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4章.元婚約者に攫われる
07.
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…食われる。
銀龍に貫かれた時の壮絶な痛みを思い出して目を瞑り、覚悟を決めてその時を待つが、一向に痛みは訪れない。
そっと目を開くと、間近で見つめる金龍と目が合った。炎を映して赤く染まる龍の瞳は、その奥に虹色の輝きを宿している。銀龍と同じ色だ。
《…ジョシュアか。忌々しい奴》
金龍は瞳をすがめて俺の首筋を見ると、苛立たし気に吐き捨てた。ジョシュアの噛み痕が気に入らないらしい。タラコ王子に迫られた時に飛び散った火花を思い出す。よく分からないが、ジョシュアの痕は龍の牙をも遠ざける力があるらしい。
『…いい子にしてろよ』
ジョシュアを思い出すと、どうにも胸の奥が熱くなる。
俺がいなくなったことに気づいただろうか。どう思っているんだろうか。
「…わっ」
俺を恋する乙女みたいに作り替えた男に思いを馳せていると、金龍が鋭く尖った鉤爪で俺を挟んで持ち上げ、ポイっと乱雑に自分の背中に放り投げた。
「う、お、おおお、…?」
滑らかな鱗が並ぶ広い背中を転がり落ちていく俺に、
《掴まれ》
無理難題を吹っかけて、金龍が広大な翼をはためかせた。
艶やかに煌びやかに輝く龍の鱗が金色の草原のようにさざめく。俺が転がらないように鱗を立てて支えてくれた。とりあえず危害を加えるつもりはないらしいと悟る。
「すげえ、綺麗だな」
金龍の背の上は、金色の月に抱かれているように幻想的で、思わず感嘆が漏れた。そっと触れた鱗は微かに硬く、よく見ると結晶のような模様が施されていて、神秘的で美しい。高価な宝石には縁がないが、どんな宝石よりも美しいんじゃないだろうかと思った。
《人間どもは、本当に鱗が好きだな》
金龍は皮肉気に言って地面を一蹴りし、一気に飛び立った。強い風が巻き起こる。あっという間にエイトの樹海が眼下に遠く広がり、空に近づく。
澄み渡る青。頬を流れる雲。静かに沁み入る風。
爽快な眺望を前に切なさが蘇った。
「…柊羽は、高いところが苦手だったな」
楽しみにしていた遊園地で観覧車に乗って、怖がって俺にしがみ付いてきた泣きべそ顔の柊羽を思い出して胸が痛む。柊羽が銀龍になっているとしたら、あいつ、飛ぶの平気なんだろうか。
《俺の弟と同じだな》
まさか答えが返ってくるとは思わなかったので、意表を突かれたが、にわかに期待が込み上げる。
「あんた、弟がいるのか? まさか、銀龍か?」
興奮のまま、勢い込んで尋ねると、
《…遠い昔の話だ》
金龍は鬱陶しそうに言ったきり黙り込んでしまい、それからは何を聞いても答えてくれなかった。
兄弟仲、悪いんだろうか…
龍の翼をもってしてもエイトの森は遥かに深い。静けさに身を任せ、広大な樹海をよぎると、やがて眼前に海が見えてきた。
《番人の砦だ》
海に近い樹海の果てに金龍が降り立つ。
岩だらけの崖の上に城砦が広がっていた。再び金龍の爪に摘ままれて背中から地面に降ろされた俺は、辺り一面に広がる巨大遺跡のような荘厳な岩の屋城に圧倒されて声も出なかった。
「俺は、ローズベルト・ウィリアム・ディ・アンドレ・エイトリアン」
城砦に見とれて惚けたように突っ立っていると、背後に人の気配がした。
「エイトの森の番人だ」
振り向くと、いつの間にか金龍はいなくなっていて、輝くばかりの金髪で、ジョシュアに勝るとも劣らない(いや。やっぱ、ジョシュアのがかっけーな)、見目麗しい青年が立っていた。
