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「お邪魔します」
チーフのマンションが、既に懐かしく感じる。チーフと一緒にドアを開けて入ると、
「お前と同じ部屋に帰るって、…」
ずっとつないでいた温かい手が離れ、代わりに、
「ちょっと、いいな」
玄関先で後ろからチーフに抱きすくめられた。
全身がチーフの香りに包まれて、体温が急上昇して心臓が跳ねる。
「お前もう、…ずっとここに居ろ」
頭の上から、チーフの低い声が降る。
それに反応して、髪の毛1本1本が密かに震える。
「…寿命が縮んだ」
吐息のようなハスキーボイスが蜜のように降り注ぎ、
チーフの柔らかく潤った唇がこめかみに触れた。
触れたところが甘く痺れて、心臓が狂ったように暴れだし、
災難続きで弱っているのか、膝が砕けそうになる。
私の前で交差したチーフの長い腕が、私の頭を優しく撫でる。
チーフの腕の中に、頭がすっぽり収まってしまう。
自分が頼りない小さな子どもになったような気分で、
力強くて優しい腕に、丸ごと全部甘えてしまいたい衝動に駆られた。
「あいつも、…気が気じゃないな」
緊張と動揺と歓喜と恍惚が混ざり合った優しい腕の中に、
チーフのどこか寂し気なつぶやきが落ちた。
身じろぎすると、チーフの甘い腕が解けて、
「…罠を張るか」
誰に言うともないつぶやきを残して、チーフは先に部屋の中に入っていった。
チーフの気配が遠ざかった玄関先で、脱力して上がり框にへたり込んだ。
思考回路ショート。
なんという威力。
こっちの寿命が縮むって。
抜け殻になった頭の中を、
急いで、引っ越し先、探さなくてもいいのかな。
もうちょっと、ここに一緒に居てもいいのかな。
という、希望的観測がぐるぐる回っていた。
「じゃあ、行ってくる」
甘い低音が耳をくすぐり、
柔らかい唇が寝ぼけ眼をかすめて、
優しい手が頭を撫でた。
事故の翌日はチーフの勧めで仕事を休んだ。
昨夜は。
ブレーキが利かない恐怖と焦り、
千晃くんの額から流れる血、力なく落ちた腕、
横転して炎上した車、悲鳴、煙、息苦しさ、
『人殺しっ!!』むき出しの憎悪、…
目を閉じると、事故の映像が脳内をフラッシュバックして、
真夜中を過ぎても全く眠れそうになかった。
のに。
チーフの匂いがするベッドで、チーフの腕に包まれて、
チーフの鼓動を聞きながら、
子どもをあやすように背中を軽くトントンされて、
大きな手で髪を優しく撫でられているうちに、
いつのまにか寝ていた。
得も言われぬ恐怖に目を覚ましても、
背中に回された力強い腕になだめられ、
震える瞼を優しい唇が慰めてくれる。
全身が安心に包まれて、涙がにじんだ。
この優しい腕の中に慣れてしまったら。
もう一人では眠れなくなってしまう。
チーフのマンションが、既に懐かしく感じる。チーフと一緒にドアを開けて入ると、
「お前と同じ部屋に帰るって、…」
ずっとつないでいた温かい手が離れ、代わりに、
「ちょっと、いいな」
玄関先で後ろからチーフに抱きすくめられた。
全身がチーフの香りに包まれて、体温が急上昇して心臓が跳ねる。
「お前もう、…ずっとここに居ろ」
頭の上から、チーフの低い声が降る。
それに反応して、髪の毛1本1本が密かに震える。
「…寿命が縮んだ」
吐息のようなハスキーボイスが蜜のように降り注ぎ、
チーフの柔らかく潤った唇がこめかみに触れた。
触れたところが甘く痺れて、心臓が狂ったように暴れだし、
災難続きで弱っているのか、膝が砕けそうになる。
私の前で交差したチーフの長い腕が、私の頭を優しく撫でる。
チーフの腕の中に、頭がすっぽり収まってしまう。
自分が頼りない小さな子どもになったような気分で、
力強くて優しい腕に、丸ごと全部甘えてしまいたい衝動に駆られた。
「あいつも、…気が気じゃないな」
緊張と動揺と歓喜と恍惚が混ざり合った優しい腕の中に、
チーフのどこか寂し気なつぶやきが落ちた。
身じろぎすると、チーフの甘い腕が解けて、
「…罠を張るか」
誰に言うともないつぶやきを残して、チーフは先に部屋の中に入っていった。
チーフの気配が遠ざかった玄関先で、脱力して上がり框にへたり込んだ。
思考回路ショート。
なんという威力。
こっちの寿命が縮むって。
抜け殻になった頭の中を、
急いで、引っ越し先、探さなくてもいいのかな。
もうちょっと、ここに一緒に居てもいいのかな。
という、希望的観測がぐるぐる回っていた。
「じゃあ、行ってくる」
甘い低音が耳をくすぐり、
柔らかい唇が寝ぼけ眼をかすめて、
優しい手が頭を撫でた。
事故の翌日はチーフの勧めで仕事を休んだ。
昨夜は。
ブレーキが利かない恐怖と焦り、
千晃くんの額から流れる血、力なく落ちた腕、
横転して炎上した車、悲鳴、煙、息苦しさ、
『人殺しっ!!』むき出しの憎悪、…
目を閉じると、事故の映像が脳内をフラッシュバックして、
真夜中を過ぎても全く眠れそうになかった。
のに。
チーフの匂いがするベッドで、チーフの腕に包まれて、
チーフの鼓動を聞きながら、
子どもをあやすように背中を軽くトントンされて、
大きな手で髪を優しく撫でられているうちに、
いつのまにか寝ていた。
得も言われぬ恐怖に目を覚ましても、
背中に回された力強い腕になだめられ、
震える瞼を優しい唇が慰めてくれる。
全身が安心に包まれて、涙がにじんだ。
この優しい腕の中に慣れてしまったら。
もう一人では眠れなくなってしまう。
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