迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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顔の熱さが引かないうちにカップが8つカウンターに並んでそのうちの5つには桜色のホイップがたっぷり乗っていた。

「はい、コーヒー3つに小さいけどホイップたっぷりのココアラテ5つお待たせ。」

「可愛いですね。」

「でしょ?でもいつもならこのホイップの上に桜の花びらの砂糖漬けをのせて完成なんだけど今年はないんだ。ほら今年の桜は採っちゃいけないっていうか採れないだろ?ギルドに花びらの採取依頼出してたのも取り下げられちゃってさ、他の街の桜でもって思ったけどやっぱり今年は『奇跡の桜』じゃなくちゃね。」

「あ……。」

王都に咲いた桜は手折ると何故か消えてしまう。それは自分のせいなのにすっかり忘れて残念だと思うなんてどうかしてる。

お姉さんは「仕方ないよ」と苦笑いしながらも俺が運びやすいようにとカップを紙袋の中に入れてくれた。

こんな身近なところで迷惑を被った人がいるなんて思ってなかったからびっくりして言葉が出てこない。

「まあ私の場合は依頼を受けた相手が王都の人だったから事情を分かってくれてて良かったけど奇跡の桜の採取依頼を受けて地方から来た冒険者なんかは揉めたりしてしばらくギルドに近づけなかったくらいだよ。」

「揉めたんですか?」

「そりゃぁ王都まで来るのもタダじゃないんだから突然契約破棄だって言われたら普通は驚くよ、報酬あてにして道中贅沢した奴らなんかは割を食ったってずいぶん荒れてたらしくて騎士に捕まってる冒険者も何人か見たよ。」

「……それは結構な迷惑ですよね。」

自分が原因でそんな事が起きたなんて全然知らなくていたたまれないどころか今すぐ逃げ出したい。

「ホント迷惑な連中だよこの美しい王都の桜を見て心を入れ替えろってんだ、天使ちゃんもそう思わない?」

「……あの、迷惑なのは皇子様ですよね?」

「そんな事あるわけないだろ?桜の皇子様はホントに凄いお方だよ、私なんて眼の前で桜が咲くの見たんだ!瞬きするうちにどんどん花が咲いてってあっという間に満開になっちゃって本当の本当に凄かったなぁ、天使ちゃんとこの『桜の庭』だってそうだろ?あんな夢みたい光景が拝めるなんて幸運はもう二度とないだろうなぁ。もしもうちの屋台に桜の皇子様が来てくれる事があったらお礼に何でも奢っちゃう!いや一生お代はいらないよ。あ、お客を引き寄せてくれた天使ちゃんももちろんサービスしとくからね。」

「あ…りがとう、ございます。」

申し訳無さに押し潰れそうになったのはほんの一瞬で、興奮しながら嬉しそうに笑ったお姉さんに救われてしまった。
この世界で出会った人達はどうしてこんなにも優しいんだろう、紙袋の中のココアラテみたいに温かくて俺に甘い。

その優しさに泣いてしまいそうだけど沢山の人に迷惑をかけた俺にその権利はないようにも思える。

ぐるぐるとかき混ざる感情にうつむいて足取りの重くなった俺はクラウスによって早々に抱き上げられてしまった。

「良かったな、一生タダで飲めるらしいぞ。」

ニヤリと笑ってからかうような言い回しをしながら泣かないように結んだ唇を片手で両頬を掴んだクラウスに無理やりタコチューにさせられた。
でも正体を隠してるうちはそんな日は来ない。

「……クラウスは知ってたの?」

「……王都の桜はそもそもが特別だから採取依頼は毎年どこのギルドにも出る。」

「何が」と言わなくても答える時点で俺が聞きたいことが判ってるって事だ。

「依頼を受けた奴の中にはマナーの悪い奴もいる、採取できないのを諦めず酷く枝を折る事案が起きて桜を守るために採取の禁止令が出たんだ。」

「でもギルドで揉めてたって…。」

「依頼が駄目になるなんて普段からよくある、それより移動費の半分が出るなんてそっちのほうが珍しい事だ。それに金が要るならまた依頼を受ければいいだけの話、揉めてた連中は必要以上に保証金を受け取ろうとしてごねてたんだろう。罰を受けたとしてもそれは個人の問題だ。」

