上 下
28 / 124

blue.27

しおりを挟む
これって、今ぶつかった人のかなぁ。

そっと指で挟んで手のひらにのせてみる。
この小さなキーホルダーのようなものの中にどんな大事な情報が入っているのか。

落とした人、きっと困ってるよね。
ぶつかった男の人が立ち去った方を探してみるけれど、それらしい人影は見えない。

どうしよう。
取りに戻ってくるかなぁ。

USBメモリを手のひらに握りしめたまま、会社のエントランス付近をうろうろすること数十分。

通り過ぎる人たちの視線が痛い。

受付は閉まってるし、総務課に相談かなぁ。

どうするべきか決めかねて、我ながら不審な動きをとっていると、

「のいちゃん? どうしたの?」

儚くて優しい、包み込むような声が聞こえた。

「麻雪さん。大丈夫なんですか?」

振り返ると、麻雪さんが立っていて、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。

「うん。もう全然平気。たまにひどい時があるの。女の子って損よね」

うふふ、と人好きのする笑顔で、柔らかく話してくれる。
この人を悲しませるようなことをしてはいけない、と強く思う。

「気になることがあって研究室に行くんだけど。のいちゃん、何か、困りごと?」
「あ、…USBメモリを、…」
「え、…!?」

麻雪さんの表情が一瞬険しくなった。

「いや、あの、拾ったんですけど。…これ」

なんでか言い訳がましく手のひらにのせたUSBメモリを差し出した。

麻雪さんは少し困ったような顔をしてメモリを受け取ると、

「のいちゃん、ちょっと研究室まで来てもらってもいい?」
「あ、…はい」

連れ立って、研究室まで歩く。
どうしてだろう。
麻雪さんはすごく優しいのに、なんだか不吉な予感がする。

和泉さんの研究室には、まだほとんどの人が残っていた。
やっぱりみんな忙しそうに働いていたけれど、麻雪さんが現れると一気に和やかな雰囲気になった。

「すぐに終わるから」

麻雪さんは自身のデスクでパソコンを立ち上げ、何やらUSBメモリのチェックを始めた。
和泉さんの研究室に居るんだもん、麻雪さんは研究者としても優秀なんだよね…。

「ウイルスとか、大丈夫なんですか?」

USBってむやみにパソコンに差しちゃいけないんじゃなかったっけ。
私には初歩的な知識も疑わしい。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄をしたいそうですが、却下します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:40

きみの騎士

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:46

瞬間、青く燃ゆ

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:103

田楽屋のぶの店先日記〜殿ちびちゃん参るの巻〜

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:203

【連載】異世界でのんびり食堂経営

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:46

処理中です...