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time.85
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「あのね、私、雅くんより一つ先輩なんだけど。昔から私より何でも出来ちゃうんだよね」
私に、というよりは、独り語りみたいな感じで、
懐かしそうに梨子さんが話し出す。
「一見クールなんだけど面倒見が良くて。優しいから、困ってる人のこと放っておけなくて。雅くんにどれだけ助けられたことか」
早くチーフが見つかればいいのに。
チーフと梨子さんの過去とか。
仲良かったこととか、絆とか。
全然知りたくないのに、…気にせずにはいられない。
意味がないって分かってるのに、…比べずにはいられない。
『優しいから、困ってる人のこと放っておけなくて』
…知ってる。
だから。
私と一緒に居てくれる。
梨子さんの言葉が、そのまま突き刺さって地味にへこんだ。
会場のどこにもチーフの姿が見えなくて、
気のせいじゃなければまりな先輩もいなくて、
なんだかじわじわと嫌な予感がしてきた時。
「…あっ」
梨子さんがすれ違い際、他のお客様にぶつかって、その人が持っていたグラスの飲み物がこぼれた。
「ああ、すみません」
「いっ、いえ。こちらこそ」
お互いに謝り合うも、梨子さんの素敵なドレスには肩口から前身ごろにかけて水シミが広がっている。
近くに居合わせた香恋ちゃんの容赦ないつぶやきが聞こえた。
「なんかぁ、鈍臭くて、年増の佐倉先輩って感じ」
…おい。
でも。もしも。
私が梨子さんに似ているところがあるとしたら。
…それはそれで苦しい。
「…ごめんなさい。ええっと、お名前は…?」
とりあえず梨子さんを女子トイレに伴って、ホテルのフロントでお借りした染み抜き剤を駆使し、ハンカチでできる限りの染み抜きを試みる。
「いえ、全然です。あの、…佐倉です」
「佐倉さん、ありがとう」
梨子さんがふわっと笑った。
花が咲くってこういうのだ。
可愛くて。守ってあげたくなる。
チーフはこういう人が好きなんだ。
曖昧に笑みを返しながら、自己嫌悪にとらわれた。
親切なふりして本当は。
チーフに会ってほしくない。
チーフを乱してほしくない。
って思ってる。…最低。
「あんまり目立たなくなって良かった。本当にありがとう」
ホッとしたような梨子さんと一緒にトイレから出た。
早くチーフに引き渡して、関わるのをやめよう、と密かに決意した。
途端。
「わっ」「きゃあ!」
一瞬にしてホテルの照明が全て消えた。
「なになに⁉」「停電?」
混乱した人々の声が飛び交い、ホテル内が騒然とする中、
え、…
ふいに力強い手に口元を覆われて、抱え上げられた。
あまりにも鮮やかで、
声を上げる隙も抵抗する隙も一切なかった。
私に、というよりは、独り語りみたいな感じで、
懐かしそうに梨子さんが話し出す。
「一見クールなんだけど面倒見が良くて。優しいから、困ってる人のこと放っておけなくて。雅くんにどれだけ助けられたことか」
早くチーフが見つかればいいのに。
チーフと梨子さんの過去とか。
仲良かったこととか、絆とか。
全然知りたくないのに、…気にせずにはいられない。
意味がないって分かってるのに、…比べずにはいられない。
『優しいから、困ってる人のこと放っておけなくて』
…知ってる。
だから。
私と一緒に居てくれる。
梨子さんの言葉が、そのまま突き刺さって地味にへこんだ。
会場のどこにもチーフの姿が見えなくて、
気のせいじゃなければまりな先輩もいなくて、
なんだかじわじわと嫌な予感がしてきた時。
「…あっ」
梨子さんがすれ違い際、他のお客様にぶつかって、その人が持っていたグラスの飲み物がこぼれた。
「ああ、すみません」
「いっ、いえ。こちらこそ」
お互いに謝り合うも、梨子さんの素敵なドレスには肩口から前身ごろにかけて水シミが広がっている。
近くに居合わせた香恋ちゃんの容赦ないつぶやきが聞こえた。
「なんかぁ、鈍臭くて、年増の佐倉先輩って感じ」
…おい。
でも。もしも。
私が梨子さんに似ているところがあるとしたら。
…それはそれで苦しい。
「…ごめんなさい。ええっと、お名前は…?」
とりあえず梨子さんを女子トイレに伴って、ホテルのフロントでお借りした染み抜き剤を駆使し、ハンカチでできる限りの染み抜きを試みる。
「いえ、全然です。あの、…佐倉です」
「佐倉さん、ありがとう」
梨子さんがふわっと笑った。
花が咲くってこういうのだ。
可愛くて。守ってあげたくなる。
チーフはこういう人が好きなんだ。
曖昧に笑みを返しながら、自己嫌悪にとらわれた。
親切なふりして本当は。
チーフに会ってほしくない。
チーフを乱してほしくない。
って思ってる。…最低。
「あんまり目立たなくなって良かった。本当にありがとう」
ホッとしたような梨子さんと一緒にトイレから出た。
早くチーフに引き渡して、関わるのをやめよう、と密かに決意した。
途端。
「わっ」「きゃあ!」
一瞬にしてホテルの照明が全て消えた。
「なになに⁉」「停電?」
混乱した人々の声が飛び交い、ホテル内が騒然とする中、
え、…
ふいに力強い手に口元を覆われて、抱え上げられた。
あまりにも鮮やかで、
声を上げる隙も抵抗する隙も一切なかった。
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