Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

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研究室前の通路に出て、水道で雑巾をゆすぐ。

和泉さんに救っていただいた身で何言ってんだって話だけど、
研究室内では身の置き所がない。

大事な研究の情報を外部に流した裏切り者であるばかりか、
ただでさえ多忙な和泉さんをもっと過酷な忙しさにした挙句、
技術開発には全く使えない無能な事務社員で、
研究室に居ても何の役にも立たない。

和泉さんは私に手伝いを命じてくれたけど、
私に手伝えることなんか、本当は何にもない。

…消えたい。

『近づくな』って言われたんだから近づいちゃダメだったのに、
和泉さんと麻雪さんの特別な関係を否が応でも目にすることになり、

…あおくん。

初恋はとっくに終わってるんだということを嫌ってほど思い知らされる。

…いや。
泣く資格なんてない。

ため息をついてバケツを手にすると、

「のいちゃん」

音もなく背後に立っていた男の人から声をかけられて、驚いて飛び上がりそうになった。

「なっ、…は、…はい、何でしょうか」

思わず後ろに後ずさるけれど洗面台にぶつかってそれ以上下がれない。

「のいちゃん、和泉の用はもう終わったんでしょ? 僕のことも手伝ってくれない?」

「谷口」というネームプレートを付けている男性研究員が一歩前に進み出る。
…近い。
下がりたいのに下がれなくて、必要以上に上体を引いてしまう。

「…はあ」

研究室の皆さんにはご迷惑をかけているわけで。断れないけど。
無性に断りたい気分になってしまうのはなぜでしょう。

「良かった。じゃあちょっと来て」

谷口さんに腕をつかまれて結構な力で引っ張られる。

身体中に得も言われぬ嫌悪感が走り、つかまれた手を振り払いたくなったけど懸命に堪えた。

落としたバケツが転がるのが目の端に映る。

すっかり暗くなった研究所の通路を常夜灯が照らす。
強い力で引きずられて転ばないように付いて行くのが精いっぱいだった。

「おとなしく…、しててっ」

男性トイレの個室に乱暴に投げ入れられて、口の中に綿みたいなものを大量に押し込まれた。

通路の角を曲がった時に身の危険を感じて振りほどこうとしたけど、ものすごい力で拘束されて全力の抵抗も悲鳴も簡単に押さえ込まれた。

「ちょっと触るだけだからっ、ねっ」

恐怖で膝が震えてまともに立っていられない私の両腕をやすやすと拘束すると、谷口さんは馬乗りになって片手でブラウスのボタンを外そうとする。

「のいちゃんもっ、僕らの役に立ちたいでしょっ?」

はあはあ言う荒い鼻息が顔にかかって生理的な嫌悪感で涙が溢れる。

…私、ゴミかな。
何の役にも立たなくて、迷惑かけてばっかりで。

胸元にざらりとした手の感触がして、吐き気が込み上げてきた。

こんなとこでこんなやつに好きなようにされて。
…ゴミなのかな。

必死で首を振り顔を背けて上に乗っている人を押しのけようとするのにびくとも動かない。

ゴミ。だとしても…

あおくん。

心まで照らし出す不思議な瞳の色。
幼い私の髪を撫でる滑らかな手。
優しく触れた唇のぬくもり。

あおくん!

『呼ぶな』って言われたけど。
だけど。

他には何も思い浮かばなかった。
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