17 / 41
3章.困惑マインド
03.
しおりを挟む
「…創くん」
学校の最寄り駅に着いて、電車に乗って、私の自宅マンションの前に着くまで、創くんは手を離さなかった。途中、パスモを出したり改札を通ったりするために手が離れると、創くんは私を待って、私をつかまえた。
創くんは何か言いたそうに見えたけど、結局、「今日は調理部、何も作らなかったの?」「うん。勉強見てただけだよ」とか何とか、当たり障りのない話だけで家の前に着いてしまい、
「送ってくれて、ありが、…」
何とも言えない気持ちのまま手を引き取ろうとしたら、
「…告白」
創くんがつないだ手に力を込めた。
見上げると、創くんの頭上に高く月が昇っているのが見えた。
「返事、していい?」
「…え」
万年優しいありがとうで振られ続けてきたオンナに告白の返事、って。
創くん。今更何を。
「…付き合うか?」
通り過ぎる車の排気音がして、夜が揺れる。街灯に飛び込んだ虫の羽音が耳にさざめく。
「つぼみ。俺と付き合って」
怖いくらい真剣な創くんの表情に動けなくなる。
言葉は届いているし、意味も分かるけど、頭が追い付かない。
付き合う? 付き合って?
アホ面をさらして創くんを見上げていたら、創くんが優しい笑みを作った。
私がすごく好きだった垂れた目じりが優しく緩んで、ふっくらとした唇が近づいて、さらりとした黒髪がかすかに鼻をくすぐって、
創くんが私の唇に触れた。
そのまま動けずに、息を止めて固まっていたら、創くんの大きな手が頭にのって優しく撫でた。
「返事は、…あ」
創くんが言いかけて、何かに気づいたように私の後ろに目を向けたので、つられて振り返ると、
「おかえり。ななせ」
暗がりの中を歩いて帰ってきたらしいななせが立っていた。
ななせ―――――っっ‼
え。いつから? 見られた⁇
動揺して心臓がポルカのリズムを刻み始めたのに、ななせは全く普通だった。
「こんばんは、創くん」
ななせの柔らかい髪が夜風にふわりと舞い上がる。
ななせの少し掠れた声が耳に甘く溶けていく。
胸が締め付けられる。夜に浮かぶななせが綺麗で涙が出る。
「ななせ、お前、活躍すごいな。ドームライブやるんだって」
創くんがななせに穏やかに語りかける。
慌てて離した手が。創くんの大きな手に再び包み込まれた。
何だかものすごく落ち着かない気分でななせを見るも、
「ああ、…」
ななせはまるでいつも通りで、カバンからチケットを取り出すと、
「はい。良かったら一緒に観に来て」
創くんに差し出した。
「ありがとう。つぼみと行くよ」
創くんが笑顔で受け取って、ななせは創くんに軽く会釈すると、「じゃあね」マンションに入っていった。
その後ろ姿を見たら、どうしてか胸が痛くて泣きそうになった。
すごく普通。ものすごく普通。果てしなく普通。
昨日私とあんなことしたのに。
ななせの声が。温もりが熱が。
細胞の一つ一つに刻み込まれて離れないのに。
「つぼみ、昨日は差し入れありがとう」
創くんに言われて慌てて姿勢を戻した。
ななせを見過ぎた。…かもしれない。
「美味しかったよ。切り干し大根が入ってて驚いたけど」
創くんは不自然な私の動きを気に留めたようでもなく、笑顔のままお弁当箱を返してくれた。
「あ、…うん。サークルで切り干し大根のアレンジ料理が課題なの。次は、…」
『…コロッケより春巻きのが合うんじゃね』
春巻きにしてみようと思んだけど、作ったらまた食べてね。って。
創くんに伝えて、あわよくばまた部屋を訪ねる口実にしようと思っていたのに。
どうしてか、言葉が続かなかった。
「…何にアレンジしようかって相談してるとこなんだ」
「そうか。良かったらまた食べさせて」
「…うん」
創くんは私の頭に手をのせると、髪に指を絡めて、
「今度の休み、デートしようか」
目じりに優しい笑みを刻んで、額に小さく口づけると、
「おやすみ、つぼみ」
ゆっくりと、きた道を戻っていった。
学校の最寄り駅に着いて、電車に乗って、私の自宅マンションの前に着くまで、創くんは手を離さなかった。途中、パスモを出したり改札を通ったりするために手が離れると、創くんは私を待って、私をつかまえた。
創くんは何か言いたそうに見えたけど、結局、「今日は調理部、何も作らなかったの?」「うん。勉強見てただけだよ」とか何とか、当たり障りのない話だけで家の前に着いてしまい、
「送ってくれて、ありが、…」
何とも言えない気持ちのまま手を引き取ろうとしたら、
「…告白」
創くんがつないだ手に力を込めた。
見上げると、創くんの頭上に高く月が昇っているのが見えた。
「返事、していい?」
「…え」
万年優しいありがとうで振られ続けてきたオンナに告白の返事、って。
創くん。今更何を。
「…付き合うか?」
通り過ぎる車の排気音がして、夜が揺れる。街灯に飛び込んだ虫の羽音が耳にさざめく。
「つぼみ。俺と付き合って」
怖いくらい真剣な創くんの表情に動けなくなる。
言葉は届いているし、意味も分かるけど、頭が追い付かない。
付き合う? 付き合って?
