俺は慌てて意図せず触れていたお守から手を離した。
「以上騎士隊の着任式並びに任命式を終了する。これより3日間いつも以上に気を引き締め抜かりなく頼む。ではこれにて散開。」
「ハッ!」
壮年の紳士が終わりを告げ総勢30人程の近衛騎士が王様に向けて敬礼をするのに一斉に振り上げた腕が風を切り音を立てた。
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