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「ここちゃん、イベント会議、地下のC会議室だって」
7階役員室から自分のフロアに戻っても、まだ自分の身体に千晃くんの温もりが残っているような気がした。
『俺、最愛の人を忘れた』
千晃くんの腕の力強さが、想いの強さのような気がした。
千晃くん、私のこと、思い出してくれたのかな。
いや。いやいや。
千晃くんの最愛が私だってうぬぼれてるわけじゃないですよ。
ただね、ほらね。
千晃くんが描いてくれた絵のタイトルは『最愛』でしてね。
千晃くんが描いた人物画はあれ1点でしてね。
そうしたらモデルは私ってことになるわけで、
つまりは最愛の人ってことに…
「ここちゃん? 聞いてる?」
「わーっ、なりません! ごめんなさい―――っ」
「…え?」
何か言っていたらしいまりな先輩が唖然とした表情で私を見ていた。
佐倉ここ、やらかしたようであります。
「こういう人がいると、テンション下がりますよねーえ」
香恋ちゃんの声高な独り言に、冷たい空気が漂った。
も、…申し訳もござりませぬ。
「まあまあ。はい、ここちゃん。行ってらっしゃい」
天使のまりな先輩がとりなしてくれて、デスクに薄荷キャンディが転がってきた。
薄荷キャンディ。
ひんやり爽やか。
頭を切り替えて会議に向かいながら、
「まりな先輩、ありがとうっ」
まりな先輩を見ると、微笑んで手を振ってくれた。
(株)ベースパワーさんという、老舗のイベント企画制作会社に協力してもらい、
30周年記念商品の販売と、アミューズメントイベントの企画を進めている。
周年記念事業は今年の重要業務。
会議には、企画部とか開発部とか、他部署からも人が集まり、慎重に進められていた。
営業3課担当としてしっかりやらなければ。
気合を入れて地下階に降り、C会議室に急ぐ。
時間には遅れていないはずだけど、誰とも行き会わないので若干焦る。
もっと早く行くべきだったか。
会議室は扉が閉まっていて妙に静かだった。
時間を間違えたのかと不安になりながら、
恐る恐るドアを開けると、
「…あれ?」
会議室の中は薄暗くて誰もいない。
やっぱり間違えた?
とりあえず時間の確認をしようとドアを閉めかけたところで、
後ろから強く押されて、会議室の中によろめきながら入り、
反動で床に手をついて倒れ込んだ。
「な、…!?」
何事かと倒れ込んだまま、後ろを振り返ると、
「やっと会えたね」
ここにいるはずのない人物が、薄ら笑いを浮かべているのが見えた。
通路から差し込む明かりが徐々に細くなり、線の細い神経質そうな顔を映して、ドアが閉まった。
「なんで、…緑川さん、が…」
恐怖で声が喉に張り付く。
座り込んだまま、本能的に後ずさると、
「やだな、ここ。ススムって呼んでよ」
笑いを含んだような声がして、恐怖と嫌悪で全身が凍り付いた。
7階役員室から自分のフロアに戻っても、まだ自分の身体に千晃くんの温もりが残っているような気がした。
『俺、最愛の人を忘れた』
千晃くんの腕の力強さが、想いの強さのような気がした。
千晃くん、私のこと、思い出してくれたのかな。
いや。いやいや。
千晃くんの最愛が私だってうぬぼれてるわけじゃないですよ。
ただね、ほらね。
千晃くんが描いてくれた絵のタイトルは『最愛』でしてね。
千晃くんが描いた人物画はあれ1点でしてね。
そうしたらモデルは私ってことになるわけで、
つまりは最愛の人ってことに…
「ここちゃん? 聞いてる?」
「わーっ、なりません! ごめんなさい―――っ」
「…え?」
何か言っていたらしいまりな先輩が唖然とした表情で私を見ていた。
佐倉ここ、やらかしたようであります。
「こういう人がいると、テンション下がりますよねーえ」
香恋ちゃんの声高な独り言に、冷たい空気が漂った。
も、…申し訳もござりませぬ。
「まあまあ。はい、ここちゃん。行ってらっしゃい」
天使のまりな先輩がとりなしてくれて、デスクに薄荷キャンディが転がってきた。
薄荷キャンディ。
ひんやり爽やか。
頭を切り替えて会議に向かいながら、
「まりな先輩、ありがとうっ」
まりな先輩を見ると、微笑んで手を振ってくれた。
(株)ベースパワーさんという、老舗のイベント企画制作会社に協力してもらい、
30周年記念商品の販売と、アミューズメントイベントの企画を進めている。
周年記念事業は今年の重要業務。
会議には、企画部とか開発部とか、他部署からも人が集まり、慎重に進められていた。
営業3課担当としてしっかりやらなければ。
気合を入れて地下階に降り、C会議室に急ぐ。
時間には遅れていないはずだけど、誰とも行き会わないので若干焦る。
もっと早く行くべきだったか。
会議室は扉が閉まっていて妙に静かだった。
時間を間違えたのかと不安になりながら、
恐る恐るドアを開けると、
「…あれ?」
会議室の中は薄暗くて誰もいない。
やっぱり間違えた?
とりあえず時間の確認をしようとドアを閉めかけたところで、
後ろから強く押されて、会議室の中によろめきながら入り、
反動で床に手をついて倒れ込んだ。
「な、…!?」
何事かと倒れ込んだまま、後ろを振り返ると、
「やっと会えたね」
ここにいるはずのない人物が、薄ら笑いを浮かべているのが見えた。
通路から差し込む明かりが徐々に細くなり、線の細い神経質そうな顔を映して、ドアが閉まった。
「なんで、…緑川さん、が…」
恐怖で声が喉に張り付く。
座り込んだまま、本能的に後ずさると、
「やだな、ここ。ススムって呼んでよ」
笑いを含んだような声がして、恐怖と嫌悪で全身が凍り付いた。
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