ルナソルの魔封城

TIEphon

文字の大きさ
10 / 10
フォージア編

第九話 アウストラリス

しおりを挟む
 俺ことヴァネット・サムは任務終わりの帰路に就いていた。辺りはすっかり日が落ち、月明かりだけを頼りに歩を進める。



 俺たちが住んでいる家までの通りは、この時間帯人通りが少ない。だからこそ俺は、後方から聞こえてくるその足音に即座に反応した。

 気付いたことを悟られないように前を向いたままなので姿は確認できないが後方15mほどの位置に俺を尾行している奴がいる。



 そいつに目視されない位置で懐からナイフを取り出す。

 脳裏に萃那を襲った殺人鬼が浮かんだ。狭霧はそいつの事を逃がしたと言っていたし、何故か萃那に固執をしていたらしい。レグウスのメンバーを優先して狙っていたことからも、後方にいるのはその殺人鬼である可能性が高い。

 俺の足音と同じタイミングで歩くことにより、自身の足音を隠しているのだろう。俺が歩くのを速めれば、そいつも速度を上げる。

 やがて俺は歩くのを止めて、振り返ると同時にそいつに告げた。



「わかっているぞ。お前が俺の背後を狙っていること」



 そこにいたのは白をベースとした軍服のような衣装を纏った男だった。狭霧たちの情報だと黒衣を纏っていたらしいが、殺人鬼だからと言って着替えないわけではない。

 月明かり以外光源のない暗闇の中、奴の肩に記された破戒の印が鈍く輝いている。

 赤色、ルナソルの完全破戒を行ったものの証。

 赤級、帯刀…服装以外は殺人鬼の目撃情報に合致している。

 しかし一つだけ狭霧の情報にはなかった特徴がある。オッドアイ。左右で瞳の色が違う。右目が緋色、左目が紺色。

 狭霧が遭遇した殺人鬼と同一人物かどうか怪しいところだ。



「俺もわかっているさ。お前が俺の存在に気付いていること」



 そいつは暗闇の中から軽い口調を叩きながら、こちらに歩を進めてきた。俺との距離が5mほどの位置でその足を止め、俺を見下すような笑みを向ける。殺人鬼の瞳が月光をきらりと反射させた。

 そりゃそうだろ、と心の中でツッコミを入れるが、俺は表情を崩さない。



「そうか。早々に殺してしまってもいいが、一応聞いておいてやる。何故俺を狙っている?」

「お前が魔王様に敵意を抱いているからさ。ここからでもわかる。怒り、憎しみ、恨み…その仮面の下に隠した怨恨に、誰も気づかないとでも思っているのか?」



 なんでもお見通し、と言わんばかりの不敵な笑みに嫌悪感を抱く。

 心の中を覗かれた気分だ。顔と共に隠していたはず感情が見ず知らずの奴に見抜かれた。俺の事情を知っているのか?それともそういう能力を持っていたりするのか?



「魔王様の名のもとルナソルを不滅の天下泰平に導く。俺がお前に刀を振るう理由はそれで十分だ」

「…お前、何者だ?」

「こっちのセリフだ」

「否、俺が言ったから俺のセリフだ」

「その通りだな…俺は魔王軍幹部スターダストの一人、そうだな…カノープス?否、アウストラリスとでも呼んでくれ」



 魔王軍幹部。その言葉で俺は完全に戦闘態勢に入った。いつでも交戦ができる状態。いかなる不意打ちにも対応できるように注意を向けながら、俺はそいつについて思考を巡らせる。

 魔王様と連呼していたから予想はしていたが、魔王軍というのが本当なら奴は魔族の可能性が高い。となると、フォージア内に魔族が出入りできる抜け道があることになる。一番怪しいのは狭霧が目撃した空飛ぶ馬車。奴らがこいつの仲間だった場合それでレテーズ川上空を飛んで出入りするとこが可能なのかも知れない。または殺人鬼の瞬間移動の能力か…。



 アウストラリスだったか。長いな。省略しよう。



「アトラス。俺はレグウス所属のヴァネット・サムだ」

「ヴァネット・サムか。呼び名はそれでもいいぜ。俺は弱者には寛容なんだ」

「…弱者?」

「ああ」



 弱者、俺はその言葉に過剰に反応した。おもむろに眉を顰め、目を尖らせる。

 そんなことを言われたのは久しぶりだ。今の俺にそんなことが言える人間はほとんどいないだろう。

 家族を目の前で失ったあの時からずっと、その言葉をもう言わせないように努力してきた。だからこその第一位。だからこその勇者候補。

 俺はもう…強くなった。

 だからこそ俺はアトラスの言葉を鼻で笑い飛ばす。



「ハッ、これでも俺は今期レグウス主席なんだ。悪いがお前に弱者呼ばわりされる質じゃねえ」

「鷹がいないと雀が王するとはこのことだ。鷹はまだ爪を隠しているだけだというのにな。そのことにお前も気づいているんだろ?」

「何が言いたい?たかが鷹がなんだという?俺の実力はかのヒバ・ロベリアを超えていると謳われるものだぞ」

「たかが鷹が?なるほどね。しかしそこがお前の弱点だ。一体いつまでフォージアの次元で物を見ている?まるで自分は強いような言い回しだが、俺から言わせてみればお前の父親が殺された時とまるで変っていないぞ?」

