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4章.唯一ロンギング
01.
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日曜日は朝から上天気だった。
待ち合わせの駅に早めに行ったのに、もう創くんが来ていた。私を待っている創くんを見たら、何だか胸がいっぱいになって、しばらく声をかけられずに眺めてしまった。
高校生の時に、校外学習でテーマパークに行ったことがある。
創くんは引率の先生の一人で、一緒に被り物をしたり、アトラクションに乗ったり、写真を撮ったり、食べ歩いたりしたけれど、あくまで教師と生徒だった。修学旅行にも一緒に行った。同じ飛行機に乗って、マリンブルーの海を見て、史跡を巡ったり、旅館で温泉に入ったり、部屋に遊びに行ったりもしたけれど、あくまで学校行事だった。
「つー? おはよ」
創くんに近づきたかった。幼なじみでも生徒でもなく、
「着いたんなら声かけろよ」
ずっと、1人の女の子としてそばにいきたかった。
私に気づいた創くんが笑顔になって私の方に歩いてきた。前に立つと、私の頭に手をのせて、「行こうか」当たり前みたいに手を取った。
節くれだった男っぽい創くんの指。大きくて力強くて優しい音色を奏でる手。叶音ちゃんを守って叶音ちゃんを愛した跡が今も残る、創くんの手。
「今日は天気良さそうだから、ちょっと遠出しようと思って」
創くんは海が見れて、お散歩、ショッピング、イベント、夜景と贅沢に楽しめるスポットを選んでくれていた。
ずっと、この手が私に伸ばされることを願ってた。
それだけをずっとずっと夢に見ていた。
創くんが振り向いてくれるなら何でもする。創くんのためなら何だってできる。本当に本気でそう思っていた。
『創くんが好きです』
制服最後の写真は、頬に涙の痕がたくさん残っている。
創くんと手をつないだまま電車で桜木町まで揺られた。
海の街を潮風に吹かれながら歩く。
タワーや高層ビル、レンガ造りの歴史的建造物が海に映える。ショッピングモールをフラフラしてみたり、おしゃれなカフェで休憩したり、停泊している大きな船に乗ってみたり、博物館や美術館に立ち寄ったり。69階の展望フロアからは街と海をぐるりと一望出来て、はしゃいでいるうちにあっという間に時間が過ぎた。
保護者でも引率でもなく、恋人の距離で創くんが隣にいる。
中華街で肉まんを食べ歩いて、「歩き疲れたね」と笑った頃にはすっかり陽も落ち、港町の象徴的な観覧車がライトアップされていて、街の夜景がきれいに見えた。
「休憩がてら、乗るか」
観覧車に乗ると、幻想的なイルミネーションと夜の海が美しすぎて、この小さな密空間に創くんと2人だけでいることが夢なんじゃないかと思えてきた。創くん相手にこんな理想のデート、私の脳内が捏造した幻なんじゃないか。
「つぼみ、…」
隣に創くんの気配を感じて、振り返ると唇に創くんを感じた。
「好きだよ」
夢オチなんじゃないかな。
創くんの穏やかに緩んだ瞳にイルミネーションと一緒に私が映っている。
「ずっと、応えられなくてごめん」
創くんの手が頬に触れて、耳を撫でる。
「あいつのことちゃんと消化するまでは、ダメだと思ってた。中途半端な気持ちでお前に手を出すのだけはダメだって」
私を見つめる創くんの瞳がゆらゆら揺れる。
「あの時、ちゃんとお前を受け止めなかったこと、死ぬほど後悔してる。まだダメなんて、…こんなに大事だったのに。失くしてから気付くなんてバカだよな」
一瞬、自嘲気味な笑いを浮かべた創くんは、そのまま髪の間に手を差し入れると、私を引き寄せて胸に強く抱きしめた。
創くんの少し高い体温を感じる。潮風と創くんの匂いが混ざる。
少し速いテンポで動く心臓の音がする。
「つぼみが好きだよ」
