【完結】銀の龍瑠璃色の姫君を愛でる―31歳童貞社畜の俺が異世界転生して姫になり、王になった育ての息子に溺愛される??

remo

文字の大きさ
31 / 114
4章.元婚約者に攫われる

07.

しおりを挟む
…食われる。

銀龍に貫かれた時の壮絶な痛みを思い出して目を瞑り、覚悟を決めてその時を待つが、一向に痛みは訪れない。

そっと目を開くと、間近で見つめる金龍と目が合った。炎を映して赤く染まる龍の瞳は、その奥に虹色の輝きを宿している。銀龍と同じ色だ。

《…ジョシュアか。忌々しい奴》

金龍は瞳をすがめて俺の首筋を見ると、苛立たし気に吐き捨てた。ジョシュアの噛み痕が気に入らないらしい。タラコ王子に迫られた時に飛び散った火花を思い出す。よく分からないが、ジョシュアの痕は龍の牙をも遠ざける力があるらしい。

『…いい子にしてろよ』

ジョシュアを思い出すと、どうにも胸の奥が熱くなる。

俺がいなくなったことに気づいただろうか。どう思っているんだろうか。

「…わっ」

俺を恋する乙女みたいに作り替えた男に思いを馳せていると、金龍が鋭く尖った鉤爪で俺を挟んで持ち上げ、ポイっと乱雑に自分の背中に放り投げた。

「う、お、おおお、…?」

滑らかな鱗が並ぶ広い背中を転がり落ちていく俺に、

《掴まれ》

無理難題を吹っかけて、金龍が広大な翼をはためかせた。
艶やかに煌びやかに輝く龍の鱗が金色の草原のようにさざめく。俺が転がらないように鱗を立てて支えてくれた。とりあえず危害を加えるつもりはないらしいと悟る。

「すげえ、綺麗だな」

金龍の背の上は、金色の月に抱かれているように幻想的で、思わず感嘆が漏れた。そっと触れた鱗は微かに硬く、よく見ると結晶のような模様が施されていて、神秘的で美しい。高価な宝石には縁がないが、どんな宝石よりも美しいんじゃないだろうかと思った。

《人間どもは、本当に鱗が好きだな》

金龍は皮肉気に言って地面を一蹴りし、一気に飛び立った。強い風が巻き起こる。あっという間にエイトの樹海が眼下に遠く広がり、空に近づく。

澄み渡る青。頬を流れる雲。静かに沁み入る風。

爽快な眺望を前に切なさが蘇った。

「…柊羽は、高いところが苦手だったな」

楽しみにしていた遊園地で観覧車に乗って、怖がって俺にしがみ付いてきた泣きべそ顔の柊羽を思い出して胸が痛む。柊羽が銀龍になっているとしたら、あいつ、飛ぶの平気なんだろうか。

《俺の弟と同じだな》

まさか答えが返ってくるとは思わなかったので、意表を突かれたが、にわかに期待が込み上げる。

「あんた、弟がいるのか? まさか、銀龍か?」

興奮のまま、勢い込んで尋ねると、

《…遠い昔の話だ》

金龍は鬱陶しそうに言ったきり黙り込んでしまい、それからは何を聞いても答えてくれなかった。

兄弟仲、悪いんだろうか…

龍の翼をもってしてもエイトの森は遥かに深い。静けさに身を任せ、広大な樹海をよぎると、やがて眼前に海が見えてきた。

《番人の砦だ》

海に近い樹海の果てに金龍が降り立つ。
岩だらけの崖の上に城砦が広がっていた。再び金龍の爪に摘ままれて背中から地面に降ろされた俺は、辺り一面に広がる巨大遺跡のような荘厳な岩の屋城に圧倒されて声も出なかった。

「俺は、ローズベルト・ウィリアム・ディ・アンドレ・エイトリアン」

城砦に見とれて惚けたように突っ立っていると、背後に人の気配がした。

「エイトの森の番人だ」

振り向くと、いつの間にか金龍はいなくなっていて、輝くばかりの金髪で、ジョシュアに勝るとも劣らない(いや。やっぱ、ジョシュアのがかっけーな)、見目麗しい青年が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...