銀龍に貫かれた時の壮絶な痛みを思い出して目を瞑り、覚悟を決めてその時を待つが、一向に痛みは訪れない。
そっと目を開くと、間近で見つめる金龍と目が合った。炎を映して赤く染まる龍の瞳は、その奥に虹色の輝きを宿している。銀龍と同じ色だ。
《…ジョシュアか。忌々しい奴》
金龍は瞳をすがめて俺の首筋を見ると、苛立たし気に吐き捨てた。ジョシュアの噛み痕が気に入らないらしい。タラコ王子に迫られた時に飛び散った火花を思い出す。よく分からないが、ジョシュアの痕は龍の牙をも遠ざける力があるらしい。
『…いい子にしてろよ』
ジョシュアを思い出すと、どうにも胸の奥が熱くなる。
俺がいなくなったことに気づいただろうか。どう思っているんだろうか。
「…わっ」
俺を恋する乙女みたいに作り替えた男に思いを馳せていると、金龍が鋭く尖った鉤爪で俺を挟んで持ち上げ、ポイっと乱雑に自分の背中に放り投げた。
「う、お、おおお、…?」
滑らかな鱗が並ぶ広い背中を転がり落ちていく俺に、
《掴まれ》
無理難題を吹っかけて、金龍が広大な翼をはためかせた。
艶やかに煌びやかに輝く龍の鱗が金色の草原のようにさざめく。俺が転がらないように鱗を立てて支えてくれた。とりあえず危害を加えるつもりはないらしいと悟る。
「すげえ、綺麗だな」
金龍の背の上は、金色の月に抱かれているように幻想的で、思わず感嘆が漏れた。そっと触れた鱗は微かに硬く、よく見ると結晶のような模様が施されていて、神秘的で美しい。高価な宝石には縁がないが、どんな宝石よりも美しいんじゃないだろうかと思った。
《人間どもは、本当に鱗が好きだな》
金龍は皮肉気に言って地面を一蹴りし、一気に飛び立った。強い風が巻き起こる。あっという間にエイトの樹海が眼下に遠く広がり、空に近づく。
澄み渡る青。頬を流れる雲。静かに沁み入る風。
爽快な眺望を前に切なさが蘇った。
「…柊羽は、高いところが苦手だったな」
楽しみにしていた遊園地で観覧車に乗って、怖がって俺にしがみ付いてきた泣きべそ顔の柊羽を思い出して胸が痛む。柊羽が銀龍になっているとしたら、あいつ、飛ぶの平気なんだろうか。
《俺の弟と同じだな》
まさか答えが返ってくるとは思わなかったので、意表を突かれたが、にわかに期待が込み上げる。
「あんた、弟がいるのか? まさか、銀龍か?」
興奮のまま、勢い込んで尋ねると、
《…遠い昔の話だ》
金龍は鬱陶しそうに言ったきり黙り込んでしまい、それからは何を聞いても答えてくれなかった。
兄弟仲、悪いんだろうか…
龍の翼をもってしてもエイトの森は遥かに深い。静けさに身を任せ、広大な樹海をよぎると、やがて眼前に海が見えてきた。
《番人の砦だ》
海に近い樹海の果てに金龍が降り立つ。
岩だらけの崖の上に城砦が広がっていた。再び金龍の爪に摘ままれて背中から地面に降ろされた俺は、辺り一面に広がる巨大遺跡のような荘厳な岩の屋城に圧倒されて声も出なかった。
「俺は、ローズベルト・ウィリアム・ディ・アンドレ・エイトリアン」
城砦に見とれて惚けたように突っ立っていると、背後に人の気配がした。
「エイトの森の番人だ」
振り向くと、いつの間にか金龍はいなくなっていて、輝くばかりの金髪で、ジョシュアに勝るとも劣らない(いや。やっぱ、ジョシュアのがかっけーな)、見目麗しい青年が立っていた。
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