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blue.92
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「危ないですから、下がってください」
倒壊したビルの瓦礫を撤去し救助作業を続けるために重機が次々と運び込まれていく。
いつの間にか日付が変わり、現場を照らす眩しい照明に霧雨が浮かび上がっている。降り始めた雨のおかげで立ち込めていた煙が少しマシになっていた。
ビルから少し離れたお店のテントの下から作業現場を眺めた。
無力な自分が悔しかった。
いつも。どんな時でも。
奏くんは助けてくれるのに。
あの瓦礫の下に奏くんが居るなら、一番に捜しに行きたいのに。
時間が遅かったこともあり、ビルの中に残っていた人はほとんどいなかったのではないか、と警備員さんと避難した会社の人が話しているのが聞こえた。
行方が分からない人がいないか懸命に確認しているようだった。
面会記録簿で、奏くんは「退出」になっていた。
だけど。
『奏のスマホにもアプリを入れてる。…奏は絶対ここにいる』
祈るような気持ちで "俺” に電話をしても、一向につながらない。
「日野原社長がいらっしゃっるはずです! 地下です‼ 地下施設に‼」
黒いスーツ姿の男の人が、規制を振り払って雨の中を飛んできた。
「お姿が見当たらないんです! 探してください、お願いします‼」
作業中の消防隊員にしがみつくのが見える。
「…捜索しています。危ないので離れてお待ちください」
スーツ姿の男の人は消防隊員から離れるとふらふらと後ずさり、私の近くに座り込んだ。
「…地下には、誰もいませんでしたよ?」
声をかけてみると、男の人はこちらを見もしないまま、吐き捨てるように言った。
「当たり前だ。誰も入れないからな。ここの地下にホテル張りの豪華な施設があることはトップシークレットなんだ」
…トップシークレット、漏らしてますよー。
動揺して警戒心が解けているっぽい男の人に、ちょっと突っ込んでみることにした。
「私、日野原社長の姪で、のい子って言います。今日、特別に地下を見せてくれるって約束だったのに、こんなことになって。…地下には何があったんですか」
頭を抱えていた男の人が、うさんくさそうに顔を上げた。
雨に濡れた整髪剤が光る中年のいかにも秘書って感じの顔だった。
「…のい子?」
引っかかるの、そこ⁉
「…そう言えば、大学生の姪がいるとか。誕生日に高価な宝飾品をねだられるとか言ってたな」
わー、姪御ちゃんたら。のい子、ジュエリー皆無なのに。
いかにもな中年秘書(推定)が私を二度見してからつぶやいた。
「豚に真珠ならぬ、サルに小判、…」
おいっ。「猫」だから! ってそうでなく。
「失礼。日野原社長の秘書、東堂平也です。社長から地下施設のことを教えられていた、と?」
中年秘書(確定)東堂さんが今更ながら、周りを気にして声のトーンを下げた。
「プールとか、ビリヤードとかあるから、遊びに来ていいよって」
さっき聞いたばかりの「ホテル張りの豪華な施設」から思いついたことを挙げる。
「さすが姪御さん。よく知っていますね。ある程度のレジャー設備とスイートルーム並みの個室。そして、…実験室があるんですよ」
東堂さんは少し含みを持たせて口の端を上げ、
「何の実験かは教えられませんが、…我が社の利益の98%はそこから得られています」
ちょっと自慢げに言い放った。
いやだから、某国の軍事開発研究してたってさんざん報道されてるやん!
