白き狼の寵愛【完結】

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Ⅰ.ユラの章【捕獲】

07.

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「クリス様は全てご承知でいらっしゃるのですわ。お嬢様、これでやっと、不遇なこのお屋敷から出られます。何ておめでたいことでしょう」

アンリだけが、ユラの結婚を祝福してくれた。

満月が明けるまでの間、鷹小路クリスは毎日花御門家に立ち寄り、ユラの様子を見に来た。一目でいいからユラに会いたくて、と言っていたが、嫁ぐ前にユラが花御門家で不当な仕打ちを受けないよう、監視する目的もあるようだった。

おかげで、セイラはユラの身体に目に見える傷をつけることが出来ず、罵倒したり、見えないところを蹴り飛ばしたりするに留まった。婚姻準備といってもユラには出来ることがなく、変わらず父親の書庫から借りた本を読んだり、クリスが持参した見目麗しいお茶菓子を恐る恐る口にしたりして、穏やかに日々を過ごした。

そして。

「それでは明日、10時に迎えに伺います」

ついに明日嫁ぐという婚姻前夜。
鷹小路クリスが恭しくユラの手の甲に口づけて花御門家を退去し、ユラは自室に戻った。狭い屋根裏部屋の片隅に、わずかばかりの着替えが入ったトランクケースが置いてある。

「私もすっかり準備出来ましたわ」

鷹小路家へはアンリもついてきてくれるので、とても心強い。ユラはまだ人と接することに慣れていない。継母は言うまでもないが、実の父をはじめ、クリスも鷹小路侯爵も、嫁ぎ先の屋敷の方々にも、どう接してよいのかまるで分からないのだ。

「あああ、どうしましょうっ!! どうすればいいのっ!!」

すっかり日も暮れ落ち、部屋でアンリと歓談していると、何やら屋敷内が騒然となった。

「様子を見て参りますわ」

アンリが部屋を出て行って間もなく、取り乱した様子のセイラが現れた。

「お前のせいよっ!!」

入ってくるなり、セイラに頬を叩かれる。
張り飛ばされるほどではなかったが、驚愕の後、頬に痛みが広がる。

「奥様、落ち着いてくださいませ」
「落ち着いてなどいられるものですかっ!! ララに何かあったら、…ああ、あの子はとても可愛らしい娘ですもの、悪い輩に目を付けられてしまったんだわ、…っ」

わああっとセイラが顔を覆って床に泣き崩れる。

事情を聴いてきたアンリの説明によると、観劇に出かけた義妹のララがいまだ家に帰らず、行方が分からないらしい。観劇の後、女学校の友人である北嶺子爵の娘とお茶をして別れ、花御門家の馬車で屋敷に向かったはずが、一向に戻らず、馬車もろとも行方不明になったようだ。

「お前が行けば良かったのにっ!! どうしてあの子が!? ああどんなに恐ろしい思いをしていることか、…」

セイラは泣き喚きながらユラの着物をつかんでバシバシと殴りつける。

「奥様、落ち着いて、…」
「おだまりっ」

セイラは恨みの籠ったまなざしでアンリを睨みつけると、

「お前っ!! ユラと一緒に家を出るからって私にたてつくんじゃないよ! そうだ、お前はまだこの家の奉公人だもの、家のために尽くすのは当然だわ。早く、ララを捜しに行ってきなさい!」

もの凄い剣幕でアンリを突き飛ばした。

「アンリ、…」

激しく床に尻もちをついたアンリにユラが駆け寄ると、

「ああ、そうね。そんな老体じゃ役に立たないわね。ユラ、お前が捜しに行きなさい」

セイラは不気味に勝ち誇った笑みを浮かべてユラをじっとりとめつけた。
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