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「おはよう、のいちゃん」
人懐っこい笑みを浮かべて、キッチンから奏くんのお母さんが出てきた。
「おはようございますっ」
お母さんから美味しそうな匂いがして、挨拶と同時にお腹が鳴った。
「ミートパイがあるわよ、はい」
お母さんがにこにこしながらパイを食べさせようとしてくれたので、大口を開けると、
「餌やり禁止」
奏くんがフォークごと取り上げて、私の口の中に押し込んだ。
「俺だけ」
おいしい~~~っ!
やっぱり、お母さん、お料理上手。
絶妙のタイミングで奏くんがおかわりも入れてくれる。…うましっ
「もう、奏ったらヤキモチ焼きなんだから」
お母さんが唇を尖らせてから、
「まあ、仕方ないわね。小さい頃からの夢だから」
奏くんを見て朗らかに笑った。
夢?
「……」
奏くんを見上げると、なんか目を逸らされた。
その隙にお母さんが音もなくそばに寄ってきて、こそっと耳打ちする。
「将来の夢を聞かれて、この子ったら、のいを幸せにす、…」
「stop!」
奏くんが片腕を私の頭に回して、強引に引きずりながら歩き始めた。
「出かけてくるから」
「行ってらっしゃーい」
お母さんが、あらバレちゃった、みたいな顔をして、可愛らしく手を振りながら見送ってくれた。
庭に出ると、やたら浮かれたアメリアの声が聞こえてきた。
「アオ~、アミィの気持ちそのものの情熱の赤い薔薇を捧げるから、一緒にローズティを飲みましょう~~~」
「…あ、…うん。ありがとう」
見ると、庭に咲いたバラを摘んできたらしいアメリアと和泉さん、喜四郎おじいちゃんの姿があった。
「奏、出かけるのか」
うなずく奏くんを穏やかに眺めるおじいちゃんを見たら、ずっと気になってたことが浮かんで、
「あのっ、おじいちゃん‼︎ ごめんね。爵位持ってなくて。…バナナしかなくて」
おじいちゃんの深い皺の向こうに見える双眸に頭を下げた。
おじいちゃんはちょっと驚いたみたいに沈黙してから、
「それより価値がありそうなものを、わしは昨日見たぞ、ノンキー」
いたずらに瞳を緩めた。
昨日? バナナの早食い?
「おじいちゃんのためなら早食いくらいいくらでも、…っ」
おじいちゃんの手を取って分かり合おうとしていたら、奏くんにはたかれた。
「おい、…またあれやったら絶縁だからな」
絶縁―――っ⁉︎
ショックで顎が外れかけた私を置いて、奏くんが長い脚でさっさと先に行ってしまう。
ちょっと、奏くん?
一生は? ずっとそばにいろ、は?
長さの違いを噛み締めながら奏くんを追いかけると、
「大丈夫じゃよ、ノンキー。奏の幸せ以上に価値のあるものなんてないからの」
後ろからおじいちゃんの優しい声が聞こえてきた。
人懐っこい笑みを浮かべて、キッチンから奏くんのお母さんが出てきた。
「おはようございますっ」
お母さんから美味しそうな匂いがして、挨拶と同時にお腹が鳴った。
「ミートパイがあるわよ、はい」
お母さんがにこにこしながらパイを食べさせようとしてくれたので、大口を開けると、
「餌やり禁止」
奏くんがフォークごと取り上げて、私の口の中に押し込んだ。
「俺だけ」
おいしい~~~っ!
やっぱり、お母さん、お料理上手。
絶妙のタイミングで奏くんがおかわりも入れてくれる。…うましっ
「もう、奏ったらヤキモチ焼きなんだから」
お母さんが唇を尖らせてから、
「まあ、仕方ないわね。小さい頃からの夢だから」
奏くんを見て朗らかに笑った。
夢?
「……」
奏くんを見上げると、なんか目を逸らされた。
その隙にお母さんが音もなくそばに寄ってきて、こそっと耳打ちする。
「将来の夢を聞かれて、この子ったら、のいを幸せにす、…」
「stop!」
奏くんが片腕を私の頭に回して、強引に引きずりながら歩き始めた。
「出かけてくるから」
「行ってらっしゃーい」
お母さんが、あらバレちゃった、みたいな顔をして、可愛らしく手を振りながら見送ってくれた。
庭に出ると、やたら浮かれたアメリアの声が聞こえてきた。
「アオ~、アミィの気持ちそのものの情熱の赤い薔薇を捧げるから、一緒にローズティを飲みましょう~~~」
「…あ、…うん。ありがとう」
見ると、庭に咲いたバラを摘んできたらしいアメリアと和泉さん、喜四郎おじいちゃんの姿があった。
「奏、出かけるのか」
うなずく奏くんを穏やかに眺めるおじいちゃんを見たら、ずっと気になってたことが浮かんで、
「あのっ、おじいちゃん‼︎ ごめんね。爵位持ってなくて。…バナナしかなくて」
おじいちゃんの深い皺の向こうに見える双眸に頭を下げた。
おじいちゃんはちょっと驚いたみたいに沈黙してから、
「それより価値がありそうなものを、わしは昨日見たぞ、ノンキー」
いたずらに瞳を緩めた。
昨日? バナナの早食い?
「おじいちゃんのためなら早食いくらいいくらでも、…っ」
おじいちゃんの手を取って分かり合おうとしていたら、奏くんにはたかれた。
「おい、…またあれやったら絶縁だからな」
絶縁―――っ⁉︎
ショックで顎が外れかけた私を置いて、奏くんが長い脚でさっさと先に行ってしまう。
ちょっと、奏くん?
一生は? ずっとそばにいろ、は?
長さの違いを噛み締めながら奏くんを追いかけると、
「大丈夫じゃよ、ノンキー。奏の幸せ以上に価値のあるものなんてないからの」
後ろからおじいちゃんの優しい声が聞こえてきた。
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