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time.49
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ていうか。
急速に覚醒して起き上がり、誰もいないのを確認してから、ベッドの上で身もだえする。
なに、今の。なに、今の。
行ってくる、って。
行ってくる、って。
新婚さんみたいじゃん!?
…チーフが甘い。
顔が熱い。無駄に熱い。
耳たぶを指でつかんで引き伸ばす。
落ち着け。落ち着け。
チーフは。
中を見たことのないもう一つの部屋を思った。
今までの彼女にも。
忘れられないあの子にも。
ずっとこんな風に甘かったのかな。
その日は、ともかくも千晃くんのお見舞いに行くことにした。
千晃くんが入院している病院は、駅から歩いてすぐの近代的なビルで、広い敷地一面が緑に囲まれている。
面会時間を確認して、
小ぶりで明るい色のフラワーアレンジメントを手に、
千晃くんの病室に向かう。
ノックしてから恐る恐るドアを開けると、
「ね? 思い出して? 」
千晃くんのベッドの上に心菜さんが乗りかかっていた。
「あたしと千晃くん。ものすごくラブラブで。千晃くん、あたしのこと、ずっと離さなくて、いっぱいいっぱい愛し合ったの」
二つの影が重なり合う。
足がすくんで動けない。
見たくないのに目をそらせない。
なんという場面に遭遇させるの!?
神さまを呪うも、時すでに遅し。
「申し訳ないけど、…」
千晃くんの声がして、心菜さんが遠ざけられた。
呪縛が解けたように、ようやく動けるようになって、そうっと身体の向きを変えると、
「ねえ、 千晃くん。また、ここって呼んで?」
動じずに迫りゆく心菜さんの甘えた声が聞こえた。
「…ごめんね。俺が悪い。最低だと思う」
それを丁寧に退ける千晃くんの声を背後に、静かに病室から出ようとしたところで、
「でも俺、好きな人がいるんだ」
「えっ!!」
動揺して声を上げてしまった。
「あ、…」
ものすごくばつが悪い思いで振り返ると、当然、こちらを見ている千晃くんと心菜さんとばっちり目が合った。
「ちょっと、あなたっ!! どの面下げてここに来られたわけ!?」
早速、つかみかからんばかりの勢いで、ベッドから滑り降りた心菜さんを、
「お見舞いに来てくれたの? ありがとう」
千晃くんが優しい微笑みでかわし、ベットから出ると、病室のドア口に立つ私の方までスタスタと歩いてきた。
「え、…大丈夫ですか!?」
千晃くん。
まだ頭に包帯巻いてるけど。
そんな普通に動いていいの??
「うん。もうすっかり。明日には退院できそう」
私の前に立った千晃くんが微笑んだままうなずいた。
「…よかった」
心の底から安堵が込み上げて、無防備な涙腺が急激に刺激された。
急速に覚醒して起き上がり、誰もいないのを確認してから、ベッドの上で身もだえする。
なに、今の。なに、今の。
行ってくる、って。
行ってくる、って。
新婚さんみたいじゃん!?
…チーフが甘い。
顔が熱い。無駄に熱い。
耳たぶを指でつかんで引き伸ばす。
落ち着け。落ち着け。
チーフは。
中を見たことのないもう一つの部屋を思った。
今までの彼女にも。
忘れられないあの子にも。
ずっとこんな風に甘かったのかな。
その日は、ともかくも千晃くんのお見舞いに行くことにした。
千晃くんが入院している病院は、駅から歩いてすぐの近代的なビルで、広い敷地一面が緑に囲まれている。
面会時間を確認して、
小ぶりで明るい色のフラワーアレンジメントを手に、
千晃くんの病室に向かう。
ノックしてから恐る恐るドアを開けると、
「ね? 思い出して? 」
千晃くんのベッドの上に心菜さんが乗りかかっていた。
「あたしと千晃くん。ものすごくラブラブで。千晃くん、あたしのこと、ずっと離さなくて、いっぱいいっぱい愛し合ったの」
二つの影が重なり合う。
足がすくんで動けない。
見たくないのに目をそらせない。
なんという場面に遭遇させるの!?
神さまを呪うも、時すでに遅し。
「申し訳ないけど、…」
千晃くんの声がして、心菜さんが遠ざけられた。
呪縛が解けたように、ようやく動けるようになって、そうっと身体の向きを変えると、
「ねえ、 千晃くん。また、ここって呼んで?」
動じずに迫りゆく心菜さんの甘えた声が聞こえた。
「…ごめんね。俺が悪い。最低だと思う」
それを丁寧に退ける千晃くんの声を背後に、静かに病室から出ようとしたところで、
「でも俺、好きな人がいるんだ」
「えっ!!」
動揺して声を上げてしまった。
「あ、…」
ものすごくばつが悪い思いで振り返ると、当然、こちらを見ている千晃くんと心菜さんとばっちり目が合った。
「ちょっと、あなたっ!! どの面下げてここに来られたわけ!?」
早速、つかみかからんばかりの勢いで、ベッドから滑り降りた心菜さんを、
「お見舞いに来てくれたの? ありがとう」
千晃くんが優しい微笑みでかわし、ベットから出ると、病室のドア口に立つ私の方までスタスタと歩いてきた。
「え、…大丈夫ですか!?」
千晃くん。
まだ頭に包帯巻いてるけど。
そんな普通に動いていいの??
「うん。もうすっかり。明日には退院できそう」
私の前に立った千晃くんが微笑んだままうなずいた。
「…よかった」
心の底から安堵が込み上げて、無防備な涙腺が急激に刺激された。
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