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blue.64
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麻雪さんは、ブルーレインの事故があった日、危険を承知で実験に参加していた。璃乙くんは最初から実験対象の子どもだったのだ。
「璃乙くん…」
『おサルはもっとしっかりした方がいいよ』
聡明な瞳。冷静な振る舞い。
大人びた小学生は、そうならざるを得なかった…
「璃乙のことは俺も気になってて、…引き取ることも考えてる」
和泉さんの瞳が翳る。
麻雪さんは、事故に関わった人間を見張る目的で、和泉さんのそばにいるうちに、本気で和泉さんを好きになってしまい、…
和泉さんを某国軍事組織が抹殺対象にしないよう必死で情報を操作していた。
「お前を傷つけて危険にさらした。本当にすまない。お前がICレコーダーを持っていてくれて良かったよ」
ICレコーダーには通話機能もあり、奏くんのスマートフォンとつながっていた。
私が車の中で強くつかんだために何かのスイッチが入り、音声がリアルタイムで送信されて、気付いた秋くんが通報してくれた。
警察庁勤務の武邑さんが事件性を主張して犯人確保の緊急配備をしてくれて、銀行で、あの逮捕劇となった。
麻雪さんはICレコーダーに記録されていた会話から仲間と認定され、任意同行したという。
降り積もったばかりの真っ白な雪のような儚い聖女は、
子どもも実験に参加させてしまうような諜報員だったけど、
和泉さんを見つめる信頼と愛慕に満ちた瞳は、嘘じゃなかったんだな…
麻雪さんの柔らかい声。璃乙くんの理知的な瞳。
顔を隠した男性2人組のざらついた物言い。
高速道路から見えた空。車窓を流れる景色。
ずっと握りしめていた奏くんのハンカチ。
いろいろなものが頭の中を巡っては消えていった。
優しく触れる和泉さんの体温。
熱い唇。甘い吐息。
耳に近づいては遠ざかる低く落ち着いた話し声。
目を開けると、加湿器や医療機器の電子音が時折聞こえるだけの静かな病室で、白い天井が映った。
少し眠っていたようだ。
病院はすっかり夜の闇に包まれ、ずっと付いていてくれた和泉さんも帰ったらしく誰もいなかった。
起き上がると点滴の管に引っ張られたが、左腕の痛みはほぼ感じなくなっていた。
点滴台を引きずりながらベッドから出る。
窓辺まで歩き、カーテンの隙間から外を眺めた。
常夜灯に照らされた中庭と灰色の空に浮かんだ朧げな月が見える。
奏くん。
この建物のどこかで眠っている奏くんに思いをはせた。
真実を突き止めてくれてありがとう。
和泉さんを自由にしてくれてありがとう。
私を守ってくれてありがとう。
私。
奏くんに伝えたいことがたくさんあるよ。
目を閉じると、
奏くんの瞳に映る満天の星空が私を照らしてくれた。
それから。
美形な結城医師の的確な処置で私の左腕はみるみる元通りになり、
「明日退院できるな」
と言われた日の午後、病室に秋くんが来てくれて、
「奏くん、容態が安定して回復に向かってるって」
届けてくれた朗報に心の底から安堵して、涙がにじんだ。
「璃乙くん…」
『おサルはもっとしっかりした方がいいよ』
聡明な瞳。冷静な振る舞い。
大人びた小学生は、そうならざるを得なかった…
「璃乙のことは俺も気になってて、…引き取ることも考えてる」
和泉さんの瞳が翳る。
麻雪さんは、事故に関わった人間を見張る目的で、和泉さんのそばにいるうちに、本気で和泉さんを好きになってしまい、…
和泉さんを某国軍事組織が抹殺対象にしないよう必死で情報を操作していた。
「お前を傷つけて危険にさらした。本当にすまない。お前がICレコーダーを持っていてくれて良かったよ」
ICレコーダーには通話機能もあり、奏くんのスマートフォンとつながっていた。
私が車の中で強くつかんだために何かのスイッチが入り、音声がリアルタイムで送信されて、気付いた秋くんが通報してくれた。
警察庁勤務の武邑さんが事件性を主張して犯人確保の緊急配備をしてくれて、銀行で、あの逮捕劇となった。
麻雪さんはICレコーダーに記録されていた会話から仲間と認定され、任意同行したという。
降り積もったばかりの真っ白な雪のような儚い聖女は、
子どもも実験に参加させてしまうような諜報員だったけど、
和泉さんを見つめる信頼と愛慕に満ちた瞳は、嘘じゃなかったんだな…
麻雪さんの柔らかい声。璃乙くんの理知的な瞳。
顔を隠した男性2人組のざらついた物言い。
高速道路から見えた空。車窓を流れる景色。
ずっと握りしめていた奏くんのハンカチ。
いろいろなものが頭の中を巡っては消えていった。
優しく触れる和泉さんの体温。
熱い唇。甘い吐息。
耳に近づいては遠ざかる低く落ち着いた話し声。
目を開けると、加湿器や医療機器の電子音が時折聞こえるだけの静かな病室で、白い天井が映った。
少し眠っていたようだ。
病院はすっかり夜の闇に包まれ、ずっと付いていてくれた和泉さんも帰ったらしく誰もいなかった。
起き上がると点滴の管に引っ張られたが、左腕の痛みはほぼ感じなくなっていた。
点滴台を引きずりながらベッドから出る。
窓辺まで歩き、カーテンの隙間から外を眺めた。
常夜灯に照らされた中庭と灰色の空に浮かんだ朧げな月が見える。
奏くん。
この建物のどこかで眠っている奏くんに思いをはせた。
真実を突き止めてくれてありがとう。
和泉さんを自由にしてくれてありがとう。
私を守ってくれてありがとう。
私。
奏くんに伝えたいことがたくさんあるよ。
目を閉じると、
奏くんの瞳に映る満天の星空が私を照らしてくれた。
それから。
美形な結城医師の的確な処置で私の左腕はみるみる元通りになり、
「明日退院できるな」
と言われた日の午後、病室に秋くんが来てくれて、
「奏くん、容態が安定して回復に向かってるって」
届けてくれた朗報に心の底から安堵して、涙がにじんだ。
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