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Ⅲ.ユラの章【蜜月】
06.
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「お願いがあるの」
未だ敏感に震えるユラの素肌をハクの柔らかい毛が優しく包む。
破裂しそうに激しく打っていた心音は、ゆっくりと寄り添って、互いを労り合うように呼応している。
ハクと身体を繋げた後の、何もかもが溶け落ちて、力の抜けきった恍惚とした重なり合いが、ユラはとても好きだ。
「なんだ?」
ハクはユラを自分の身体に乗せたまま、爪の先で髪を撫でた。
「…無事を確かめに行きたい」
もはや、ユラにとってここが楽園であることは疑いようがない。
この先、どんなことがあろうとも、ここより幸せな場所などないだろう。
だからもう、自分はどうなってもいいと思う。
食べられるのか、捨てられるのか、破滅も終焉も甘んじて受け入れよう。
気がかりは、アンリのことだった。
一緒に鷹小路家に行く約束だったのに、ユラがいなくなって、アンリはどうしているだろう。鷹小路で雇ってもらえたのか、花御門家にまだいるのか。最後に会った時は、立ち上がることにも苦労していたけれど、腰は大丈夫だろうか。ひどい扱いを受けていないだろうか。
アンリの無事を確かめたい。
だからと言ってユラに出来ることがあるわけではないが、…
「…あの男が恋しいか?」
いつもより数段低い声で、ハクが唸るように聞く。
「こい、…?」
あの男と言われて、思い当たるのは自分を妻に望んでくれた鷹小路クリスしかいないが、彼に抱く感情は、恋しいというものとは違うように思う。
彼に抱くのは、何だろう。
…申し訳ない、だろうか。
何を血迷ったのかユラに求婚してくれたにもかかわらず、婚姻を翌日に控えて、姿を消すことになってしまった。ひどい裏切り行為だ。謝っても謝りきれない。
「彼は、…」
「いや、いい」
正直にそう伝えようとすると、ハクにさえぎられた。
「分かった。会わせてやる」
ハクはユラを片腕に抱いたまま起き上がると、ふいにいつも身に着けているチョーカーを外し、
「…着けてろ」
ユラの首にかけた。
雪の結晶。
「きれい、…」
胸元で透明な輝きを放つそれは、雪の結晶のような形をしていて、繊細で美しく、ハクの体温が移っているのか、ほの温かい。精巧で煌めきが深く、どこか懐かしいような切なさも伴っている。
素肌にチョーカーだけを着けているユラは、その重みと質感が少し恥ずかしくもあるが、たとえようもないほど嬉しい。ハクのものを身に着けて、ハクのものになったような気がする。
「ありがとう。でも、ハクは?」
ハクがいつも身に着けているということは、ハクが気に入っているものか、大切なものなのだろう。或いはリーダーの証とか、何か意味があるのかも。
と、思ってハクを見上げると、
「…お前のだ」
ハクはチョーカーを着けたユラをとても優しい目で見ていた。
未だ敏感に震えるユラの素肌をハクの柔らかい毛が優しく包む。
破裂しそうに激しく打っていた心音は、ゆっくりと寄り添って、互いを労り合うように呼応している。
ハクと身体を繋げた後の、何もかもが溶け落ちて、力の抜けきった恍惚とした重なり合いが、ユラはとても好きだ。
「なんだ?」
ハクはユラを自分の身体に乗せたまま、爪の先で髪を撫でた。
「…無事を確かめに行きたい」
もはや、ユラにとってここが楽園であることは疑いようがない。
この先、どんなことがあろうとも、ここより幸せな場所などないだろう。
だからもう、自分はどうなってもいいと思う。
食べられるのか、捨てられるのか、破滅も終焉も甘んじて受け入れよう。
気がかりは、アンリのことだった。
一緒に鷹小路家に行く約束だったのに、ユラがいなくなって、アンリはどうしているだろう。鷹小路で雇ってもらえたのか、花御門家にまだいるのか。最後に会った時は、立ち上がることにも苦労していたけれど、腰は大丈夫だろうか。ひどい扱いを受けていないだろうか。
アンリの無事を確かめたい。
だからと言ってユラに出来ることがあるわけではないが、…
「…あの男が恋しいか?」
いつもより数段低い声で、ハクが唸るように聞く。
「こい、…?」
あの男と言われて、思い当たるのは自分を妻に望んでくれた鷹小路クリスしかいないが、彼に抱く感情は、恋しいというものとは違うように思う。
彼に抱くのは、何だろう。
…申し訳ない、だろうか。
何を血迷ったのかユラに求婚してくれたにもかかわらず、婚姻を翌日に控えて、姿を消すことになってしまった。ひどい裏切り行為だ。謝っても謝りきれない。
「彼は、…」
「いや、いい」
正直にそう伝えようとすると、ハクにさえぎられた。
「分かった。会わせてやる」
ハクはユラを片腕に抱いたまま起き上がると、ふいにいつも身に着けているチョーカーを外し、
「…着けてろ」
ユラの首にかけた。
雪の結晶。
「きれい、…」
胸元で透明な輝きを放つそれは、雪の結晶のような形をしていて、繊細で美しく、ハクの体温が移っているのか、ほの温かい。精巧で煌めきが深く、どこか懐かしいような切なさも伴っている。
素肌にチョーカーだけを着けているユラは、その重みと質感が少し恥ずかしくもあるが、たとえようもないほど嬉しい。ハクのものを身に着けて、ハクのものになったような気がする。
「ありがとう。でも、ハクは?」
ハクがいつも身に着けているということは、ハクが気に入っているものか、大切なものなのだろう。或いはリーダーの証とか、何か意味があるのかも。
と、思ってハクを見上げると、
「…お前のだ」
ハクはチョーカーを着けたユラをとても優しい目で見ていた。
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