さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

remo

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3章.困惑マインド

03.

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「…創くん」

学校の最寄り駅に着いて、電車に乗って、私の自宅マンションの前に着くまで、創くんは手を離さなかった。途中、パスモを出したり改札を通ったりするために手が離れると、創くんは私を待って、私をつかまえた。

創くんは何か言いたそうに見えたけど、結局、「今日は調理部、何も作らなかったの?」「うん。勉強見てただけだよ」とか何とか、当たり障りのない話だけで家の前に着いてしまい、

「送ってくれて、ありが、…」

何とも言えない気持ちのまま手を引き取ろうとしたら、

「…告白」

創くんがつないだ手に力を込めた。
見上げると、創くんの頭上に高く月が昇っているのが見えた。

「返事、していい?」
「…え」

万年優しいありがとうで振られ続けてきたオンナに告白の返事、って。
創くん。今更何を。

「…付き合うか?」

通り過ぎる車の排気音がして、夜が揺れる。街灯に飛び込んだ虫の羽音が耳にさざめく。

「つぼみ。俺と付き合って」

怖いくらい真剣な創くんの表情に動けなくなる。
言葉は届いているし、意味も分かるけど、頭が追い付かない。

付き合う? 付き合って?

アホ面をさらして創くんを見上げていたら、創くんが優しい笑みを作った。
私がすごく好きだった垂れた目じりが優しく緩んで、ふっくらとした唇が近づいて、さらりとした黒髪がかすかに鼻をくすぐって、

創くんが私の唇に触れた。

そのまま動けずに、息を止めて固まっていたら、創くんの大きな手が頭にのって優しく撫でた。

「返事は、…あ」

創くんが言いかけて、何かに気づいたように私の後ろに目を向けたので、つられて振り返ると、

「おかえり。ななせ」

暗がりの中を歩いて帰ってきたらしいななせが立っていた。


ななせ―――――っっ‼
え。いつから? 見られた⁇

動揺して心臓がポルカのリズムを刻み始めたのに、ななせは全く普通だった。

「こんばんは、創くん」

ななせの柔らかい髪が夜風にふわりと舞い上がる。
ななせの少し掠れた声が耳に甘く溶けていく。

胸が締め付けられる。夜に浮かぶななせが綺麗で涙が出る。

「ななせ、お前、活躍すごいな。ドームライブやるんだって」

創くんがななせに穏やかに語りかける。
慌てて離した手が。創くんの大きな手に再び包み込まれた。

何だかものすごく落ち着かない気分でななせを見るも、

「ああ、…」

ななせはまるでいつも通りで、カバンからチケットを取り出すと、

「はい。良かったら一緒に観に来て」

創くんに差し出した。

「ありがとう。つぼみと行くよ」

創くんが笑顔で受け取って、ななせは創くんに軽く会釈すると、「じゃあね」マンションに入っていった。

その後ろ姿を見たら、どうしてか胸が痛くて泣きそうになった。

すごく普通。ものすごく普通。果てしなく普通。
昨日私とあんなことしたのに。

ななせの声が。温もりが熱が。
細胞の一つ一つに刻み込まれて離れないのに。

「つぼみ、昨日は差し入れありがとう」

創くんに言われて慌てて姿勢を戻した。
ななせを見過ぎた。…かもしれない。

「美味しかったよ。切り干し大根が入ってて驚いたけど」

創くんは不自然な私の動きを気に留めたようでもなく、笑顔のままお弁当箱を返してくれた。

「あ、…うん。サークルで切り干し大根のアレンジ料理が課題なの。次は、…」

『…コロッケより春巻きのが合うんじゃね』

春巻きにしてみようと思んだけど、作ったらまた食べてね。って。
創くんに伝えて、あわよくばまた部屋を訪ねる口実にしようと思っていたのに。

どうしてか、言葉が続かなかった。

「…何にアレンジしようかって相談してるとこなんだ」
「そうか。良かったらまた食べさせて」
「…うん」

創くんは私の頭に手をのせると、髪に指を絡めて、

「今度の休み、デートしようか」

目じりに優しい笑みを刻んで、額に小さく口づけると、

「おやすみ、つぼみ」

ゆっくりと、きた道を戻っていった。
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