逆行世界のリバースコード

第0章

『終わりのはじまり』

壁にかかる大時計の針が、カチリと“昨日”を指した。

通りでは、子どもが倒れたまま笑い声を上げながら地面から立ち上がり、傷が消えていく。空を飛ぶ機械鳥は、黒煙を吸い込みながら後退し、塔の奥へと戻っていった。

この街では、生きるとは「戻っていくこと」だった。

リオンは、壊れた懐中時計を手のひらで転がしながら、深くため息をついた。今日も記憶整理の依頼が入っていた。“未来から届いた手紙”に記された名前は、昨日にはもう忘れてしまった女の名。

「戻る前に、少しでも知っておきたい。あの人が、俺に何を言おうとしていたのか。」

彼の目の前で、蒸気仕掛けの郵便ポストがカラリと音を立て、過去の記録を吐き出した。