時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

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「雅、いるんでしょ? 開けて~」

細面のやや吊り上がった瞳。
美人顔に意志の強そうな目鼻立ち。

…がく。

高野チーフを、名前で呼ぶ大人な女性。

「開けてくれないなら勝手に入っちゃうわよ~」

更に。
マンションの合い鍵も持っている女性。

息をひそめて食い入るようにモニターを見ていたら、
心臓が勝手に早鐘を打って苦しくなってきた。

限りない安心をくれるこの部屋のカードキーを持っている人が、
他にもいる。

緊急避難はあくまでも緊急避難であって、
それ以上の意味は何もない。

濡れた髪からしずくが垂れて、頬を冷たく濡らす。

…がく。

がく。の、大バカパンダ。

凍り付いたように固まってマンション入り口のモニターを眺めているうちに、
短髪モデル美女がマンションの中に入ってきてしまった。

やばい。

これは修羅場か。
俗にいう修羅場ってやつか。

今更、照明を消して隠れるのもおかしいし、
髪は濡れたままだし、チーフのスウェット姿だし。

何をどうすることもできないまま、ドアチャイムが鳴って、外から鍵が開き、

「雅、入るよ~」

ドアを開けて入ってきた女性と、仕方がないので玄関で対面することにした。

「お邪魔しています。高野チーフの、会社の部下の佐倉ですっ」

玄関先に正座して、三つ指ついてやけくそに挨拶すると、

「うおっっ、…びっ、くりしたぁ―――っ」

入ってきた短髪美女が本気で驚いて飛び上がっていた。

驚かせて相すみませぬ。


「…へえ、ここちゃんって言うんだ。やだ、可愛い」

え、可愛い?

ちょっとその気になったところを指さし確認して笑い、

「ウケる、犬みたい」

犬、とな?

あっけらかんと人を犬呼ばわりする。

高野チーフのマンションの合い鍵を持ち、夜中に来襲して、

「飲まなきゃやってらんないよね~⁇」

と、勝手に冷蔵庫からビール缶を取り出して飲み始めた短髪モデル美女は、

「柏葉茉由子、 三十路、子持ちで~すっ」

高野チーフのお姉さんらしい。

…ってことは。

「世界一可愛いるうちゃんのママ!?」

「やだあ、雅ったら、実の姉に向かって可愛いとか照れる」

どうやら当たりだったようで、茉由子さんが豪快に笑いながらビールを空けている。
せっかくなので、「可愛い」は「るうちゃん」に係っていることには、触れずにおく。

「うん、ここちゃん。今日は飲もう。お姉さんが許す」

茉由子さんは、許可を出すとキッチンを漁りだし、私にも勧めながら、ハイペースで飲んでいった。

「ちょっと~、おつまみ足りない~」

そして、気がついたらおつまみを作る羽目になっていたのだけども、
正直料理に自信はなく、レパートリーもほとんどない。

仕方がないので、冷蔵庫の中身と相談しながら、「みんな作ってる超簡単3分レシピ」とやらを検索し、

ちくわキュウリ、昆布キャベツ、チーズはんぺん焼き、オクラ豆腐、茄子の味噌炒め、…

などなどを見よう見まねでせっせと作って運んでみた。

その結果。

「あんた、いい子だね、ここちゃん」

「いい子」頂きました~~~っ

茉由子さんが満足げに食べながら、頭を撫でてくれる。

「ホント、犬みたい」

なるほど。

ここで喜んでしっぽ振っちゃうとこが犬なのか。
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