29 / 124
blue.28
しおりを挟む
「うん。今、チェックしたから大丈夫。…それで」
麻雪さんはその瞳をかげらせて言いにくそうに私を見た。
「これ、イズミくんの今の研究データ、よね」
「え、…!」
麻雪さんのパソコンの画面を後ろからのぞきこむと、数式とアルファベットとグラフがずらりと並んでいて、もはや何が何だか分からない。
空間図形?…なのか?
「このことはイズミくんには黙っておくわね」
「はあ、…」
「のいちゃんは、もうここには来ない方がいいと思う」
は?
麻雪さんの言っていることがよく理解できなくて、バカみたいに突っ立ったまま麻雪さんを見つめた。
「きっとイズミくん、すごく悲しむから…」
麻雪さんが悲しそうな顔をしているけれど、何がどうなったのかイマイチわからない。
「えっと、それはどういう、…?」
「大丈夫。イズミくんにはうまく言っておくわ」
なんかいつの間にか研究室から追い出されかけていて、そこでふと、過去にこの場所で憎悪の眼差しを向けられたことを思い出した。
「あ、…!」
『その休んでるっていう助手が出てこなきゃそいつじゃねえの』
奏くんの声がよみがえる。
「助手の人…!」
「…横尾くん? しばらく休むって連絡あったみたいだけど」
さっきぶつかったの、その横尾さんて助手の人だ…!
「その人です! そのUSBメモリ、多分その人の、…」
「…うん。分かったわ」
麻雪さんが悲し気な微笑みを浮かべて、そっと研究室のドアを閉めた。
あれ? …なんか追い出された?
閉じられたドアを眺めるも、何の音沙汰もない。
えーっと、つまりどういうことだ。
休んでる助手の横尾さんが、和泉さんの研究データを持って走って出て行った。その人は過去に情報流出した疑いがあって、…
「え!? また和泉さんのデータを持ち逃げしようとしたってこと!?」
つい声が大きくなってしまって自分で自分の口を押さえた。
許せんな、横尾。一度ならずか二度までも。
和泉さんがどんだけ迷惑被っていると思ってるんだ!
ふつふつと怒りが込み上げてきたけれど、
問題のUSBメモリ、落としてったんじゃん。
と思って、ちょっと笑えた。
せっかく忍び込んでもデータがなきゃ意味がない。
詰めが甘いっていうか。…愚か。
なんて。笑っていられたのはその時だけだった。
麻雪さんはその瞳をかげらせて言いにくそうに私を見た。
「これ、イズミくんの今の研究データ、よね」
「え、…!」
麻雪さんのパソコンの画面を後ろからのぞきこむと、数式とアルファベットとグラフがずらりと並んでいて、もはや何が何だか分からない。
空間図形?…なのか?
「このことはイズミくんには黙っておくわね」
「はあ、…」
「のいちゃんは、もうここには来ない方がいいと思う」
は?
麻雪さんの言っていることがよく理解できなくて、バカみたいに突っ立ったまま麻雪さんを見つめた。
「きっとイズミくん、すごく悲しむから…」
麻雪さんが悲しそうな顔をしているけれど、何がどうなったのかイマイチわからない。
「えっと、それはどういう、…?」
「大丈夫。イズミくんにはうまく言っておくわ」
なんかいつの間にか研究室から追い出されかけていて、そこでふと、過去にこの場所で憎悪の眼差しを向けられたことを思い出した。
「あ、…!」
『その休んでるっていう助手が出てこなきゃそいつじゃねえの』
奏くんの声がよみがえる。
「助手の人…!」
「…横尾くん? しばらく休むって連絡あったみたいだけど」
さっきぶつかったの、その横尾さんて助手の人だ…!
「その人です! そのUSBメモリ、多分その人の、…」
「…うん。分かったわ」
麻雪さんが悲し気な微笑みを浮かべて、そっと研究室のドアを閉めた。
あれ? …なんか追い出された?
閉じられたドアを眺めるも、何の音沙汰もない。
えーっと、つまりどういうことだ。
休んでる助手の横尾さんが、和泉さんの研究データを持って走って出て行った。その人は過去に情報流出した疑いがあって、…
「え!? また和泉さんのデータを持ち逃げしようとしたってこと!?」
つい声が大きくなってしまって自分で自分の口を押さえた。
許せんな、横尾。一度ならずか二度までも。
和泉さんがどんだけ迷惑被っていると思ってるんだ!
ふつふつと怒りが込み上げてきたけれど、
問題のUSBメモリ、落としてったんじゃん。
と思って、ちょっと笑えた。
せっかく忍び込んでもデータがなきゃ意味がない。
詰めが甘いっていうか。…愚か。
なんて。笑っていられたのはその時だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる