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少しひんやりした千晃くんの滑らかな手。
長い指先。触れ合う袖口。混ざり合う体温。
「…あのっ」
繋いだ手に深い意味はないって分かってる。
だけど、どうしたって期待してしまう。
「酔い覚まし」
千晃くんが斜めに顔を傾けて、楽しそうに口元を緩めた。
繋いだ手を大きく揺らす。
『手つないでやろうか』
もしかしたら、思い出してくれるんじゃないか。
また好きになってもらえるんじゃないか。
千晃くんの特別になれるんじゃないか。
そして。
今度こそ、忘れないでいてくれるんじゃないか。
って。
期待しちゃうんだよ。
「…千晃くん」
「指、怪我してるね」
千晃くんが絆創膏を貼った私の指を、優しく親指の腹で撫でた。
怒ってばかりいる高野チーフの顔が浮かんで、
なんでか鼻の奥が、ツンと痛くなった。
この手を振りほどけたらいいのに。
ツラいだけだって分かってるのに。
好きが降り積もった分だけ、喪失が大きい。
千晃くんは今日のことも、いずれ忘れてしまう。
だけど。
今だけでも。一瞬だけでも。
それだけでいいと思ってしまう。
神様。
もしも、ひとつだけ願いが叶うなら。
どうか時間を止めて。
この一瞬を永遠に変えて下さい。
暗い夜空に浮かんだ三日月が、行き場のない想いを静かに照らした。
その夜は、久しぶりに千晃くんの夢を見た。
ゼミの交流を深める目的で、近郊の山にハイキングに出掛けた。
頂上まで登って、帰りはリフトで降りた。
当日は霧がかかっていて視界が悪く、
リフトに乗ってすぐにヤバいと思ったけど遅かった。
視界がぐるぐる回って、血の気が引いて指が震える。
座っていられなくて、吐き気がする。
ここまで高所恐怖症がひどいとは自分でも思っていなかった。
『手つないでやろうか』
救いの手は、早急に差し伸べられた。
隣に座っていた千晃くんが私の様子を察して手を取ってくれた。
千晃くんの温もりだけが命綱だった。
目をつむって、繋がれた千晃くんの体温だけを感じていたら、
終着地点で千晃くんが抱き下ろしてくれた。
簡単だった。
あまりにも簡単に千晃くんに落ちた。
つないでくれた手が、私の全てになっていた。
でも夢の中では。
リフトを降りると全然知らない人の手になっていて。
どんなに探しても千晃くんがいない。
あの頃、何度も何度も同じ夢を見て。
泣きながら起きて、泣きながら寝た。
だけどその日の夢は、
リフトを降りたら高野チーフの手をつかんでいて、
「…バーカ」
無駄に整った横顔が、意地悪に口の端を上げた。
無性にイラッとして目が覚めた。
めちゃくちゃ気合いが入って、朝からレバニラ炒めを作った。
おかげで泣いている隙がなかった。
長い指先。触れ合う袖口。混ざり合う体温。
「…あのっ」
繋いだ手に深い意味はないって分かってる。
だけど、どうしたって期待してしまう。
「酔い覚まし」
千晃くんが斜めに顔を傾けて、楽しそうに口元を緩めた。
繋いだ手を大きく揺らす。
『手つないでやろうか』
もしかしたら、思い出してくれるんじゃないか。
また好きになってもらえるんじゃないか。
千晃くんの特別になれるんじゃないか。
そして。
今度こそ、忘れないでいてくれるんじゃないか。
って。
期待しちゃうんだよ。
「…千晃くん」
「指、怪我してるね」
千晃くんが絆創膏を貼った私の指を、優しく親指の腹で撫でた。
怒ってばかりいる高野チーフの顔が浮かんで、
なんでか鼻の奥が、ツンと痛くなった。
この手を振りほどけたらいいのに。
ツラいだけだって分かってるのに。
好きが降り積もった分だけ、喪失が大きい。
千晃くんは今日のことも、いずれ忘れてしまう。
だけど。
今だけでも。一瞬だけでも。
それだけでいいと思ってしまう。
神様。
もしも、ひとつだけ願いが叶うなら。
どうか時間を止めて。
この一瞬を永遠に変えて下さい。
暗い夜空に浮かんだ三日月が、行き場のない想いを静かに照らした。
その夜は、久しぶりに千晃くんの夢を見た。
ゼミの交流を深める目的で、近郊の山にハイキングに出掛けた。
頂上まで登って、帰りはリフトで降りた。
当日は霧がかかっていて視界が悪く、
リフトに乗ってすぐにヤバいと思ったけど遅かった。
視界がぐるぐる回って、血の気が引いて指が震える。
座っていられなくて、吐き気がする。
ここまで高所恐怖症がひどいとは自分でも思っていなかった。
『手つないでやろうか』
救いの手は、早急に差し伸べられた。
隣に座っていた千晃くんが私の様子を察して手を取ってくれた。
千晃くんの温もりだけが命綱だった。
目をつむって、繋がれた千晃くんの体温だけを感じていたら、
終着地点で千晃くんが抱き下ろしてくれた。
簡単だった。
あまりにも簡単に千晃くんに落ちた。
つないでくれた手が、私の全てになっていた。
でも夢の中では。
リフトを降りると全然知らない人の手になっていて。
どんなに探しても千晃くんがいない。
あの頃、何度も何度も同じ夢を見て。
泣きながら起きて、泣きながら寝た。
だけどその日の夢は、
リフトを降りたら高野チーフの手をつかんでいて、
「…バーカ」
無駄に整った横顔が、意地悪に口の端を上げた。
無性にイラッとして目が覚めた。
めちゃくちゃ気合いが入って、朝からレバニラ炒めを作った。
おかげで泣いている隙がなかった。
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