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time.72
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「…はい?」
千晃くんが香恋ちゃんに向き直ると、
香恋ちゃんは頬をバラ色に染め、恥じらいながら、
「30周年記念パーティのエスコート、お願いできませんか?」
驚くほどか弱い声で、懇願した。
「ちょ、…か、…っ⁉」
それを向かいの席で聞いていたシュート先輩が突っ込みかけるも、
香恋ちゃんが笑顔の圧力で一瞬にして封じる。
…なんというスキル‼
「ごめんね。もう相手決まってるから」
香恋ちゃんのスキルに圧倒されている間に、千晃くんはサクッと断り、
「帰ろ、ここ」
顔を近づけて私をのぞき込むから、
香恋ちゃんが隣で瞬時に般若顔に変貌していて、恐ろし過ぎて目が泳いだ。
「…うん」
早々に退散しようと、急いで席を立つと、
「え~、常盤さん、どうして佐倉先輩と帰るんですかぁ?」
鼻にかかったような香恋ちゃんの声が千晃くんを捕まえる。
「帰る家が一緒だから?」
千晃くんに完璧なスマイルで返されて、香恋ちゃんが絶句した。
いや。帰ろう。
早く。今すぐ。
千晃くんの腕をつかんで、そそくさとデスクを後にすると、
「ええ―――っ‼ なんで⁉ なんで⁉ いつの間にっ⁉」
背後から香恋ちゃんの我を忘れたような大声が追いかけてきた。
「く、…苦しいから。ね、落ち着いて、ねっ、ねっ?」
続いてシュート先輩の情けない声も聞こえ、
なんかもう空恐ろしくて、絶対に振り返るまいと思った。
千晃くんの細くて長い滑らかな指が、
スナップエンドウの筋とりをしている。
その作業自体が一つのパフォーマンスみたいな、
優雅な指の動きに見惚れる。
千晃くんの手にかかると、
エンドウって実は楽器だったっけと思うほど、
何もかもが美しい。
「ここさん? 手止まってるよ? そら豆出来た?」
私はそら豆をさやから出す係ですが、
千晃くんを前にしてそんな作業できるわけありませんな。
仕事帰りに買い物に行ったら、
商店街の八百屋さんの店先に並んでいた旬のエンドウに千晃くんが呼ばれて、
「今日は、豆ちらしにしようか」
そら豆とグリンピースも買って、ちらし寿司を作ることになりました。
千晃くん、料理の腕を上げている。
もともと何でも器用で完璧なんだけど。
調理器具のそろった広くて充実したキッチンで、
神様が作った最高傑作みたいな麗しい男の人と、
並んでお料理する。
もしかして。
こういうのを、至上の幸せっていうんじゃないだろうか。
うっとり見とれてたら、ふいに千晃くんが屈みこんで、
ちゅ。
麗し過ぎる唇が軽く私の頬をかすめた。
「のわっ⁉」
驚いてそら豆を全て床にぶちまけた私を、
「ここ? 早く戻ってきて」
千晃くんが余裕の笑みで見下ろしていた。
イケメンと料理。
刺激が強すぎる…
猛烈に顔が赤くなっている自覚がある。
顔の熱が冷めやらないまま床のそら豆を拾い、そっと千晃くんを見上げた。
千晃くんは。
靴を買ってくれたことも、
豆ちらしを作ってくれたことも、
やっぱり、また、忘れちゃうのかな。
千晃くんが香恋ちゃんに向き直ると、
香恋ちゃんは頬をバラ色に染め、恥じらいながら、
「30周年記念パーティのエスコート、お願いできませんか?」
驚くほどか弱い声で、懇願した。
「ちょ、…か、…っ⁉」
それを向かいの席で聞いていたシュート先輩が突っ込みかけるも、
香恋ちゃんが笑顔の圧力で一瞬にして封じる。
…なんというスキル‼
「ごめんね。もう相手決まってるから」
香恋ちゃんのスキルに圧倒されている間に、千晃くんはサクッと断り、
「帰ろ、ここ」
顔を近づけて私をのぞき込むから、
香恋ちゃんが隣で瞬時に般若顔に変貌していて、恐ろし過ぎて目が泳いだ。
「…うん」
早々に退散しようと、急いで席を立つと、
「え~、常盤さん、どうして佐倉先輩と帰るんですかぁ?」
鼻にかかったような香恋ちゃんの声が千晃くんを捕まえる。
「帰る家が一緒だから?」
千晃くんに完璧なスマイルで返されて、香恋ちゃんが絶句した。
いや。帰ろう。
早く。今すぐ。
千晃くんの腕をつかんで、そそくさとデスクを後にすると、
「ええ―――っ‼ なんで⁉ なんで⁉ いつの間にっ⁉」
背後から香恋ちゃんの我を忘れたような大声が追いかけてきた。
「く、…苦しいから。ね、落ち着いて、ねっ、ねっ?」
続いてシュート先輩の情けない声も聞こえ、
なんかもう空恐ろしくて、絶対に振り返るまいと思った。
千晃くんの細くて長い滑らかな指が、
スナップエンドウの筋とりをしている。
その作業自体が一つのパフォーマンスみたいな、
優雅な指の動きに見惚れる。
千晃くんの手にかかると、
エンドウって実は楽器だったっけと思うほど、
何もかもが美しい。
「ここさん? 手止まってるよ? そら豆出来た?」
私はそら豆をさやから出す係ですが、
千晃くんを前にしてそんな作業できるわけありませんな。
仕事帰りに買い物に行ったら、
商店街の八百屋さんの店先に並んでいた旬のエンドウに千晃くんが呼ばれて、
「今日は、豆ちらしにしようか」
そら豆とグリンピースも買って、ちらし寿司を作ることになりました。
千晃くん、料理の腕を上げている。
もともと何でも器用で完璧なんだけど。
調理器具のそろった広くて充実したキッチンで、
神様が作った最高傑作みたいな麗しい男の人と、
並んでお料理する。
もしかして。
こういうのを、至上の幸せっていうんじゃないだろうか。
うっとり見とれてたら、ふいに千晃くんが屈みこんで、
ちゅ。
麗し過ぎる唇が軽く私の頬をかすめた。
「のわっ⁉」
驚いてそら豆を全て床にぶちまけた私を、
「ここ? 早く戻ってきて」
千晃くんが余裕の笑みで見下ろしていた。
イケメンと料理。
刺激が強すぎる…
猛烈に顔が赤くなっている自覚がある。
顔の熱が冷めやらないまま床のそら豆を拾い、そっと千晃くんを見上げた。
千晃くんは。
靴を買ってくれたことも、
豆ちらしを作ってくれたことも、
やっぱり、また、忘れちゃうのかな。
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