アホ面をさらして創くんを見上げていたら、創くんが優しい笑みを作った。
私がすごく好きだった垂れた目じりが優しく緩んで、ふっくらとした唇が近づいて、さらりとした黒髪がかすかに鼻をくすぐって、
創くんが私の唇に触れた。
そのまま動けずに、息を止めて固まっていたら、創くんの大きな手が頭にのって優しく撫でた。
「返事は、…あ」
創くんが言いかけて、何かに気づいたように私の後ろに目を向けたので、つられて振り返ると、
「おかえり。ななせ」
暗がりの中を歩いて帰ってきたらしいななせが立っていた。
ななせ―――――っっ‼
え。いつから? 見られた⁇
動揺して心臓がポルカのリズムを刻み始めたのに、ななせは全く普通だった。
「こんばんは、創くん」
ななせの柔らかい髪が夜風にふわりと舞い上がる。
ななせの少し掠れた声が耳に甘く溶けていく。
胸が締め付けられる。夜に浮かぶななせが綺麗で涙が出る。
「ななせ、お前、活躍すごいな。ドームライブやるんだって」
創くんがななせに穏やかに語りかける。
慌てて離した手が。創くんの大きな手に再び包み込まれた。
何だかものすごく落ち着かない気分でななせを見るも、
「ああ、…」
ななせはまるでいつも通りで、カバンからチケットを取り出すと、
「はい。良かったら一緒に観に来て」
創くんに差し出した。
「ありがとう。つぼみと行くよ」
創くんが笑顔で受け取って、ななせは創くんに軽く会釈すると、「じゃあね」マンションに入っていった。
その後ろ姿を見たら、どうしてか胸が痛くて泣きそうになった。
すごく普通。ものすごく普通。果てしなく普通。
昨日私とあんなことしたのに。
ななせの声が。温もりが熱が。
細胞の一つ一つに刻み込まれて離れないのに。
「つぼみ、昨日は差し入れありがとう」
創くんに言われて慌てて姿勢を戻した。
ななせを見過ぎた。…かもしれない。
「美味しかったよ。切り干し大根が入ってて驚いたけど」
創くんは不自然な私の動きを気に留めたようでもなく、笑顔のままお弁当箱を返してくれた。
「あ、…うん。サークルで切り干し大根のアレンジ料理が課題なの。次は、…」
『…コロッケより春巻きのが合うんじゃね』
春巻きにしてみようと思んだけど、作ったらまた食べてね。って。
創くんに伝えて、あわよくばまた部屋を訪ねる口実にしようと思っていたのに。
どうしてか、言葉が続かなかった。
「…何にアレンジしようかって相談してるとこなんだ」
「そうか。良かったらまた食べさせて」
「…うん」
創くんは私の頭に手をのせると、髪に指を絡めて、
「今度の休み、デートしようか」
目じりに優しい笑みを刻んで、額に小さく口づけると、
「おやすみ、つぼみ」
ゆっくりと、きた道を戻っていった。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました
上日月
恋愛
人情と江戸の風情が残る下町のたい焼き屋「小濱堂」の看板娘・小濱鈴子(こはまりんこ)。
ひょうきんな父と共に毎日美味しいたい焼きをつくりながら、しっかり者の5歳の弟・湊(みなと)になるべく母の不在を感じさせないよう、どんなときも明るい笑顔だけは絶やさずにいた。
実はその可愛らしい顔立ちから、弟が生まれる前まで"こはりん"と呼ばれる、そこそこ有名なキッズモデルだった鈴子。
でも、それは下町唯一の大衆演劇場だった、今はなき「柳生座」の御曹司。のちに日本の映画界を担う二枚目スターとなった、柳生拓真(やないたくま)の存在が大きく関係していた。
演技の道に進むことを選んだ湊の付き添い人として、一生関わらないと決めていた場所へもう一度戻ることになった鈴子。
そして、いきなり天才子役の片鱗を見せた湊は大役を掴み取る!!
ただ、その父親を演じるのが、後味の悪い別れをした元カレ・拓真だとは聞いてないっ!?
可愛い弟の夢を守るため「顔良し!欲なし?元気なし?」な天才俳優のお世話まで引き受ける羽目になる。
小濱 鈴子(こはま りんこ)30歳
たい焼き屋の看板娘
×
柳生 拓真(やない たくま)30歳
天才俳優
cupid👼
小濱 湊(こはま みなと)5歳
天才子役
※エブリスタ・ベリーズカフェにも掲載しています。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
「四半世紀の恋に、今夜決着を」
星井 悠里
ライト文芸
赤ちゃんからの幼馴染との初恋が、ずっと、心の端っこにある。
高校三年のある時から離れて、もうすぐ25歳なのに。
そんな時、同窓会の知らせが届いた。
吹っ切らなきゃ。
同窓会は三か月後。
私史上、いちばん綺麗になって、けじめをつけよう。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる