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「んーっ⁉︎」
速やかに運ばれて行く途中、遅ればせながら身体をバタつかせて抵抗を試みようとして、
…力を抜いた。
分かったから。
暗がりの中、軽々と私を持ち上げて運び、事もなげにエレベータに乗り込んで上階へと向かうのは。
「…ごめんな」
心に響く低い声。胸を打つ優しい感触。
落ち着いた匂い。温かい鼓動。
チーフだ。
顔は見えないけど、長い足も硬い胸板も大きな手も。
ずっと一緒に居てくれたらいいのにって思ってた。
高野チーフだ。
照明の消えた薄暗いエレベータが上階に向けて高速で上昇していく。
ごめんって、何が。
やっぱりチーフは。本当は、…
このエレベータは地獄行きなのかな、と思った。
温かくて強くて優しいこの腕は。
全部。幻だったのかな。
泣いたり騒いだりする気持ちは起こらなかった。
ただ、
心が全部、散り散りになって飛んで行くのを感じた。
「ここちゃん。待ってたよ」
最上階でエレベータを降りると、屋上に出られるようになっていた。
屋上に設えられた外階段は、映画のワンシーンに出てくるように幻想的で、
遠くまで広がる街の夜景が一望できた。
照明はなかったけれど、外明かりに照らされて、
人影が誰かであるかの判別は出来る。
私の後ろには、まるで知らない人みたいなチーフが立っていて、
そのチーフに促されて階段を降りると、
夜風にドレスをなびかせた、まりな先輩が待っていた。
「はい、飴あげる」
ガラス張りの柵に寄り掛かるまりな先輩は、空に浮かんでいるみたいに見えた。
マリンブルーのドレスから、なまめかしくのぞく腕を私に差し出す。
手のひらに、赤いキャンディがのっていた。
「最高の舞台を用意したよ。愛しい高野さんに背中を押されて、ここから落ちるの」
夢見るような口調だった。
「…なかなか絶望してくれないから手間かかっちゃったけど、おかげで最高のラストになった」
まりな先輩はいつも通りで、バカな後輩をフォローしている時と同じ、優しい声音のまま微笑んだ。
この期に及んで、「先輩、大好き」って抱き着けたらいいのに、と思っている自分がいて、愚かすぎて笑えた。
何味かわからない、赤いキャンディを見つめる。
いつも。私を励ましてくれたキャンディ。
私を助けて、私に勇気をくれた、まりな先輩のキャンディ。
「全部、…先輩だったんですか?」
私の口元を覆っていた高野チーフの大きな手が離れて、
絞り出した声はか細く震えていた。
私にとっては、ただの飴玉じゃなくて。
希望、そのものだったのに。
「そうだよ。ここちゃん、簡単すぎて、…楽しかったよ?」
キャンディは、毒入りでした。
赤い毒リンゴを食べた白雪姫は、永遠の眠りにつきました。
「私、セキュリティ破るの、得意なの。知らなかったでしょ? 興味ないもんね」
そんな場合じゃないのに、
少しだけ、まりな先輩が寂しそうに見えた。
速やかに運ばれて行く途中、遅ればせながら身体をバタつかせて抵抗を試みようとして、
…力を抜いた。
分かったから。
暗がりの中、軽々と私を持ち上げて運び、事もなげにエレベータに乗り込んで上階へと向かうのは。
「…ごめんな」
心に響く低い声。胸を打つ優しい感触。
落ち着いた匂い。温かい鼓動。
チーフだ。
顔は見えないけど、長い足も硬い胸板も大きな手も。
ずっと一緒に居てくれたらいいのにって思ってた。
高野チーフだ。
照明の消えた薄暗いエレベータが上階に向けて高速で上昇していく。
ごめんって、何が。
やっぱりチーフは。本当は、…
このエレベータは地獄行きなのかな、と思った。
温かくて強くて優しいこの腕は。
全部。幻だったのかな。
泣いたり騒いだりする気持ちは起こらなかった。
ただ、
心が全部、散り散りになって飛んで行くのを感じた。
「ここちゃん。待ってたよ」
最上階でエレベータを降りると、屋上に出られるようになっていた。
屋上に設えられた外階段は、映画のワンシーンに出てくるように幻想的で、
遠くまで広がる街の夜景が一望できた。
照明はなかったけれど、外明かりに照らされて、
人影が誰かであるかの判別は出来る。
私の後ろには、まるで知らない人みたいなチーフが立っていて、
そのチーフに促されて階段を降りると、
夜風にドレスをなびかせた、まりな先輩が待っていた。
「はい、飴あげる」
ガラス張りの柵に寄り掛かるまりな先輩は、空に浮かんでいるみたいに見えた。
マリンブルーのドレスから、なまめかしくのぞく腕を私に差し出す。
手のひらに、赤いキャンディがのっていた。
「最高の舞台を用意したよ。愛しい高野さんに背中を押されて、ここから落ちるの」
夢見るような口調だった。
「…なかなか絶望してくれないから手間かかっちゃったけど、おかげで最高のラストになった」
まりな先輩はいつも通りで、バカな後輩をフォローしている時と同じ、優しい声音のまま微笑んだ。
この期に及んで、「先輩、大好き」って抱き着けたらいいのに、と思っている自分がいて、愚かすぎて笑えた。
何味かわからない、赤いキャンディを見つめる。
いつも。私を励ましてくれたキャンディ。
私を助けて、私に勇気をくれた、まりな先輩のキャンディ。
「全部、…先輩だったんですか?」
私の口元を覆っていた高野チーフの大きな手が離れて、
絞り出した声はか細く震えていた。
私にとっては、ただの飴玉じゃなくて。
希望、そのものだったのに。
「そうだよ。ここちゃん、簡単すぎて、…楽しかったよ?」
キャンディは、毒入りでした。
赤い毒リンゴを食べた白雪姫は、永遠の眠りにつきました。
「私、セキュリティ破るの、得意なの。知らなかったでしょ? 興味ないもんね」
そんな場合じゃないのに、
少しだけ、まりな先輩が寂しそうに見えた。
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