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blue.89
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…出ない。
会社を出て、エントランス前の通路から、奏くんに電話してみた。
なんか緊張するから、めちゃめちゃそうっとタップしていた "俺" へのコールなんだけど、何度押しても奏くんにつながらない。
だんだん高速タップになっていったんだけど、タップの速さと繋がり具合はまるで関係ないらしく、やっぱり全然つながらない。
このところずっと一緒にいたせいか、奏くんの声が聞こえないと不安になる。
『長かったな』
奏くんに再会した日、ここで待っていてくれて、誰も気づかなかった私の捻った足首に湿布を貼ってくれた。
ふいに思い出して、どうしようもなく愛しさが込み上げる。
奏くん。大好き。早く帰って来て。
そのまま帰る気にはなれなくて、ウィンエンターテイメントに行ってみることにした。勝手に行ったら怒られるかもしれないけど、奏くんにつながらないし。
混み合った電車を降りて、ウィンエンターテイメント最寄り駅の改札を出たところで、スマートフォンが震えた。
慌ててつかんでとりあえず出る。
「奏くん!?」
でも、聞こえてきたのは大好きな甘く震える声じゃなくて、
「…ごめん、武邑です。何度かけても奏につながらなくて」
よく見たら画面は『武邑さん』になっていた。
…やっぱりつながらないんだ。
漠然としていた不安と焦りが色濃くなって急速に全身を覆いつくす。
「あの、武邑さん。奏くん、今日ウィンエンターテイメントに行ったんです。私も今から行ってみようと思います」
「うん。俺も今から行くよ。エントランスで待ち合わせよう」
武邑さんが来てくれることになってホッとして通話を切った。
正直、一人で行っても絶対中に入れてもらえない。
株式会社ウィンエンターテイメントは、都心にスタイリッシュにそびえたつ地上12階地下2階の高層ビル内にあり、セキュリティ対策のため当然のことながら、部外者は簡単に入れてもらえない。
特に今、某国軍事組織の研究開発に協力していたとして、世間を騒がせている場所であり、警備が厳しくなっている。
そんな中を、
「お疲れ様です」
手帳一つで警備員に敬礼させ、さらっとくぐり抜けられるとは、さすが警察庁エリート。武邑さんの恩恵にあずかり、どさくさに紛れてビル内への潜入に成功した。
「本日の面会者記録、見せてもらえませんか」
受付はとっくに閉まっていたけれど、警備員さんが保管している記録簿を持ってきてくれた。
記録をたどる武邑さんの後ろからのぞき込んでみる。
ずらりと並んだ組織名と個人名の記録の中で、
『15:45 入室 ロンドン新聞社 青井奏 他1名 16:55 退出』
目は奏くんの名前にだけ反応する。
…退出?
武邑さんも同じことを思ったらしく、一瞬だけ視線をさまよわせたけれど、何も言わずに警備員さんに記録簿を返却し、
「確認だけしたら、すぐ戻りますから」
それとなく私を呼び寄せて、ビルの中へと足を踏み入れた。
夜の10時を過ぎると、ビル内の照明もだいぶ落とされている。
残って仕事をしている人も少ないのか、すれ違う人もいない。
武邑さんは慣れた様子で地下へと続く階段を降りながら、私に小声で囁いた。
「奏のスマホにもアプリを入れてる。…奏は絶対ここにいる」
見上げた横顔は緊迫していて、急激に全身が緊張と恐怖に満ちた。
見えない何かが、地下にある…。
会社を出て、エントランス前の通路から、奏くんに電話してみた。
なんか緊張するから、めちゃめちゃそうっとタップしていた "俺" へのコールなんだけど、何度押しても奏くんにつながらない。
だんだん高速タップになっていったんだけど、タップの速さと繋がり具合はまるで関係ないらしく、やっぱり全然つながらない。
このところずっと一緒にいたせいか、奏くんの声が聞こえないと不安になる。
『長かったな』
奏くんに再会した日、ここで待っていてくれて、誰も気づかなかった私の捻った足首に湿布を貼ってくれた。
ふいに思い出して、どうしようもなく愛しさが込み上げる。
奏くん。大好き。早く帰って来て。
そのまま帰る気にはなれなくて、ウィンエンターテイメントに行ってみることにした。勝手に行ったら怒られるかもしれないけど、奏くんにつながらないし。
混み合った電車を降りて、ウィンエンターテイメント最寄り駅の改札を出たところで、スマートフォンが震えた。
慌ててつかんでとりあえず出る。
「奏くん!?」
でも、聞こえてきたのは大好きな甘く震える声じゃなくて、
「…ごめん、武邑です。何度かけても奏につながらなくて」
よく見たら画面は『武邑さん』になっていた。
…やっぱりつながらないんだ。
漠然としていた不安と焦りが色濃くなって急速に全身を覆いつくす。
「あの、武邑さん。奏くん、今日ウィンエンターテイメントに行ったんです。私も今から行ってみようと思います」
「うん。俺も今から行くよ。エントランスで待ち合わせよう」
武邑さんが来てくれることになってホッとして通話を切った。
正直、一人で行っても絶対中に入れてもらえない。
株式会社ウィンエンターテイメントは、都心にスタイリッシュにそびえたつ地上12階地下2階の高層ビル内にあり、セキュリティ対策のため当然のことながら、部外者は簡単に入れてもらえない。
特に今、某国軍事組織の研究開発に協力していたとして、世間を騒がせている場所であり、警備が厳しくなっている。
そんな中を、
「お疲れ様です」
手帳一つで警備員に敬礼させ、さらっとくぐり抜けられるとは、さすが警察庁エリート。武邑さんの恩恵にあずかり、どさくさに紛れてビル内への潜入に成功した。
「本日の面会者記録、見せてもらえませんか」
受付はとっくに閉まっていたけれど、警備員さんが保管している記録簿を持ってきてくれた。
記録をたどる武邑さんの後ろからのぞき込んでみる。
ずらりと並んだ組織名と個人名の記録の中で、
『15:45 入室 ロンドン新聞社 青井奏 他1名 16:55 退出』
目は奏くんの名前にだけ反応する。
…退出?
武邑さんも同じことを思ったらしく、一瞬だけ視線をさまよわせたけれど、何も言わずに警備員さんに記録簿を返却し、
「確認だけしたら、すぐ戻りますから」
それとなく私を呼び寄せて、ビルの中へと足を踏み入れた。
夜の10時を過ぎると、ビル内の照明もだいぶ落とされている。
残って仕事をしている人も少ないのか、すれ違う人もいない。
武邑さんは慣れた様子で地下へと続く階段を降りながら、私に小声で囁いた。
「奏のスマホにもアプリを入れてる。…奏は絶対ここにいる」
見上げた横顔は緊迫していて、急激に全身が緊張と恐怖に満ちた。
見えない何かが、地下にある…。
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