「!」



 その瞬間、ざわりと心臓が蠢いた。心拍数が上昇し、嫌な汗が額に滲む。

 3年前の記憶が鮮明に呼び起こされる。俺の人生をがらりと変えた、あの凄惨な出来事が。

 記憶の中でその男はニヤリと笑ってみせる。



「まさか、お前あの時の!?」

「あの時?心当たりがありすぎてわからないな」



 そう言ってアトラスはケラケラと笑った。

 拳をギュッと固める。

 俺の父親が殺された時を知っているということは、こいつもあの場にいたのか?それなら…。



「ま、ここで復讐を止めるというのなら見逃してもいい。俺は“弱者には寛容だからな”」



 不気味な笑顔を浮かべるアトラスに俺は睨みを利かせた視線を送る。全身全霊の殺意を込めた拳を構え…。



「…魔王を殺す前に、その前座としてお前を殺してやるよ。覚悟しな。俺の拳は普通の人間よりちょいと…否、かなり痛いぜ。破戒の布告なんてしてくれると思うなよ」



 それに応じるかのように、アトラスは慣れた手つきで素早く抜刀する。流れるような手捌きで刀身を回転させ、やがてその刃先をこちらに向けた。構えることはせず、ただただこちらを嘲笑っていた。



「そう言うと思った。ルナソルの名のもとお前を地に伏してやる。全ては…迫害されたルナソルの民のために」



 不敵に笑うアトラスは俺に向って力強く地を蹴った。



 ▲  △  ▲



「!」



 萃那が入院している病室、そこで俺こと屈魅 狭霧はその魔力を感じ取った。

 流れてくる強大な2つの魔力はどんどんと力を増していき、やがて荒波のように俺のもとへ辿り着く。

 放射線の如く物的干渉を受け付けないため、強大な魔力というのはその力を弱めることなく波紋を描くように広がる。そのため能力で魔力を感知できる俺にとって、その魔力は無視が出来ないものだった。そもそも能力自体発動させてなかったのだが…。



「この魔力。まさか…」

 流れてくる魔力の内、片方はヴァルのものだ。そしてもう片方は…。

「どうかしたんですか?」



 ベッドの上で本を読んでいた萃那が俺の異変に気付いた。魔力の波源の方向を向いて深刻な顔をしている俺に、不思議そうに視線を送る。この魔力波は俺以外にとって感知不可なため、彼女は俺の行動を不審に思ったのだろう。



「この近くに俺たちが襲われた殺人鬼に似ている強い魔力が現れた。否、そもそも俺の能力で探知ができる時点でかなり近い場所。位置的にヴァルと戦っているのか!?」

「え!?」

「もしかしたら奴の仲間かもしれない」

「じゃあ早くヴァネットさんの援護に向かわなくては!」



 そうしたいのは山々だが、この魔力主が奴らの仲間だった場合、俺をおびき寄せ萃那を襲う可能性が高い。どうするべきか…と俺が悩んでいると。



「ちょっと待ってください」



 そう言って読んでいた本を放り投げる萃那。一応俺の本だというのに無意識なのか無作法なのか…気にも留めずベッドから飛び起きる。

 そして次の瞬間には俺の隣で刀を背負っている萃那。その姿は先程までの患者衣ではなく、普段レグウスの任務中に着用している服装になっている。



「瞬きもさせない超早着替えです!」



 そういってふふん!とドヤ顔で胸を張る彼女に俺は淡い笑みを返す。



「身体能力向上の能力を使用した高速着替え…俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」

「…?」



 数秒の間、それを経てようやく萃那はその意味を理解したようだった。腕を組んで悩んだ素振りを行った後、焦ったのか引きつった笑みを浮かべる。



「…え、あの速度で見えたんですか!?」

「何の話だ?」

「え、冗談ですよね?」

「ああ、冗談だ。」



 ホッと息をつく萃那を横目にフッと笑みを浮かべる。



「落ちていく本を空中でキャッチして棚に戻したのしか見えなかった」

「しっかり見えてるじゃないですかこの変態魔…ってぇやぁぁ!」



 顔を紅潮させ大きく叫び声をあげた瞬間、萃那は悶絶する。

 まだ腹部の傷が完全に癒えていないのであろう。身体をくの字に曲げ、腹部を抑える。



「おい、大丈夫か!?」



 大分特徴的だった呻き声はこの際突っ込まなくていいだろう。



「ええ、まあ…安静にしている分には何ともないので…」

「早着替えの時は何ともなかったのにな」

「あれは私にとっての“普通”をあの速度に設定するっていう仕組みなので…」

「なるほど」



 顔を伏せ、しゃがみ込んでいる萃那に片手を伸ばした。その意図を察した彼女はその手を取り、俺の力を借りて立ち上がる。



「ま、まあいいです。あんな一瞬くらい」

「お前の下着の色が白ってことぐらいしか見えなかったのを言おうか迷ったが、お前の事を思って心の中にそっと仕舞っておくことにするぜ」



 その言葉を聞いて渋い顔を浮かべた萃那は、場の空気を戻すためわざと咳払いを入れる。



「…ごほん、私もついて行きます」

「怪我は?」

「大丈夫です」

「無理はするなよ」

「はい」



 大体予想はついていた。だからこそ俺は最低限の心配の言葉を掛け、フード付きのマントを手に取り彼女に渡す。



「あまり意味はなさそうだが一応な。奴らはお前を狙っているというのを忘れるな」

「だからこそ、貴方について行くんです。」



 マントを受け取った萃那はそれを素早く羽織り、フードを深く被る。



「その方が貴方にとって都合がいいでしょう?」



 フードの中からこちらを覗き込む笑顔はいつも通り明るい。

 それに応えるように笑みを浮かべた俺は…。



「ああ」



 と、言葉を返すのだった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...