Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

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「ちょっと、ちょっと―――っ、何、手つなぎ出勤してるの―――!?」
「初恋は無残に散ったんじゃないんか――い!」

お昼休み。
社食で声を張り上げるミオちゃんとサリちゃんの口を慌ててふさぐ。

和泉さんは若き天才エンジニアで私生活は謎に包まれてるんだから。
まとめた資料の中にそう書いてあったんだから。

社食で聞かれたんじゃ午後には会社中の人に知れ渡ってしまう。

「いやさ、もう既に噂の的だよ」
「あの和泉王子がサルを連れて出社したって」
「実験にサルを使うのかって」

…サルじゃないし。

憤然として中華丼を頬張る。…美味しい。きくらげ最高。

「いいじゃん、いいじゃん。初恋の逆襲」
「人間とサルの逆転生活。これがホントの『猿の惑星』」

面白がってるよね。絶対面白がってるよね。

盛り上がっているミオちゃんとサリちゃんをじっとり眺める。

「まあ、年上美人妻はともかく、子どもは気になるところだけど」

サリちゃんが周りを見回しながら声のトーンを最大限に落とす。

「でも、小学生って、…相当若くしてパパになったって事じゃん」

ミオちゃんも周囲をうかがいながらこそっと囁く。

「それか、…相手の連れ子か」

…なんと。そんな発想があったのか。

和泉さんと璃乙くん、似ているような気がするけどな。

「まあ、頑張って! 猿の惑星」
「次の成果報告を期待してるぞ」

ミオちゃんとサリちゃんが代わる代わる私の背中をばっしばし叩いて去って行く。

…痛いし。サルじゃないし。



『離したくない』

って、言ったよね。

社食から研究所への移動中、和泉さんの声がよみがえる。

憂いを帯びた眼差し。寂し気な微笑み。
繋いだ手のぬくもり。自嘲気味な言葉。

会えなかった十何年かの間に、和泉さんに何があったんだろう。
眩しかったあおくんの笑顔を曇らせたのは何なんだろう。

研究室に入ろうとすると、内側からドアが開いて出てきた人とぶつかりそうになってしまった。

「…わっ」
「あ、悪い」

出てきたのは和泉さんで、すごく急いでいるようだった。

「家に戻ることになった。お前、今日は広報に行ってろ」

言い終わると、振り返らずに小走りで行ってしまった。
その後姿を見えなくなるまで眺めていた。

麻雪さんに何かあったのかな。
璃乙くん大丈夫って言ってたけど、大丈夫じゃなかったのかな。

心配する気持ちは嘘じゃないのに、心に風穴があいたみたいにスースーする。

『あんなに慌ててるイズミくん、初めて見た』

それは、麻雪さんが知らないだけだと思う。
麻雪さんに何かあったら、それこそ矢も楯もたまらず飛んでいくんだろう。

自分の手のひらを広げて見た。

そもそも始めから、どこにもつながっていない。
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