「でも…。」

「冬夜が悪いわけじゃない。それとも元冒険者の俺の言葉を疑うのか?」

「……その言い方はずるい。」

「事実だから仕方ないだろう。」

それなら素直にそう思って良いのかな。

「冬夜が気に病むことは一つもない、それに前にも言ったはずだ雑音は消してやる冬夜は冬夜のしたい様にしていればいい。」

頼もしい騎士の言葉に勝手に傷付いてぺしゃんとしぼんだ心が息を吹き返す。

「でも……俺は何も知らずに守られるのは嫌だよ。」

些細なことでへこんでしまうのはまだ自分に自信が持てないから。

「自分がした事でどんな影響があったのかちゃんと知っていたい。迷惑を掛けたなら謝りたいしそれを回避するために頑張ってくれた人がいるならお礼を言いたい。全部の人には出来ないけれどせめて身近な人にはそう出来たらいいなって思う。でないと桜を咲かせた事心から誇れないよ。」

クラウスに相応しい自分でありたい、『知らなかった』の一言で許されると勘違いした人間にはなりたくない。
確かに自分では何もできないけれど安全な場所で問題が解決するまで何も知らずに護ってもらうんじゃなくて自分がした事の良い所だけでなく悪い所もちゃんと受け止めて同じ間違いをしたくない。

「───わかった。善処するよ。」

ため息混じりの返事は仕方なく、と言わんばかりだ。

「生意気でごめんなさい。」

何もできないくせに口ばかり達者で自分でも呆れ得る。

「いいさ、そこに惚れてる。」

「……そこは『そんな事ない』って言って。」

クスクスと笑うクラウスの告白は照れるべきか怒るべきか判断が難しい。

子供達の待つ広場へ戻る頃には上手くのせられたおかげですっかり気分も整ったけれどその場所にはいつの間にか大きな人垣が出来ていた。

「っクラウス!」

「ああ。」

慌てて駆け寄るとぐるりと人垣のできた中心にいたのは思った通り子供達とジェシカさん、そして少し離れた所にノートンさんが立っていた。

「みんな大丈夫?どうしたの?」

人をかき分け子供達に駆け寄った。こんな状況だけど鈴は鳴ってないのだから大丈夫だと信じたい。

「トウヤ、セオがいるよ!」

「セオさん?」

「うんせおがね、どんっ!てしてぎゅ~って。」

俺の心配をよそにキラキラと目を輝かせたサーシャとディノが報告してきた。

「セオがわるものつかまえたんだよ。」

「セオかっこよかったよ。」

ロイとライまで興奮気味だ。

ジェシカさんが守るようにしてくれていたから子供達は平気そうだった。でもセオがなんだって?

「それがあちらの冒険者が……。」

ジェシカさんが背後に視線を送った先は離れたところに立つノートンさんの前には自分より大きな男を芝生にねじ伏せる赤い騎士服のセオがいた。

「あの人になにかされたの?」

「ううん、なんにもないよ。」

「うん、ノートンさんとおはなししてただけだよ。」

ロイとライはけろりとしている。

「でもさっきは『わるもの』って言わなかった?」

「うん、だってセオがつかまえたから『わるもの』だよ。」

「そうだよわるものだよ。」

子供達ではやっぱり要領を得なくて、代わりにジェシカさんが俺とクラウスにだけ聞こえるように声を潜めて話してくれた。

「あのそれが……あの冒険者が院長の所へ来て『黒髪の少年がいないか』と訪ねたんです。」

途端にクラウスの顔が険しくなった。

俺を探す人間、それは俺に治癒魔法が使えるとわかった時からずっと懸念されていた事だった。




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