96 / 106
time.95
しおりを挟む
あの事故の時、横転した車の中で、
『俺の、…ここ』
千晃くんは私を探して、私を見つけてくれた。
あの時、千晃くんは、
本当に本当に、私を見つけてくれていたんだ。
「常盤さんの脳には、確かに損傷が見られましたが、彼はそれを補って余りある能力を持っています。彼の脳は非常に特殊で、…言ってみれば、人知の域を超えています」
榊医師は穏やかに、でもとても力強く語ってくれた。
「人間の脳には未だ解明できていないことが多くありますが、私は、近い将来、彼が解明してくれるんじゃないかと思っています。現在、記憶障害に特効薬はありません。でも、彼は自分の手で、自身の記憶障害を克服するのではないでしょうか」
カラン、…
ランチドリンクのアイスティーに浮かんだ氷が音を立てて溶ける。
「我々の思いもよらない方法で」
榊医師が内緒話をするように声を潜めた。
「例えば、時空を超える、とか」
榊医師の柔和な笑顔の向こうに、千晃くんの面影が見える。
「ここさん。あなたを見つけるために」
『もしもいつか、時間を超えられる未来が来たら、…』
千晃くんの甘くて優しい声が聞こえる。
『…逢いにいく』
千晃くん。
千晃くんがくれた約束は。
あの夜の満天の星のように。
いつでも私を明るく照らしてくれる。
「彼はきっと、新しい未来を切り開いてくれるんじゃないかと、私はとても楽しみにしているんですよ」
和やかな笑顔と希望の欠片を残して、榊医師はカフェレストランから帰っていった。
遠ざかる背中を見送って、会社に戻る途中、
「…なんか俺、かぐや姫の爺さんになった気分なんだけど」
チーフがぽつりとつぶやいた。
「え?」
爺さん??
意味が分からなくて、隣を歩く長身のチーフを見上げると、
「なんでもねえよ」
頭をつかまれて、前に向き直らされた。
抜けるような青空。人で溢れる昼時のオフィス街。
きれいに整備された街路樹から降り注ぐ木漏れ日。
「…返してやるよ、お前が望むなら」
どんな時も、何があっても、私を受け止めてくれる。私の味方でいてくれる。
強くて優しくて、いつの間にかこんなにも大切でかけがえのない存在になっていた高野チーフ。
何の自虐か分からないけど、少し拗ねた口調でぶつぶつ言っているチーフが、なんだか可愛く見えて、
「…え? 爺さん? 爺さん⁇」
無駄に爺さんを繰り返していたら、
「…うるせえ」
きめ細かく整ったチーフの顔が急に目の前に迫って、
ちゅ。
ほのかなアイスティの香りとともに、チーフの柔らかくて甘い唇が優しく私に触れた。
な、…
触れた唇から顔中に熱が広がって、手足の先まであっという間に伝染して、
その場に固まって明らかに通行の邪魔になっている私を、
「…いいだろ、少しくらい。俺、爺さんなんだから」
チーフの長い腕がかばうように引き寄せて、先を促した。
なんか危険な爺さんがいる、…
『俺の、…ここ』
千晃くんは私を探して、私を見つけてくれた。
あの時、千晃くんは、
本当に本当に、私を見つけてくれていたんだ。
「常盤さんの脳には、確かに損傷が見られましたが、彼はそれを補って余りある能力を持っています。彼の脳は非常に特殊で、…言ってみれば、人知の域を超えています」
榊医師は穏やかに、でもとても力強く語ってくれた。
「人間の脳には未だ解明できていないことが多くありますが、私は、近い将来、彼が解明してくれるんじゃないかと思っています。現在、記憶障害に特効薬はありません。でも、彼は自分の手で、自身の記憶障害を克服するのではないでしょうか」
カラン、…
ランチドリンクのアイスティーに浮かんだ氷が音を立てて溶ける。
「我々の思いもよらない方法で」
榊医師が内緒話をするように声を潜めた。
「例えば、時空を超える、とか」
榊医師の柔和な笑顔の向こうに、千晃くんの面影が見える。
「ここさん。あなたを見つけるために」
『もしもいつか、時間を超えられる未来が来たら、…』
千晃くんの甘くて優しい声が聞こえる。
『…逢いにいく』
千晃くん。
千晃くんがくれた約束は。
あの夜の満天の星のように。
いつでも私を明るく照らしてくれる。
「彼はきっと、新しい未来を切り開いてくれるんじゃないかと、私はとても楽しみにしているんですよ」
和やかな笑顔と希望の欠片を残して、榊医師はカフェレストランから帰っていった。
遠ざかる背中を見送って、会社に戻る途中、
「…なんか俺、かぐや姫の爺さんになった気分なんだけど」
チーフがぽつりとつぶやいた。
「え?」
爺さん??
意味が分からなくて、隣を歩く長身のチーフを見上げると、
「なんでもねえよ」
頭をつかまれて、前に向き直らされた。
抜けるような青空。人で溢れる昼時のオフィス街。
きれいに整備された街路樹から降り注ぐ木漏れ日。
「…返してやるよ、お前が望むなら」
どんな時も、何があっても、私を受け止めてくれる。私の味方でいてくれる。
強くて優しくて、いつの間にかこんなにも大切でかけがえのない存在になっていた高野チーフ。
何の自虐か分からないけど、少し拗ねた口調でぶつぶつ言っているチーフが、なんだか可愛く見えて、
「…え? 爺さん? 爺さん⁇」
無駄に爺さんを繰り返していたら、
「…うるせえ」
きめ細かく整ったチーフの顔が急に目の前に迫って、
ちゅ。
ほのかなアイスティの香りとともに、チーフの柔らかくて甘い唇が優しく私に触れた。
な、…
触れた唇から顔中に熱が広がって、手足の先まであっという間に伝染して、
その場に固まって明らかに通行の邪魔になっている私を、
「…いいだろ、少しくらい。俺、爺さんなんだから」
チーフの長い腕がかばうように引き寄せて、先を促した。
なんか危険な爺さんがいる、…
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。
星乃和花
恋愛
【完結済:全8話】
ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて)
村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう!
問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。
半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!?
周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。
守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる