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3章. ゆい
machi.40
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昨夜、稜さんの腕の中で大泣きした後の記憶がない。
気が付いたら朝で、翔と一緒にベットで寝ていた。
『呼び出しがあったから出てくる』
リビングのテーブルに稜さんからのメモが置いてあった。
冷蔵庫の中身やキッチンを好きに使ってもいいこと。
道がわからないだろうから、タクシーを使うようにということ。
稜さんの、優しい指示が続いていて、タクシー代も置いてあった。
「稜さん、ごめんなさい。私…」
「いいよ。わかってる」
稜さんの心臓の音が聞こえる。いつも、私を包み込んでくれる。
「しばらく、俺のうちに居ろ。ゆいの部屋は注目されているだろうから」
稜さんの優しさに身が縮む。
『気の毒にね』
私は稜さんに優しくされる資格がない。
「…稜さん」
私が、よほど情けない顔をしていたんだろう、稜さんは私の頭に手を乗せて、下から私の目をのぞき込んだ。
「大丈夫だから。心配するな」
稜さんの手は温かい。
どうして、自分の気持ちでさえ、思い通りにできないんだろう。
保育園のお迎えも、稜さんが一緒に行ってくれた。
園の入り口で報道関係者と思われる人に囲まれたけれど、
稜さんがかわしてくれた。
「新しい彼氏さんなの?本当のお父さんとは、どうされているの?」
面と向かって尋ねてきた顔見知りのお母さんもいたけれど、
話せることがない。
園の保護者や先生たちが遠巻きに見ている。
稜さんの存在が、新しい話題を提供しているのかもしれない。
翔が、不安そうに私にしがみついて離れなかった。
翔を抱きしめて、うつむいて通り過ぎた。
夜になって、翔がせき込み、熱を出した。
稜さんが診てくれて、まもなく寝入った。
赤い顔をして浅い呼吸を繰り返す翔の頭をなでる。
しっかりしろ。
翔を守れるのは私だけだ。
稜さんがお風呂に入った時に、手帳からメモを取り出した。
見るだけで、胸が掴まれるような、悠馬の字。
翔のことを話して、謝って、
悠馬の生活を邪魔するつもりはないことを伝えよう。
携帯電話の番号を押す指が震える。
悠馬への初めての電話が、さよならを確認するためなんて、皮肉だ。
数回呼び出し音が鳴った後、電話が通じる。
「…もし、もし」
緊張で声がかすれた。
この電話の向こうに、悠馬がいる。
「あ、…あの、…水村、ゆい、です」
息がうまく吸えなくて、言葉が途切れてしまう。
電話の向こうから、冷たい沈黙が届く。
悠馬の状況がわからなくて怖い。
「…悠馬?」
恐る恐る呼びかけると、
「消えてよ」
いきなり、刃物で切り裂かれるような、鋭く尖った言葉が投げつけられて、電話が切れた。
こんなにはっきりとした憎悪の塊を向けられたのは初めてで、
途切れた電話を耳にしたまま、動けなかった。
気が付いたら朝で、翔と一緒にベットで寝ていた。
『呼び出しがあったから出てくる』
リビングのテーブルに稜さんからのメモが置いてあった。
冷蔵庫の中身やキッチンを好きに使ってもいいこと。
道がわからないだろうから、タクシーを使うようにということ。
稜さんの、優しい指示が続いていて、タクシー代も置いてあった。
「稜さん、ごめんなさい。私…」
「いいよ。わかってる」
稜さんの心臓の音が聞こえる。いつも、私を包み込んでくれる。
「しばらく、俺のうちに居ろ。ゆいの部屋は注目されているだろうから」
稜さんの優しさに身が縮む。
『気の毒にね』
私は稜さんに優しくされる資格がない。
「…稜さん」
私が、よほど情けない顔をしていたんだろう、稜さんは私の頭に手を乗せて、下から私の目をのぞき込んだ。
「大丈夫だから。心配するな」
稜さんの手は温かい。
どうして、自分の気持ちでさえ、思い通りにできないんだろう。
保育園のお迎えも、稜さんが一緒に行ってくれた。
園の入り口で報道関係者と思われる人に囲まれたけれど、
稜さんがかわしてくれた。
「新しい彼氏さんなの?本当のお父さんとは、どうされているの?」
面と向かって尋ねてきた顔見知りのお母さんもいたけれど、
話せることがない。
園の保護者や先生たちが遠巻きに見ている。
稜さんの存在が、新しい話題を提供しているのかもしれない。
翔が、不安そうに私にしがみついて離れなかった。
翔を抱きしめて、うつむいて通り過ぎた。
夜になって、翔がせき込み、熱を出した。
稜さんが診てくれて、まもなく寝入った。
赤い顔をして浅い呼吸を繰り返す翔の頭をなでる。
しっかりしろ。
翔を守れるのは私だけだ。
稜さんがお風呂に入った時に、手帳からメモを取り出した。
見るだけで、胸が掴まれるような、悠馬の字。
翔のことを話して、謝って、
悠馬の生活を邪魔するつもりはないことを伝えよう。
携帯電話の番号を押す指が震える。
悠馬への初めての電話が、さよならを確認するためなんて、皮肉だ。
数回呼び出し音が鳴った後、電話が通じる。
「…もし、もし」
緊張で声がかすれた。
この電話の向こうに、悠馬がいる。
「あ、…あの、…水村、ゆい、です」
息がうまく吸えなくて、言葉が途切れてしまう。
電話の向こうから、冷たい沈黙が届く。
悠馬の状況がわからなくて怖い。
「…悠馬?」
恐る恐る呼びかけると、
「消えてよ」
いきなり、刃物で切り裂かれるような、鋭く尖った言葉が投げつけられて、電話が切れた。
こんなにはっきりとした憎悪の塊を向けられたのは初めてで、
途切れた電話を耳にしたまま、動けなかった。
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