44 / 75
Ⅱ.有輝
14.
しおりを挟む
政さんの家に、慎弥さんが昔使っていたという、古いギターがあり、頼んだら快く貸してくれた。
母親の影響でピアノは少しばかり弾けるが、ギターは兄貴が持っていたのを借りて遊んだ程度だ。
眠れない夜に、たいして弾けもしないギターを海辺で鳴らした。
世界中でたった一人みたいなこの場所では、何も取り繕わずに、自分を見つめることができた。
真夜中2時少し前は、絶え間なく後悔が襲ってくる。
ギターを鳴らしながら、海に向かって懺悔した。
澄川円香を、殺したのは俺だ。
あの時、もっと早く、気づくべきだった。
でもあの頃の俺は、日々をやり過ごすことに精いっぱいで、周りはおろか、目の前にいる人もまるで見えていなかった。
誘われれば、誰にでも応じたし、全てがどうでもよかった。
今なら。
円香が言っていたことがわかる気がする。
『好きな人だと、全然違う。
これって、幸せなことだったんだね。
もう、絶対に無理』
円香は中学の先輩だった。
妙に色気みたいなのがあって、誰とでも寝るって噂されていた。
だから円香が俺を誘ってきても、何の疑問も抱かなかった。
俺と同じ、気晴らしだと思っていた。
でもあれはSOSで、円香は俺なんかに助けを求めていたんだ。
俺は、興味もなく、足早に通り過ぎただけだったのに、円香はそれを大事に抱えて沈んでいった。
あの暗く濁った冷たいプールから、引き上げてやることも出来なかった。
どうせなら。
俺が沈めば良かったのに。
後悔に囚われると、身動きできない。
ギターを鳴らす指が震える。
握りしめて、もう感じることも許されないあかりの温もりを想った。
天使は、俺の懺悔を聴いてくれるだろうか。
その危険な考えは、一瞬にして俺を捕らえた。
慌てて頭を振る。
それでも。
一度芽生えた考えを、振り落とすことは出来なかった。
次の日、夜の海で、ずっと切っていたスマートフォンの電源を入れた。
時刻表示がAM1:43になる。
脳に焼き付いている番号を指でたどった。
でも、通話ボタンは押せなかった。
AM1:43。
それは澄川円香が逝った時間で、俺が死にたくなる時間だ。
『さみしい』
あの暗いプールの底で、俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺が逝くべきだった。
でもきっと、俺が死んだら、母親は俺を許さないだろう。
『有輝には有輝の、正義があるのよ。有輝は、優しい子だから』
母親は最後まで俺の味方をしてくれた。
『母さん。俺、絶対優勝するから。待ってて』
もう病状は末期で、それでも俺の大会を楽しみにしてくれていた。
母親の影響でピアノは少しばかり弾けるが、ギターは兄貴が持っていたのを借りて遊んだ程度だ。
眠れない夜に、たいして弾けもしないギターを海辺で鳴らした。
世界中でたった一人みたいなこの場所では、何も取り繕わずに、自分を見つめることができた。
真夜中2時少し前は、絶え間なく後悔が襲ってくる。
ギターを鳴らしながら、海に向かって懺悔した。
澄川円香を、殺したのは俺だ。
あの時、もっと早く、気づくべきだった。
でもあの頃の俺は、日々をやり過ごすことに精いっぱいで、周りはおろか、目の前にいる人もまるで見えていなかった。
誘われれば、誰にでも応じたし、全てがどうでもよかった。
今なら。
円香が言っていたことがわかる気がする。
『好きな人だと、全然違う。
これって、幸せなことだったんだね。
もう、絶対に無理』
円香は中学の先輩だった。
妙に色気みたいなのがあって、誰とでも寝るって噂されていた。
だから円香が俺を誘ってきても、何の疑問も抱かなかった。
俺と同じ、気晴らしだと思っていた。
でもあれはSOSで、円香は俺なんかに助けを求めていたんだ。
俺は、興味もなく、足早に通り過ぎただけだったのに、円香はそれを大事に抱えて沈んでいった。
あの暗く濁った冷たいプールから、引き上げてやることも出来なかった。
どうせなら。
俺が沈めば良かったのに。
後悔に囚われると、身動きできない。
ギターを鳴らす指が震える。
握りしめて、もう感じることも許されないあかりの温もりを想った。
天使は、俺の懺悔を聴いてくれるだろうか。
その危険な考えは、一瞬にして俺を捕らえた。
慌てて頭を振る。
それでも。
一度芽生えた考えを、振り落とすことは出来なかった。
次の日、夜の海で、ずっと切っていたスマートフォンの電源を入れた。
時刻表示がAM1:43になる。
脳に焼き付いている番号を指でたどった。
でも、通話ボタンは押せなかった。
AM1:43。
それは澄川円香が逝った時間で、俺が死にたくなる時間だ。
『さみしい』
あの暗いプールの底で、俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺が逝くべきだった。
でもきっと、俺が死んだら、母親は俺を許さないだろう。
『有輝には有輝の、正義があるのよ。有輝は、優しい子だから』
母親は最後まで俺の味方をしてくれた。
『母さん。俺、絶対優勝するから。待ってて』
もう病状は末期で、それでも俺の大会を楽しみにしてくれていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる