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time.64
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逃げろ! 今すぐ! どこでもいいから!
生存本能が緊急警報を発しているのに、
恐怖で身体が動かない。
「ほら、早く。言ってごらん。ススム、アイシテルって」
緑川さんが心底楽しそうな笑みを浮かべているのが、薄暗い会議室の中でもわかる。
背中を向けたら襲い掛かられそうで、視線を保ったまま後ずさると、
後ろ手が会議椅子にぶつかった。
…後がない。
「ここは恥ずかしがり屋さんだね。僕に言わせたいの?」
それ以上退がれなくなった私を見て楽しむように、緑川さんが一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
顔は笑っているのに、目だけ笑っていない。
私を見ているのに、多分私は映っていない。
緑川さんが私のすぐ目の前で仁王立ちになり、
「ああ、そうか。そんな格好をして」
追い詰めた獲物を見るような目で見下ろすと、
「言葉よりも身体で伝えたいんだね」
頭の上からつま先まで、私の全身にねっとりと舐め回すような視線を這わせた。
生理的な嫌悪感で総毛立つ。
しっかりしろ、ここ!
何としてでもこの部屋から出ないと明日はない。
恐怖で働かない身体を脳が必死に叱咤する。
この人にはそもそも話が通じない。
ここで好き勝手にされるくらいなら、死んだ方がマシだ。
さっきまで残っていた千晃くんの温もりを思い出す。
固く固く抱きしめてくれた千晃くん。
最愛の人。
とは、…言われなかったけども。
「もう邪魔は入らないから、ゆっくり愛し合おう?」
しゃがみ込んで、上からのしかかってこようとする緑川さんを全力で蹴り上げた。
顔を狙ったつもりが空振って、パンプスが空に飛んだ。
「ここったら、待ちきれないんだね」
あろうことか緑川さんを喜ばせてしまった挙句、片足を掴まれて、その手の感触に吐き気が込み上げる。
やだ、もう。助けて。
…助けて。
涙がこみあげてきて、目じりから零れ落ちた時、
『万一の時は躊躇なく使え。絶対に持ち歩けよ』
チーフの声がよみがえった。
そうだ。
警察にストーカー被害を届け出た後、チーフが渡してくれた。
お守り代わりに持ち歩いている催涙スプレーがポケットに入ってる!
掴まれた足のストッキングの上から舌を這わせられて、その気持ち悪さにおぞけが走った。
奥歯を噛みしめてポケットを探り、無我夢中で緑川さんの顔めがけて噴射した。
「うおぎやああ―――っっ」
吠え声のような、言葉にならない緑川さんの悲鳴と共に、のしかかっていた身体が離れた。
大声をあげながら顔を押さえて、緑川さんが床をのたうち回る。
呪縛を解かれたように身体の自由を取り戻し、立ち上がってドアまで走った。
「どうして、ここ⁉」
後ろから絶叫する緑川さんの声が追いかけてきた。
「僕がこんなに愛してるのに‼」
振り返らずにドアを開けて、全力で会議室から走り出る。
狂ったようにわめき続けている緑川さんの声が聞こえないところまで、必死で走った。
生存本能が緊急警報を発しているのに、
恐怖で身体が動かない。
「ほら、早く。言ってごらん。ススム、アイシテルって」
緑川さんが心底楽しそうな笑みを浮かべているのが、薄暗い会議室の中でもわかる。
背中を向けたら襲い掛かられそうで、視線を保ったまま後ずさると、
後ろ手が会議椅子にぶつかった。
…後がない。
「ここは恥ずかしがり屋さんだね。僕に言わせたいの?」
それ以上退がれなくなった私を見て楽しむように、緑川さんが一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
顔は笑っているのに、目だけ笑っていない。
私を見ているのに、多分私は映っていない。
緑川さんが私のすぐ目の前で仁王立ちになり、
「ああ、そうか。そんな格好をして」
追い詰めた獲物を見るような目で見下ろすと、
「言葉よりも身体で伝えたいんだね」
頭の上からつま先まで、私の全身にねっとりと舐め回すような視線を這わせた。
生理的な嫌悪感で総毛立つ。
しっかりしろ、ここ!
何としてでもこの部屋から出ないと明日はない。
恐怖で働かない身体を脳が必死に叱咤する。
この人にはそもそも話が通じない。
ここで好き勝手にされるくらいなら、死んだ方がマシだ。
さっきまで残っていた千晃くんの温もりを思い出す。
固く固く抱きしめてくれた千晃くん。
最愛の人。
とは、…言われなかったけども。
「もう邪魔は入らないから、ゆっくり愛し合おう?」
しゃがみ込んで、上からのしかかってこようとする緑川さんを全力で蹴り上げた。
顔を狙ったつもりが空振って、パンプスが空に飛んだ。
「ここったら、待ちきれないんだね」
あろうことか緑川さんを喜ばせてしまった挙句、片足を掴まれて、その手の感触に吐き気が込み上げる。
やだ、もう。助けて。
…助けて。
涙がこみあげてきて、目じりから零れ落ちた時、
『万一の時は躊躇なく使え。絶対に持ち歩けよ』
チーフの声がよみがえった。
そうだ。
警察にストーカー被害を届け出た後、チーフが渡してくれた。
お守り代わりに持ち歩いている催涙スプレーがポケットに入ってる!
掴まれた足のストッキングの上から舌を這わせられて、その気持ち悪さにおぞけが走った。
奥歯を噛みしめてポケットを探り、無我夢中で緑川さんの顔めがけて噴射した。
「うおぎやああ―――っっ」
吠え声のような、言葉にならない緑川さんの悲鳴と共に、のしかかっていた身体が離れた。
大声をあげながら顔を押さえて、緑川さんが床をのたうち回る。
呪縛を解かれたように身体の自由を取り戻し、立ち上がってドアまで走った。
「どうして、ここ⁉」
後ろから絶叫する緑川さんの声が追いかけてきた。
「僕がこんなに愛してるのに‼」
振り返らずにドアを開けて、全力で会議室から走り出る。
狂ったようにわめき続けている緑川さんの声が聞こえないところまで、必死で走った。
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