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Ⅰ.ユラの章【捕獲】
04.
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ユラは窓を見つめながら悲壮な覚悟を固めていたが、正午を過ぎ、夕刻になっても、誰かが部屋に押し入ってくることはなかった。
「お嬢様、調子が悪いのでしたら水だけで良いだろうと奥様が、…」
日が暮れると、気の毒そうな様子でアンリが夕食代わりの水を持ってきた。特に不穏なものは感じなかった。
「…お義母さまは、どちらに?」
「奥様はララ様と西洋館で開催されている舞踏会にお出かけになりました」
ユラが誰かと接触したことに継母が気づけば、義妹と出かける前に何か罰を下すだろう。アンリも気づいていないようだし、恐らく昨日の男性はまだ誰にも話していないのだ。
「そう。何か、変わったご様子はなかった?」
「いえ、特には。四条伯爵様からお誘いを受けたとのことで、奥様もララ様もドレスを新調されて、それはそれは上機嫌でしたが」
「…それなら良かった」
アンリが部屋を出て行ってから、ユラは安堵のため息をついた。
良かった。気づかれてない。気づかれてなかった、…!!
しかし、正午書庫で会うという約束を破ったユラに、彼がどう働きかけてくるかは分からない。誰かに何かを問いかけたり、様子を見に来ようとしたりするかもしれない。考えるだに恐ろしい。
ユラの恐怖は依然として晴れず、唯一楽しみな読書をする気にもなれず、翌日からも塞いだ気分のまま自室に閉じこもった。
書庫で鷹小路クリスと出会ってから、一週間が経った。
その間、継母が怒鳴り込んでくることも、クリスが忍んで来ることもなく、ユラの周りは平穏だった。
きっと、ほんの悪戯心だったのだ。
見慣れない女が伯爵家にいて、少し興味を引かれたけれど、それだけのこと。だいたい、この花御門家にはララがいる。明るく快活で年も若く器量も良い。華も可愛げもあって、舞踏会では引っ張りだこだと継母が得意そうにしている。ララを見れば、ぼろ着のおかしな女のことなどすぐに忘れてしまうだろう。
ようやく、ユラは心の安定を取り戻した。
数日ぶりに書庫の本を読んでみようかとベッドから降りた時、血相を変えたアンリが部屋に駆け込んできた。
「お嬢様っ、大変でございますっ」
一体何が、と問いただす暇もなく、
「このあばずれがっ」
憤怒の形相でやってきた継母のセイラに頬を思い切り殴られて、ユラの軽い身体は部屋の壁に叩きつけられた。
「許せない、この性悪っ!! どうやって侯爵家の息子を誑し込んだ!? 青い目の悪魔っ!! 尻軽がっ!! 男を誘う汚れたあの女の血が、やはりお前には流れているのよっ!!」
呆然とうずくまるユラを罵倒しながら、セイラは高いヒールの踵でユラの脇腹を蹴り、頭を蹴り飛ばす。
「お嬢様、調子が悪いのでしたら水だけで良いだろうと奥様が、…」
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「…お義母さまは、どちらに?」
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「そう。何か、変わったご様子はなかった?」
「いえ、特には。四条伯爵様からお誘いを受けたとのことで、奥様もララ様もドレスを新調されて、それはそれは上機嫌でしたが」
「…それなら良かった」
アンリが部屋を出て行ってから、ユラは安堵のため息をついた。
良かった。気づかれてない。気づかれてなかった、…!!
しかし、正午書庫で会うという約束を破ったユラに、彼がどう働きかけてくるかは分からない。誰かに何かを問いかけたり、様子を見に来ようとしたりするかもしれない。考えるだに恐ろしい。
ユラの恐怖は依然として晴れず、唯一楽しみな読書をする気にもなれず、翌日からも塞いだ気分のまま自室に閉じこもった。
書庫で鷹小路クリスと出会ってから、一週間が経った。
その間、継母が怒鳴り込んでくることも、クリスが忍んで来ることもなく、ユラの周りは平穏だった。
きっと、ほんの悪戯心だったのだ。
見慣れない女が伯爵家にいて、少し興味を引かれたけれど、それだけのこと。だいたい、この花御門家にはララがいる。明るく快活で年も若く器量も良い。華も可愛げもあって、舞踏会では引っ張りだこだと継母が得意そうにしている。ララを見れば、ぼろ着のおかしな女のことなどすぐに忘れてしまうだろう。
ようやく、ユラは心の安定を取り戻した。
数日ぶりに書庫の本を読んでみようかとベッドから降りた時、血相を変えたアンリが部屋に駆け込んできた。
「お嬢様っ、大変でございますっ」
一体何が、と問いただす暇もなく、
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「許せない、この性悪っ!! どうやって侯爵家の息子を誑し込んだ!? 青い目の悪魔っ!! 尻軽がっ!! 男を誘う汚れたあの女の血が、やはりお前には流れているのよっ!!」
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