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4章.元婚約者に攫われる
06.
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痛って――――――――
無意識に頭を抱えて受け身をとったが、地面に背中を思い切り打ち付けて弾みで転がり、息が止まった。背骨が衝撃に震える。痛みが脳天を突き抜けた。
もともと森は暗く閉ざされていて周りはよく見えないが、降り積もった土壌、木の根や落ち葉、小枝や苔に覆われた地面は、それでも最大限優しく俺を受け止めてくれたのかもしれない。
とりあえず、生きてる。意識も、ある。
暗がりの中闇雲に飛び出した割には、巨木や岩に激突しなくて幸いだったと言えよう。
痛みの衝撃が過ぎるのを待ちながら、辺りの様子をうかがうと、すぐ傍にある獣道の先に馬車の影が見え、急停止させたらしく、御者の喚き声と馬の嘶きが騒々しく聞こえてきた。苛立って罵声を浴びせかけているゲス宰相の声もする。
「あの恩知らず、見つけたらただじゃ済まさんっ‼」
お前に恩なんて一ミリもねえし。
「でも、降りたら危険だよ。エイトの毒に侵されて死んでしまうよ。僕を愛する幾千万もの美女たちが泣き暮らすことになる」
気弱なタラコ王子の声もするけど、多分そんなには泣かないと思う。
馬車から降りてきた複数の足音が俺を探す気配がする。チラチラと掲げられたランプの灯りも見える。
やべえ。見つかったら、どんなゲスい目に遭わされるか分からない。
逃げようとするも、痛みで身体に力が入らない。足音が迫り来るけど、下手に動いたら逆に見つかるかもしれない。どうすべきかと身体を固くしていると、
突如、空が割れて一筋の光が降り注いだ。
光と共に樹木をなぎ倒して巨大な影が降りる。疾風が起き、木々が靡き草が割れ枝木が飛んだ。
「うわ、…っ‼」「うわぁああ―――――っ‼」
「出たっ、…」「逃げろ―――――っ‼」
人影が悲鳴を上げて一目散に馬車に戻る。轟音と共に降り立ったのは、…龍。
陽の光を受けて黄金に輝く巨大な龍が、壮大な翼を振り乱し、鋭い爪と牙をむき出しにして、硬い鱗で覆われた首をもたげ、辺りを見回しながら、凄まじい咆哮と共に開いた口から炎を吐き出した。
暗い森が熱に包まれ赤く焼け爛れていく。
断末魔のような叫びを残して馬車が散り散りになり、見えなくなった。
あいつら、逃げられたかな。
辺り一面が火の粉と焦げ臭さに包まれ、一瞬にして凄惨な現場と化す。
余りの容赦なさに愕然としていると、炎を撒き散らしていた龍が動きを止めてピタリと俺に焦点を合わせた。
金の龍。
全身を覆う煌びやかな黄金の鱗。長々と伸びた強大な翼。
光を照らし返す鋭く尖った牙と爪。煌々と燃え盛る炎を映して紅蓮に染まる瞳。
《見つけた。ラピスラズリ》
俺の柊羽じゃない。
強大な力を振りまく黄金の龍は、気高く美しい俺の銀龍とは違う。
金龍は大きく口を開けると、苔むした地面に転がったまま為す術もなく固まっている俺目がけて、その鋭く尖った牙を向けた。
無意識に頭を抱えて受け身をとったが、地面に背中を思い切り打ち付けて弾みで転がり、息が止まった。背骨が衝撃に震える。痛みが脳天を突き抜けた。
もともと森は暗く閉ざされていて周りはよく見えないが、降り積もった土壌、木の根や落ち葉、小枝や苔に覆われた地面は、それでも最大限優しく俺を受け止めてくれたのかもしれない。
とりあえず、生きてる。意識も、ある。
暗がりの中闇雲に飛び出した割には、巨木や岩に激突しなくて幸いだったと言えよう。
痛みの衝撃が過ぎるのを待ちながら、辺りの様子をうかがうと、すぐ傍にある獣道の先に馬車の影が見え、急停止させたらしく、御者の喚き声と馬の嘶きが騒々しく聞こえてきた。苛立って罵声を浴びせかけているゲス宰相の声もする。
「あの恩知らず、見つけたらただじゃ済まさんっ‼」
お前に恩なんて一ミリもねえし。
「でも、降りたら危険だよ。エイトの毒に侵されて死んでしまうよ。僕を愛する幾千万もの美女たちが泣き暮らすことになる」
気弱なタラコ王子の声もするけど、多分そんなには泣かないと思う。
馬車から降りてきた複数の足音が俺を探す気配がする。チラチラと掲げられたランプの灯りも見える。
やべえ。見つかったら、どんなゲスい目に遭わされるか分からない。
逃げようとするも、痛みで身体に力が入らない。足音が迫り来るけど、下手に動いたら逆に見つかるかもしれない。どうすべきかと身体を固くしていると、
突如、空が割れて一筋の光が降り注いだ。
光と共に樹木をなぎ倒して巨大な影が降りる。疾風が起き、木々が靡き草が割れ枝木が飛んだ。
「うわ、…っ‼」「うわぁああ―――――っ‼」
「出たっ、…」「逃げろ―――――っ‼」
人影が悲鳴を上げて一目散に馬車に戻る。轟音と共に降り立ったのは、…龍。
陽の光を受けて黄金に輝く巨大な龍が、壮大な翼を振り乱し、鋭い爪と牙をむき出しにして、硬い鱗で覆われた首をもたげ、辺りを見回しながら、凄まじい咆哮と共に開いた口から炎を吐き出した。
暗い森が熱に包まれ赤く焼け爛れていく。
断末魔のような叫びを残して馬車が散り散りになり、見えなくなった。
あいつら、逃げられたかな。
辺り一面が火の粉と焦げ臭さに包まれ、一瞬にして凄惨な現場と化す。
余りの容赦なさに愕然としていると、炎を撒き散らしていた龍が動きを止めてピタリと俺に焦点を合わせた。
金の龍。
全身を覆う煌びやかな黄金の鱗。長々と伸びた強大な翼。
光を照らし返す鋭く尖った牙と爪。煌々と燃え盛る炎を映して紅蓮に染まる瞳。
《見つけた。ラピスラズリ》
俺の柊羽じゃない。
強大な力を振りまく黄金の龍は、気高く美しい俺の銀龍とは違う。
金龍は大きく口を開けると、苔むした地面に転がったまま為す術もなく固まっている俺目がけて、その鋭く尖った牙を向けた。
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