創くんの低い声が、奏でるピアノのように少し切ない響きを持って耳に落ちた。
待ち合わせの駅に早めに行ったのに、もう創くんが来ていた。私を待っている創くんを見たら、何だか胸がいっぱいになって、しばらく声をかけられずに眺めてしまった。
高校生の時に、校外学習でテーマパークに行ったことがある。
創くんは引率の先生の一人で、一緒に被り物をしたり、アトラクションに乗ったり、写真を撮ったり、食べ歩いたりしたけれど、あくまで教師と生徒だった。修学旅行にも一緒に行った。同じ飛行機に乗って、マリンブルーの海を見て、史跡を巡ったり、旅館で温泉に入ったり、部屋に遊びに行ったりもしたけれど、あくまで学校行事だった。
「つー? おはよ」
創くんに近づきたかった。幼なじみでも生徒でもなく、
「着いたんなら声かけろよ」
ずっと、1人の女の子としてそばにいきたかった。
私に気づいた創くんが笑顔になって私の方に歩いてきた。前に立つと、私の頭に手をのせて、「行こうか」当たり前みたいに手を取った。
節くれだった男っぽい創くんの指。大きくて力強くて優しい音色を奏でる手。叶音ちゃんを守って叶音ちゃんを愛した跡が今も残る、創くんの手。
「今日は天気良さそうだから、ちょっと遠出しようと思って」
創くんは海が見れて、お散歩、ショッピング、イベント、夜景と贅沢に楽しめるスポットを選んでくれていた。
ずっと、この手が私に伸ばされることを願ってた。
それだけをずっとずっと夢に見ていた。
創くんが振り向いてくれるなら何でもする。創くんのためなら何だってできる。本当に本気でそう思っていた。
『創くんが好きです』
制服最後の写真は、頬に涙の痕がたくさん残っている。
創くんと手をつないだまま電車で桜木町まで揺られた。
海の街を潮風に吹かれながら歩く。
タワーや高層ビル、レンガ造りの歴史的建造物が海に映える。ショッピングモールをフラフラしてみたり、おしゃれなカフェで休憩したり、停泊している大きな船に乗ってみたり、博物館や美術館に立ち寄ったり。69階の展望フロアからは街と海をぐるりと一望出来て、はしゃいでいるうちにあっという間に時間が過ぎた。
保護者でも引率でもなく、恋人の距離で創くんが隣にいる。
中華街で肉まんを食べ歩いて、「歩き疲れたね」と笑った頃にはすっかり陽も落ち、港町の象徴的な観覧車がライトアップされていて、街の夜景がきれいに見えた。
「休憩がてら、乗るか」
観覧車に乗ると、幻想的なイルミネーションと夜の海が美しすぎて、この小さな密空間に創くんと2人だけでいることが夢なんじゃないかと思えてきた。創くん相手にこんな理想のデート、私の脳内が捏造した幻なんじゃないか。
「つぼみ、…」
隣に創くんの気配を感じて、振り返ると唇に創くんを感じた。
「好きだよ」
夢オチなんじゃないかな。
創くんの穏やかに緩んだ瞳にイルミネーションと一緒に私が映っている。
「ずっと、応えられなくてごめん」
創くんの手が頬に触れて、耳を撫でる。
「あいつのことちゃんと消化するまでは、ダメだと思ってた。中途半端な気持ちでお前に手を出すのだけはダメだって」
私を見つめる創くんの瞳がゆらゆら揺れる。
「あの時、ちゃんとお前を受け止めなかったこと、死ぬほど後悔してる。まだダメなんて、…こんなに大事だったのに。失くしてから気付くなんてバカだよな」
一瞬、自嘲気味な笑いを浮かべた創くんは、そのまま髪の間に手を差し入れると、私を引き寄せて胸に強く抱きしめた。
創くんの少し高い体温を感じる。潮風と創くんの匂いが混ざる。
少し速いテンポで動く心臓の音がする。
「つぼみが好きだよ」
創くんの低い声が、奏でるピアノのように少し切ない響きを持って耳に落ちた。
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