「どうやって入るんですか。私、さっきおじ様と会えなくて、一人で行ってみたんですけど、薄暗い倉庫みたいなのしかなかったですよ?」
「社長室から直通のエレベータ、もしくはVRの壁を破るしか、…あ、でも。五星ホテルと、地下でつながっているという話を聞いたような…」
東堂秘書、大事な情報持ってるじゃん‼︎
「早くっ、それ消防の人に言って! 五星から捜索に行けるかもっ」
急いで秘書を消防隊員のところまで引っ張って行った。
倒壊したビルの瓦礫を撤去し救助作業を続けるために重機が次々と運び込まれていく。
いつの間にか日付が変わり、現場を照らす眩しい照明に霧雨が浮かび上がっている。降り始めた雨のおかげで立ち込めていた煙が少しマシになっていた。
ビルから少し離れたお店のテントの下から作業現場を眺めた。
無力な自分が悔しかった。
いつも。どんな時でも。
奏くんは助けてくれるのに。
あの瓦礫の下に奏くんが居るなら、一番に捜しに行きたいのに。
時間が遅かったこともあり、ビルの中に残っていた人はほとんどいなかったのではないか、と警備員さんと避難した会社の人が話しているのが聞こえた。
行方が分からない人がいないか懸命に確認しているようだった。
面会記録簿で、奏くんは「退出」になっていた。
だけど。
『奏のスマホにもアプリを入れてる。…奏は絶対ここにいる』
祈るような気持ちで "俺” に電話をしても、一向につながらない。
「日野原社長がいらっしゃっるはずです! 地下です‼ 地下施設に‼」
黒いスーツ姿の男の人が、規制を振り払って雨の中を飛んできた。
「お姿が見当たらないんです! 探してください、お願いします‼」
作業中の消防隊員にしがみつくのが見える。
「…捜索しています。危ないので離れてお待ちください」
スーツ姿の男の人は消防隊員から離れるとふらふらと後ずさり、私の近くに座り込んだ。
「…地下には、誰もいませんでしたよ?」
声をかけてみると、男の人はこちらを見もしないまま、吐き捨てるように言った。
「当たり前だ。誰も入れないからな。ここの地下にホテル張りの豪華な施設があることはトップシークレットなんだ」
…トップシークレット、漏らしてますよー。
動揺して警戒心が解けているっぽい男の人に、ちょっと突っ込んでみることにした。
「私、日野原社長の姪で、のい子って言います。今日、特別に地下を見せてくれるって約束だったのに、こんなことになって。…地下には何があったんですか」
頭を抱えていた男の人が、うさんくさそうに顔を上げた。
雨に濡れた整髪剤が光る中年のいかにも秘書って感じの顔だった。
「…のい子?」
引っかかるの、そこ⁉
「…そう言えば、大学生の姪がいるとか。誕生日に高価な宝飾品をねだられるとか言ってたな」
わー、姪御ちゃんたら。のい子、ジュエリー皆無なのに。
いかにもな中年秘書(推定)が私を二度見してからつぶやいた。
「豚に真珠ならぬ、サルに小判、…」
おいっ。「猫」だから! ってそうでなく。
「失礼。日野原社長の秘書、東堂平也です。社長から地下施設のことを教えられていた、と?」
中年秘書(確定)東堂さんが今更ながら、周りを気にして声のトーンを下げた。
「プールとか、ビリヤードとかあるから、遊びに来ていいよって」
さっき聞いたばかりの「ホテル張りの豪華な施設」から思いついたことを挙げる。
「さすが姪御さん。よく知っていますね。ある程度のレジャー設備とスイートルーム並みの個室。そして、…実験室があるんですよ」
東堂さんは少し含みを持たせて口の端を上げ、
「何の実験かは教えられませんが、…我が社の利益の98%はそこから得られています」
ちょっと自慢げに言い放った。
いやだから、某国の軍事開発研究してたってさんざん報道されてるやん!
「どうやって入るんですか。私、さっきおじ様と会えなくて、一人で行ってみたんですけど、薄暗い倉庫みたいなのしかなかったですよ?」
「社長室から直通のエレベータ、もしくはVRの壁を破るしか、…あ、でも。五星ホテルと、地下でつながっているという話を聞いたような…」
東堂秘書、大事な情報持ってるじゃん‼︎
「早くっ、それ消防の人に言って! 五星から捜索に行けるかもっ」
急いで秘書を消防隊員のところまで引っ張って行った。
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