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7章.愛息子に甘やかされる

08.

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「…俺は、別に、気にしてないからな」

結局俺は、柊羽に甘い。
ジョシュアの耳元に囁きかけると、ジョシュアはにこやかに微笑んで俺の髪に口づけた。それだけで暗く沈んだ胃に光が差し調子が戻る。これが惚れた弱みというやつか。

「ジョシュア様ぁ~~~、寛大なお言葉ありがとうございますっ‼ ソフィアはこれからも親しくお付き合いしとうございますっ」

余韻に浸る間もなく、秒で立ち直ったソフィア嬢の体当たりが飛んできた。とっさにジョシュアが避けてくれたからよかったものの、その勢いでジョシュアを頭突きしてしまうところだった。

「あぶな、…」

振り向くと、ソフィア嬢の毒々しい笑顔が待っていた。
すげえ。目が燃えてる。もともとのソフィアは茶色の瞳であるらしいが、内に秘めた闘志が凄すぎて赤く見える。お前には負けない、って確かにそう書いてある。

ここまで来ると、もはや感心するしかない。
厚顔無恥。憎まれっ子世に憚る。鋼の精神。不屈の闘志。
多分。俺にはこの強さが足りない。

「ソフィア、ダメだよ。君には僕という相思相愛の婚約者がいるんだから」

言葉も出ない俺の前に、遅まきながらという感じで、タラコ王子が登場した。暴走するソフィアを取り押さえるのに白羽の矢が立ったらしい。

「ちょっと、あんた誰よ。触らないで」
「あんなに熱い夜を過ごしておいて、ひどいな。何なら今から再現しようか」
「冗談でしょ? あたしは、顔が良い男にしか興味ないの」
「だったら僕は最高じゃないかっ」
「ちょっと、どなたか、この人つまみ出して下さる?」
「さあ行こう。僕とめくるめく愛の世界へ」

ソフィアとタラコは、息ぴったりの三文芝居を演じている間に、無事獣人兵の手に渡り、連れ戻された。

「…姫さま。人間って思いこみが激しいんですのね」

が、獣人社会における人間像は大いに損なわれた。あの二人で人間を一括りに語るのはやめて欲しい。

「ところで、復興は人間にも協力してもらおう。せっかく結婚披露パーティーに招待したんだ、それまで滞在してもらおう」

ジョシュアが大鷹獣人に声をかけた。人間はどうするか、という問いに対する答えだ。

「し、…しかし、奴らは陛下に銃を向けたのですよ?」
「だが俺は無事だったし、炎で焼かれて武器ももう使い物にならないだろう。いがみ合っているだけでは理解はできない。ともに取り組むことで見えることもあるだろう」
「…はあ」

大鷹獣人は不承不承という感じで引き下がり、獣人兵士たちに指揮を執って人間の拘束を解くと、復興のための任務を指示し始めた。

「…ラズ。俺は街に行ってくるから、お前は傷ついた者たちを癒してくれないか」
「…うん」

ジョシュアが獣人王の顔になって、俺を地面に降ろした。

「後は頼むぞ、タミル」
「「「お任せ下さい、ジョシュア様」」」

ジョシュアは華麗に銀獅子シルバーライオンに姿を変えると、兵士たちと合流してすぐにも出かけてしまいそうだった。

「…ジョシュア」

その後ろ姿に。銀の糸雨のように神々しい毛並みに声をかける。

「気を付けて」

もうジョシュアは俺より格段に大きくて強くて優れているのに、離れる時はどうしてか心細くなる。どうか。この赦しの心を持つ誇り高くて優しい王が誰にも傷つけられませんように。

ジョシュアは獰猛な獣の姿のまま振り返り、

「うん。行ってくる」

鋭い爪の生えた手で軽く俺を抱き上げると、俺の顔に優しく鼻をこすりつけ、舌先で唇を舐めた。くすぐったくて、愛しくて、少しだけ胸が締め付けられた。
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