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「…すみません。俺が追い詰めました」
隣に座る千晃くんが、苦しそうに唇をかんで頭を下げた。
千晃くんの美しい瞳が暗く翳り、
「…ごめん。巻き込んだのは俺だったんだな」
辛そうに私を見つめたから、全力で大きくかぶりを振った。
「いや、それは違う」
そんな千晃くんを見て、CEOも即座に否定する。
「常盤くんの事情は先刻承知の上だった。常盤くんは覚えていないかもしれないが、心菜を見初めてくれた時、最初から言われていたんだよ。記憶障害があること。何かを探していること。人違いかもしれないが、それでもいいか、と」
CEOが深くうなだれて、頭を抱え込みながら、言葉を絞り出す。
「…人違いだということはすぐに分かった。でも心菜は、認めようとしなかった。私の話には耳を貸そうとせず、常盤くんが求める人になりきっていた。不安定な常盤くんの記憶に付け込んでいたんだ」
懺悔するようにぽつりぽつりと話される内容に、胸が軋む。
「常盤くんが間違いに気づくのは時間の問題だった。娘は、常盤くんが何かを思い出すことを、常に恐れていた。日に日に精神状態がおかしくなって、婚約を破棄された時は手の付けられないほどだった。でも、私は正直ほっとしていた。これで終わった、と。それなのに、…」
一度頭を上げたCEOは深い苦悩をにじませた顔で、
「…心菜を止められなかった私の責任だ」
再び低く頭を下げると、もう上げようとはしなかった。
心菜さんは今日、お母さんに付き添われて警察に自首する予定だという。
損害賠償はする。
出来る限りのことはする。
と、ひたすら頭を下げ続けるCEOに何と言えばいいのかわからず、
重暗く沈み切った気持ちのまま、千晃くんと一緒に役員室を出た。
「ここ。本当にごめん」
千晃くんがそっと私に手を伸ばし、いたわるように頬に触れかけて、
触れる直前で手を止め、そのまま指を握りしめた。
「絶っっ対に、千晃くんのせいじゃないから。謝らないで」
千晃くんが本当に悲しそうで、痛々しくて、見ていられなくて、
握りしめた千晃くんの手に両手を重ねた。
「千晃くんだって、私にそう言ってくれた」
責任を感じている千晃くんを元気づけたかった。
どう考えても千晃くんのせいじゃない。
それに、…
『私がやりました』
っていうのは、全部なんだろうか。
ブレーキへの細工。
防犯カメラの映像妨害。
ロッカーに閉じ込めたこと。
全部、心菜さんなの?
千晃くんが儚い笑みを浮かべて、
「ここは、ホントに、…」
もう一方の手で、私の髪をするりと撫でる。
そのまま私を引き寄せて、腕の中に固く固く抱きしめた。
「…俺、最愛の人を忘れた」
絨毯を敷き詰められた7階フロアは、どことなく皮の匂いがする。
一面ガラス張りの窓からは、穏やかな日差しが降り注いでいる。
「自分が許せない…」
切なくかすれた千晃くんの声が胸を打って、…動けなかった。
隣に座る千晃くんが、苦しそうに唇をかんで頭を下げた。
千晃くんの美しい瞳が暗く翳り、
「…ごめん。巻き込んだのは俺だったんだな」
辛そうに私を見つめたから、全力で大きくかぶりを振った。
「いや、それは違う」
そんな千晃くんを見て、CEOも即座に否定する。
「常盤くんの事情は先刻承知の上だった。常盤くんは覚えていないかもしれないが、心菜を見初めてくれた時、最初から言われていたんだよ。記憶障害があること。何かを探していること。人違いかもしれないが、それでもいいか、と」
CEOが深くうなだれて、頭を抱え込みながら、言葉を絞り出す。
「…人違いだということはすぐに分かった。でも心菜は、認めようとしなかった。私の話には耳を貸そうとせず、常盤くんが求める人になりきっていた。不安定な常盤くんの記憶に付け込んでいたんだ」
懺悔するようにぽつりぽつりと話される内容に、胸が軋む。
「常盤くんが間違いに気づくのは時間の問題だった。娘は、常盤くんが何かを思い出すことを、常に恐れていた。日に日に精神状態がおかしくなって、婚約を破棄された時は手の付けられないほどだった。でも、私は正直ほっとしていた。これで終わった、と。それなのに、…」
一度頭を上げたCEOは深い苦悩をにじませた顔で、
「…心菜を止められなかった私の責任だ」
再び低く頭を下げると、もう上げようとはしなかった。
心菜さんは今日、お母さんに付き添われて警察に自首する予定だという。
損害賠償はする。
出来る限りのことはする。
と、ひたすら頭を下げ続けるCEOに何と言えばいいのかわからず、
重暗く沈み切った気持ちのまま、千晃くんと一緒に役員室を出た。
「ここ。本当にごめん」
千晃くんがそっと私に手を伸ばし、いたわるように頬に触れかけて、
触れる直前で手を止め、そのまま指を握りしめた。
「絶っっ対に、千晃くんのせいじゃないから。謝らないで」
千晃くんが本当に悲しそうで、痛々しくて、見ていられなくて、
握りしめた千晃くんの手に両手を重ねた。
「千晃くんだって、私にそう言ってくれた」
責任を感じている千晃くんを元気づけたかった。
どう考えても千晃くんのせいじゃない。
それに、…
『私がやりました』
っていうのは、全部なんだろうか。
ブレーキへの細工。
防犯カメラの映像妨害。
ロッカーに閉じ込めたこと。
全部、心菜さんなの?
千晃くんが儚い笑みを浮かべて、
「ここは、ホントに、…」
もう一方の手で、私の髪をするりと撫でる。
そのまま私を引き寄せて、腕の中に固く固く抱きしめた。
「…俺、最愛の人を忘れた」
絨毯を敷き詰められた7階フロアは、どことなく皮の匂いがする。
一面ガラス張りの窓からは、穏やかな日差しが降り注いでいる。
「自分が許せない…」
切なくかすれた千晃くんの声が胸を打って、…動けなかった。
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