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「でもね、私はほんの少し、手を貸しただけなの。
社用車の番号、会議室への出入り、ロッカーの合い鍵。
ヒントをあげたら、後は彼らが勝手にやった。
ここちゃん、恨まれてるんだよ。
けなげに頑張ってる子なんて、みんな嫌いなんだよ」
まりな先輩が微笑みを消して、
キャンディを握りしめた手を柵の向こうに伸ばした。
広げた手のひらから、小さな塊が深い夜の闇に落ちていく。
希望は、跡形もなく、あまりにも簡単に消えていった。
最初からそんなもの、どこにもなかったかのように。
「でも。だからって、…」
そりゃあ会社の皆さんには迷惑かけてばかりで、疎まれているのは知っていたけど。
そんなに。
そんなに。許せないことしたかな。
「いらないものは、処分しなきゃね」
まりな先輩がまるで悪びれた様子もなく、淡々と言い放った。
何を言っても話が通じない気がした。
おしゃれで、可愛くて、優しくて、
大人で、仕事が出来て、気配り上手。
大好きだったまりな先輩はどこにもいない。
でも、確かに。
先輩に救われたこともたくさんあった。
それは嘘じゃなかったのに。
「チーフ、…」
チーフは何も言わずに、支えるように私の背後に立っている。
後ろから私の身体に腕を回しているのは、多分私が逃げないように。
「ごめんね? ここちゃんが恋した高野さんは、私のことが好きなの」
優しく抱きしめてくれたこの腕も。
心から安心して目を閉じた腕も。
この腕があれば何もいらないと思ったことも。
『何があっても、お前の味方でいてやる』
全部。嘘じゃなかったのに。
チーフは否定しなかった。
何も言ってくれなかった。
ただ。
私の身体に回した腕に、ほんの少しだけ力が入った。
「下で、…梨子さんが、待ってます」
声がかすれた。
喉の奥に声が貼りついて、上手く息が出来なくて、
精一杯振り絞った声は、かすかで弱弱しかった。
他に言うべきことも、聞きたいことも、沢山あったはずなのに。
よりにもよって、そんなことしか出てこないなんて。
最後に伝えるのが、そんなことになるなんて。
やっぱり私は、バカなんだな。
「お前、…」
チーフの低い声は、聞こえないほど小さく、無機質に響いたけれど、
腕にまた、さっきよりも強く力がこもった。
「ここっ‼」
静寂を破って、屋上に千晃くんの声がこだました。
チーフにがっちり押さえられていて、振り返ろうとしても背後が見えない。
「早くっ」
焦ったように顔を歪めたまりな先輩の声と、
「高野さんっ‼ ここは高いところが、…」
息を切らせて近づいてくる千晃くんの声と、
複数の足音が聞こえたのと、
ほぼ同時に。
「常盤っ‼ 後は頼む‼」
チーフが私を抱き上げて、空に飛んだ。
ガラスの柵を軽々と乗り越えて。
深い夜の闇に包まれた空へ。
眼下一面に広がる宝石を散りばめたような街明かりの中へ。
耳元で風がうなって、平衡感覚がなくなって、
目も開けられなくて、悲鳴すらまともに上げられなかった。
風圧で自分の身体がバラバラに砕け散った気がした。
私の身体に回されたチーフの力強い腕だけが命綱で、
押しつぶされそうなほど強く強く抱きしめられていた。
そこに愛があるかのように。
社用車の番号、会議室への出入り、ロッカーの合い鍵。
ヒントをあげたら、後は彼らが勝手にやった。
ここちゃん、恨まれてるんだよ。
けなげに頑張ってる子なんて、みんな嫌いなんだよ」
まりな先輩が微笑みを消して、
キャンディを握りしめた手を柵の向こうに伸ばした。
広げた手のひらから、小さな塊が深い夜の闇に落ちていく。
希望は、跡形もなく、あまりにも簡単に消えていった。
最初からそんなもの、どこにもなかったかのように。
「でも。だからって、…」
そりゃあ会社の皆さんには迷惑かけてばかりで、疎まれているのは知っていたけど。
そんなに。
そんなに。許せないことしたかな。
「いらないものは、処分しなきゃね」
まりな先輩がまるで悪びれた様子もなく、淡々と言い放った。
何を言っても話が通じない気がした。
おしゃれで、可愛くて、優しくて、
大人で、仕事が出来て、気配り上手。
大好きだったまりな先輩はどこにもいない。
でも、確かに。
先輩に救われたこともたくさんあった。
それは嘘じゃなかったのに。
「チーフ、…」
チーフは何も言わずに、支えるように私の背後に立っている。
後ろから私の身体に腕を回しているのは、多分私が逃げないように。
「ごめんね? ここちゃんが恋した高野さんは、私のことが好きなの」
優しく抱きしめてくれたこの腕も。
心から安心して目を閉じた腕も。
この腕があれば何もいらないと思ったことも。
『何があっても、お前の味方でいてやる』
全部。嘘じゃなかったのに。
チーフは否定しなかった。
何も言ってくれなかった。
ただ。
私の身体に回した腕に、ほんの少しだけ力が入った。
「下で、…梨子さんが、待ってます」
声がかすれた。
喉の奥に声が貼りついて、上手く息が出来なくて、
精一杯振り絞った声は、かすかで弱弱しかった。
他に言うべきことも、聞きたいことも、沢山あったはずなのに。
よりにもよって、そんなことしか出てこないなんて。
最後に伝えるのが、そんなことになるなんて。
やっぱり私は、バカなんだな。
「お前、…」
チーフの低い声は、聞こえないほど小さく、無機質に響いたけれど、
腕にまた、さっきよりも強く力がこもった。
「ここっ‼」
静寂を破って、屋上に千晃くんの声がこだました。
チーフにがっちり押さえられていて、振り返ろうとしても背後が見えない。
「早くっ」
焦ったように顔を歪めたまりな先輩の声と、
「高野さんっ‼ ここは高いところが、…」
息を切らせて近づいてくる千晃くんの声と、
複数の足音が聞こえたのと、
ほぼ同時に。
「常盤っ‼ 後は頼む‼」
チーフが私を抱き上げて、空に飛んだ。
ガラスの柵を軽々と乗り越えて。
深い夜の闇に包まれた空へ。
眼下一面に広がる宝石を散りばめたような街明かりの中へ。
耳元で風がうなって、平衡感覚がなくなって、
目も開けられなくて、悲鳴すらまともに上げられなかった。
風圧で自分の身体がバラバラに砕け散った気がした。
私の身体に回されたチーフの力強い腕だけが命綱で、
押しつぶされそうなほど強く強く抱きしめられていた。
そこに愛があるかのように。
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